キスして抱きしめて
インターンに一度行って以来、呼ばれることがなく数日が経った。今日ようやく呼ばれてナイトアイの事務所に行くことになった。だけどコスチュームはいらないって言われた。もしかして、やっぱりインターン取り消しとか言われちゃうのかな。少し不安になりながら寮の外に出たら、切島くんが居た。
「緑谷ァ!!おはよ!!おまえも今日行くんだ!?キグーだな!」
「おはよ!切島くんも今日なんだね!しばらく呼ばれなくってやっと今日だよ。コスチュームないらないって言われたけど・・・」
「あれー!?おはよー!!二人も今日!?」
後ろから麗日さんと梅雨ちゃんもやって来た。二人も今日なんだ。駅に向かって歩いてる途中で何人かのプロヒーローに出会って、駅まで送ってくれた。
切島くんは関西方面なはずなのに、私と同じ電車に乗っている。いつもと集合場所が違うらしい。話をしてたら、全員同じ駅で降りることが判明した。下りてからも向かう方向は同じ。曲がる角も同じ。しかも、ビッグスリーも揃ってナイトアイの事務所のドアをくぐった。
2階の大会議室へ入ると大勢のプロヒーロー達が集結している。しかも、グラントリノや相澤先生もいた。
・・・一体何事??
ナイトアイが人数が揃ったのを確認して説明をし始めた。死穢八斎會の件について。私は死穢八斎會と聞いてエリちゃんを思い出して胸が苦しくなった。敵連合と死穢八斎會が接触したとの情報があったらしい。連合が関わってるからグラントリノにも声がかかったのか。
「小娘。まさかこうなるとは思わなんだ・・・面倒なことに引き入れちまったな・・・」
「面倒なんて思ってないです!」
グラントリノに声をかけられたのをみて、通形先輩が知り合いなのかと聞いて来た。職場体験の時にお世話になったヒーローだと小声で伝えた。
ヒーローネットワーク、通称HNにて協力を呼びかけ、賛同したヒーローがここに集まったという訳なのか。
集まったヒーローの一人、ロックロックに雄英生がいることに不快感を示されて、シュンとしていたら、丸くて大きなファットガムが勢いよく立ち上がった。
「ぬかせ!この二人はスーパー重要参考人やぞ」
そう言って、天喰先輩と切島くんの方へと片手を伸ばした。ファットガムは丸っこくて可愛いヒーローだ。
「とりあえず初対面の方も多い思いますんで!ファットガムです。よろしくね!」
「丸くてカワイイ」
「お!アメやろーな!」
先日の切島くんのヒーローデビュー戦で天喰先輩に打ち込まれた銃弾、それは"個性を壊すクスリ"だった。切島くんの硬化で弾いたお陰でようやく手に入った銃弾を調べた結果、中には人の血液や細胞が入っていたらしい。
つまり、その銃弾は人の個性由来のもので、個性による個性破壊ということになる。死穢八斎會の若頭の治崎の個性が、一度分解して治す個性。そして個性を壊す人の細胞が詰まった弾。治崎の娘エリちゃんの尋常じゃない怪我。私の中で点と点が線で結びついた。
私と通形先輩は俯いた。あの時助けていれば・・・
「治崎には娘がいる・・・出生届もなく詳細は不明ですがこの二人が遭遇した時は手足に夥しく包帯が巻かれていた」
「まさか・・・そんなおぞましい事・・・」
「超人社会だ。やろうと思えば誰もが何だってできちまう」
「何?何の話ッスか・・・!?」
「やっぱガキはいらねーんじゃねーの?わかれよな・・・つまり、娘の身体を銃弾にして捌いてんじゃね?って事だ」
切島くんの頭には疑問符が浮かんでいるようだ。それも仕方ない。突然の話な上に展開が早いもの。
それからも話は進んでいるが、エリちゃんのことで頭がいっぱいだ。何が最高のヒーローだ。それは通形先輩も同じ思いだろう。
「「今度こそ必ずエリちゃんを、保護する!!」」
「それが私たちの目的になります」
本拠地にエリちゃんがいる確証がないため、全国のヒーローが各自のエリアで拠点となり得るポイントを絞り出すのが今回の計画の肝になる。オールマイトのようにはできないから、分析と予測を重ね救けられる可能性を100%に近づけるのだとナイトアイは言った。
ナイトアイの個性で予測すればいいと声があがるが、ナイトアイは出来ないと言った。確かに自分が未来予知した人物に近い将来、無慈悲な死が待ち受けいたらどうするだろう。必死でその人を死の現場から遠ざけるに違いない。ナイトアイはオールマイトの未来予知をしてしまったこと後悔してるんだろうな、きっと。
ロックロックが自分の未来を予知しろと言っても、ナイトアイはそれを行動の成功率を最大まで引き上げた後に勝利のダメ押しとして使うべきだと拒否した。
「とりあえずやりましょう。困ってる子がいる。これが最も重要よ」
「娘の居場所の特定・保護。可能な限り、確度を高め早期解決を目指します。ご協力よろしくお願いします」
ナイトアイが頭を下げた。それから詳細の配布をバブルガールがしていた。私たち雄英生はロビーのテーブルのところでインターン先のヒーローが出でくるのを待っていた。その間にエリちゃんとの遭遇、救けられなかったことを皆に話した。悔しい。
シュンと項垂れてる私たちを見て相澤先生が「通夜でもしてんのか」と声をかけてきた。
「先生!」
「あ、学外ではイレイザーヘッドで通せ。いやァしかし・・・今日はおまえたちのインターン中止を提言する予定だったんだがなァ」
「ええ!?今更なんで!!」
「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。話は変わってくる。ただなァ・・・緑谷。おまえはまだ俺の信頼を取り戻せて居ないんだよ。爆豪とケンカしたしな」
ハッとして相澤先生を見た。先生は私の目線に合わせるようにしゃがみこんだ。
「よいしょっと。残念なことにここで止めたらおまえはまた飛び出してしまうと俺は確信してしまった。俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう緑谷。わかったか問題児」
そう言って先生は私の肩に手を置いた。
「気休めを言う。掴み損ねたその手はエリちゃんにとって必ずしも絶望だったとは限らない。前向いていこう」
そう言って立ち上がった先生に続いてわたしも椅子から立ち上がった。
「はい!!!!」
「とは言ってもだ。プロと同等かそれ以上の実力を持つビッグスリーはともかく、おまえたちの役割は薄いと思う。蛙吹、麗日、切島おまえたちは自分の意志でここにいるわけでもない。どうしたい?」
「先・・・っイレイザーヘッド!あんな話聞かされてもうやめときましょとはいきません!!」
「イレイザーがダメと言わないのなら・・・お力添えさせてほしいわ。小さな女の子を傷つけるなんて許せないもの」
「俺らの力が少しでもその子の為ンなるなら、やるぜ!イレイザーヘッド!!」
「意志確認をしたかった。わかってるならいい。今回はあくまでエリちゃんという子の保護が目的。それ以上は踏み込まない。一番の懸念である敵連合の影。警察やナイトアイらの見解では良好な協力関係はないとして・・・今回のガサ入れで奴らも同じ場所にいる可能性は低いと見ている。だが万一見当違いで、連合にまで目的が及ぶ場合はそこまでだ」
「了解です!!!」
エリちゃんの居場所が特定できるまで私たちは待機となった。またインターンに関しては一切の口外を禁止された。そのせいでかっちゃんに何を聞かれても答えられなくて、キレられた。それでも話すことはできないものはできない。「かっちゃんにも話せないの」と言ったらベッドに押し倒されて首を何度も噛まれてしまった。
「うう、かっちゃん痛い」
「前にも言っただろ。痛くしてんだよバカ」
だけど、かっちゃんは噛んだところを優しく触るから痛みは溶けていく。だけど何も教えられないもどかしさが喉元で詰まって苦しくなる。そんな私をみてかっちゃんは優しく頭を抱えるように腕の中に閉じ込めた。
私だけじゃなくて、あの場にいた皆が作戦に加わる。皆がエリちゃん保護に奮い立つ一方で、入れ替わるように私の心にのしかかってくる事。とてもナイトアイにきける雰囲気じゃなかった。オールマイトの未来予知のこと。
インターンが口外禁止になって、オールマイト本人には相談できない。かっちゃんや麗日さんたちに話すこともできない。エリちゃんのこと、オールマイトのこと、どちらも重すぎる。今はとにかくエリちゃん保護に向けて全力で臨まなくては。
この時、私の心はかっちゃんのお陰でなんとかギリギリを保って居たんだと思う。
食堂で飯田くんと轟くんに大丈夫かと声をかけられた。そこでとうとう私の心がキャパオーバーして、のしかかった重圧に耐えきれず涙が溢れ出した。
「"本当にどうしようもなくなったら言ってくれ友だちだろ"いつかの愚かな僕に君がかけてくれた言葉さ!職場体験の前の・・・」
「うっ、うぅ・・・」
「え!?オイ!?緑谷くん!?」
「ご、ごめん!大丈夫、なんでもない・・・」
話すことはできないけど、でもありがとう、飯田くん、轟くん。
「ヒーローは・・・泣かない!!」
涙を拭いてご飯をかっこんでたら、ヒーローでも泣く時は泣くだろって轟くんに突っ込まれた。それから、二人はお蕎麦やビーフシチューを分けようとしてくれた。だけど二人の優しさでお腹いっぱいになったから丁重にお断りした。
食堂で泣いたその日の晩、かっちゃんが私の部屋にやってきた。
「おい、なまえ、今日泣いてただろ」
「え、え!?見てたの?!や、泣いてなんか」
「嘘つけ。てめェはほんと昔から泣き虫だな。こっち来い」
かっちゃんに包まれるような感覚にもうすっかり慣れて居心地が良い。頭を撫でるかっちゃんの顔を見つめていたらなんだか甘い雰囲気になってきて、少し緊張してかっちゃんのTシャツをキュッと掴んだ。かっちゃんの顔が近づいてきて、目を閉じた。唇が重なって、何度も感触を確かめるかのように近づいては離れていく。
うっすらと開いた唇からかっちゃんの舌が入ってきて口の中を蠢いている。上顎や歯列をなぞられ、鳥肌が立った。その間に手でやわやわと耳たぶを触られている。舌を絡め取られて、逃げようとするが吸われてしまい、じゅぷじゅぷと音を立てて舌が絡まり合う。
二度目の経験だけれど、全然慣れなくて苦しくなってかっちゃんの胸を押した。それでも、かっちゃんは執拗に舌で口内をなぞった。ようやく離れたときには、私は息が上がっていて、呼吸をするのがやっとだった。
「か、かっちゃん」
「・・・」
「なんか、なんか、それ身体が熱くなってお腹の奥がキュッてなってヘンになっちゃう」
「!!」
強く抱きしめられたせいで、ぐえって声が出て二人で顔を見合わせてて小さく笑った。
「泣くなら俺ンとこで泣け。他で泣くなよ、バカなまえ・・・」
「うん・・・かっちゃん、ありがと」
「あー、もう限界きそう」
かっちゃんが天井を仰ぎ見て小さく呟いた。なんだか辛そうな顔を見ることが増えた気がする。大丈夫かな・・・
「・・・限界?」
「てめェは気にすんな」
そう言ってかっちゃんは私の頭を自分の胸に押し付けた。落ち着くなぁ、かっちゃんの匂い。ずっとこうしていたいな。
かっちゃんにも話せたらいいのに、胸の内全てを。エリちゃんのこと、オールマイトのこと全て。何も言わない私に思うところはあるんだろうけど、絶対言わないってのが分かってからは無理に聞き出そうとはしなくなった。なんだかんだかっちゃんは優しい。そんなところも好きだ。ちょっと泣きそうになって、鼻をすすった。それに気がついたかっちゃんにベッドに連れて行かれて、甘くとろけるような口付けを何度もされた。かっちゃんの熱で溶けて一つになってしまうかのようだった。離れた時には茹だって私は酸欠で頭がぼんやりしていた。
かっちゃんと少しでもくっついていたくて、しがみついたら、顎を持ち上げられてまた唇に触れるだけのキスをされた。ニコリと微笑んだら頬をつねられた。え、なんで・・・?
「なまえ落ち着いたかよ」
「あ、うん。かっちゃんのおかげで大分心が軽くなったよ、ありがと」
そのままかっちゃんの腕の中で寝たのだけど、翌朝アラームにも全く気づかず二人して寝坊して相澤先生に怒られてしまった。
だって寝心地良いんだもん。かっちゃんの腕の中。
心の中でそう言い訳をした。