合格発表と失敗した仲直り
帰宅して着替えもせずにベッドにダイブする。かっちゃんのジャージ、当たり前だけどかっちゃんの匂いがする。懐かしい匂いだな、落ち着く。洗濯して返さないと。この日、かっちゃんのジャージを抱きしめてそのまま寝てしまった。
散々だった受験が終わって一週間。ついでにオールマイトと連絡がつかなくなってから一週間。私は以前より泣き虫でノロマで愚図なところが、より一層悪化してポンコツになっていた。筆記は自己採点で割と高得点だったけど、それを帳消しにする圧倒的0ポイント。
落ちた、落ちた、落ちた。
そればかりが頭の中を支配していて日常生活もままならない。滑り止めに私立のヒーロー科受験したけど、やっぱ行きたいのは雄英高校だ。
母に、なに魚と微笑みあってんの!?と心配される始末。そんな私を気遣って雄英を受験するってだけでも凄いことだよと励ましてくれる。
それに、あれからかっちゃんとも上手く話せていない。洗濯したジャージを渡そうと学校で何度か試みたが、みんなの前でブチ切れられ渡せずにいる。それも今の私をポンコツ化する要因の一つな気がする。
オールマイトのことは母にも言っていない。彼の重大な秘密だもの。例え家族だろうとバラしていいはずがない。オールマイトごめんなさい。
母が大きな声でリビングへ入ってきた。その手には合否通知。遂にこの時がきた。
私はソワソワする母を置いて、自室で開封した。一緒に見ないのは泣き崩れる私を見せたくないから。ごめんね、お母さん。
ビリっと破いて開封すると、何かがコロンと落ちた。投影機だった。オールマイトの声がする。
『私が投影された!!!』
えっ、オールマイト!?雄英高校からの手紙にオールマイト!?どう言うこと?
『諸々手続きに時間かかって連絡とれなくてね。いや、すまない!!』
オールマイトは雄英高校に勤務するためにこの街にやってきたらしい。そうだったの!?
『筆記は何の問題もなくパスしている。実技は0ポイント。当然不合格だ』
やっぱりね・・・分かってたけど改めて突きつけられると辛いな。オールマイトも一生懸命教えてたのに不合格っていうの辛いよねきっと。
『それだけならね!!私もエンターテイナー!こちらのVTRをどうぞ!!』
そこには受験のときの可愛い女の子が映っていた。受験終了後すぐに直談判しに行ったらしい。自分のせいでロスした分だけでもポイントを分けれないかと頼み込んでくれている。入試で見ていたのは敵ポイントだけではなかったと言うオールマイト。ヒーローは命を賭して綺麗事を実践するお仕事。レスキューポイントというのも加算されていたらしい。
『緑谷なまえ60ポイント!!ついでに麗日お茶子45ポイント!!合格だってさ』
ムチャクチャだ。だけど、嬉しい!心の底から嬉しいよ!!!正しいと自分の心の思うままに動いて良かった。
『来いよ、緑谷少女。雄英が君のヒーローアカデミアだ!』
「っっはい!!!」
その後、泣きながら合格したと伝えると、お母さんも泣き出して二人して大泣きしながら抱きしめ合った。お母さんがご褒美に私の大好きなケーキを買ってきてくれた。
合格通知の翌日午後8時。私がせっせとゴミを運んで綺麗にした多古場海浜公園に呼び出された。実はこの海岸、綺麗になっているのことに誰かが気がついて新聞記事にもなっていた。少しだけ誇らしい。
オールマイトの姿がみえて、思わず遠くから大きな声で名前を呼んでしまった。オールマイトが人違いでしたって言えと慌てている。周りの人たち勘違いさせちゃってごめんなさい。
オールマイトが両手を広げて待ってくれているので、腕の中に勢いよく飛び込んだ。その衝撃でオールマイトは血を吐いた。頭を撫でられて、私はふにゃりと笑った。オールマイトが「合格おめでとう」と言って、軽快な音を立ててハイタッチをした。
学校には、私との接点は伝えてなかったらしい。わたしがズルだとかで気にするタイプだと分かってたと。さすがオールマイト。
「オールマイトが雄英の先生だなんて驚いちゃいました!だからこっちに来てたんですね。だってオールマイトの事務所は東京都港区六本木6-12-「やめなさい」
オールマイトが被せるように制止した。オールマイトにワン・フォー・オールを使いこなせないと言うと、すぐには無理だと言われる。それもそうだ。今はまだ0か100の状態。器を鍛えるしかない。まだまだ入学まで時間がある!鍛えておかないと!
オールマイトは入学までも個性のトレーニングに付き合うと約束してくれた。私、本当に恵まれてると思う。憧れのヒーローにここまでしてもらえるなんて。
後日、中学校に合格を伝えに行った。職員室にはかっちゃんも来ていた。かっちゃんはもちろん余裕で合格。かっちゃんも先生も私は落ちたと思ってたらしい。合格したと恐る恐る伝えると二人は驚いた顔をしていた。
「特に緑谷は奇跡中の奇跡だなぁ!」
先生は「うちから二人も雄英高校進学者が出るなんて誇らしいよ」と朗らかに笑った。
職員室を出ると、問答無用でかっちゃんに腕を引っ張られて人気のない校舎裏へ連れて行かれた。かっちゃん、この中学から唯一の雄英高校進学者になりたいって言ってな、そう言えば。
かっちゃんは、わたしの胸ぐらを掴んで壁に押しつけてきた。怖くて目を瞑ってしまう。
「どんな汚え手使やあ、てめェが受かるんだ!!あ!!?」
「っ・・・!!」
「史上初!唯一の!雄英高校進学者!俺の将来設計がズタボロだよ!他行けっつったろーが!!馬鹿」
かっちゃんにいつまでも怯えてちゃ駄目だ。顔を上げでかっちゃんを真っ直ぐ見つめ、私を掴んでる手にそっと触れた。少しだけ、かっちゃんの力が弱まった。
「いっ、言ってもらったの!"君はヒーローになれる"って!かっちゃん、私"勝ち取った"んだって・・・!だ、だから、私は行くの!!」
かっちゃんは合格決まってから個性を他人へ向かって使うのはやめている。使ってるのがバレたら合格取り消しになるからだ。
だから、今は個性を使って爆破されることはない。強く言ったってきっと物理的に殴られるくらいだろう。それなら大丈夫。私も強くなったんだから。鋭い目線をしていたかっちゃんは、私の強い意志に気づいたのか諦めたような顔つきになって何もせず手を離して行ってしまった。
あ、またジャージ返しそびれた。
そんなことがあって会うのが怖いけど借りたものはちゃんと返さなくちゃ。家に帰って、私服に着替えた。短めのスカートにオーバーサイズのニット。変じゃないよね・・・?
昨晩母に教わりながら作ったスノーボールクッキー。苦戦したけど、なんとか出来上がった。味も問題ないはず。透明の袋に入れ赤いリボンでラッピングした。かっちゃん甘いの平気かな?
ジャージとクッキーを入れた紙袋を持って、爆豪家の前で私は30分はインターホンを押せずにいた。あたふたしていると、かっちゃんのお母さんが買い物から帰ってきて声をかけられた。
「あら、なまえちゃん、久しぶり!随分と髪の毛も伸びてすっかり女の子になったのね!どうしたの?勝己に用事?まだ帰ってこないと思うから上がって上がって!」
「え、あ、あの」
「ほらほら、寒いから上がった上がった!」
かっちゃんのお母さんの勢いに負けて、お邪魔してしまった。かっちゃんのお母さん達の分のクッキーも準備してて良かった!
ソファにちょんと座っていると、お母さんがお茶とさっき渡したスノーボールクッキーがお皿に乗せられている。
「随分と可愛い女の子がいるなと思ったらなまえちゃんだったなんて。あの子も隅に置けないわね!」
「や、ちがうんです。そんなんじゃなくて。えと、はい」
「え、違うのー?なーに、あの子奥手なわけ?」
「いや、かっちゃんにそんな気なんて無いですよ全く」
「そうかしら。なまえちゃんは?なまえちゃんはうちの子どうなの?」
「え、あの!そんな!や!私なんかが!かっちゃんを!?あのあの」
かっちゃんのお母さんは慌てふためく私をみてふふと笑みをこぼした。雄英高校に受かったというと、すごく喜んでくれた。一緒に登校できるわねとはしゃいでいる。かっちゃんは絶対一緒に登校なんてしてくれないと思う。
しばらく話していると、かっちゃんが帰ってきた音がした。緊張して身体が強張る。かっちゃんは玄関の私の靴に気が付いたらしく、割と静かにリビングに入ってきた。
「勝己、なまえちゃん来てるよ!2階に案内してやんなさい」
私と目が合うとキレ気味に近づいてきて手を引っ張られて2階のかっちゃんの部屋にぶち込まれた。何もない床につまづいて転んだ。鈍臭すぎる。
「いたっ!」
「なまえてめェ何俺の家でくつろいでんだよ」
相変わらず理不尽だなぁと思っているとかっちゃんの視線を感じる。かっちゃんの視線を辿ると、スカート辺りを見てる。そんな私のスカート姿そんな変かな。
「かっちゃんのお母さんが、上がって待っててって言うからお言葉に甘えてお邪魔させてもらったの。あ、あの服ヘンかな?」
「・・・何しにきた」
話が全然噛み合ってない。かっちゃんの部屋に連れていかれるとき、咄嗟に床に置いていた紙袋を掴んで正解だった。手に持っていた紙袋を差し出す。
「こ、これ返しに来たの。貸してくれてありがとう。かっちゃんのジャージ、かっちゃんの匂いがして懐かしくなっちゃった」
「そうかよ」
「あ、ちゃんと洗濯してあるから、綺麗だよ?」
「んなこたァ、わかってんだよ。てめェはいつまで突っ立ってんだよ。さっさと座れ馬鹿」
「は、はい!」
座るって言ってもどこに?隅っこに座ったら、かっちゃんを避けてるみたいだし・・・
分かんなくなってかっちゃんの座るベッドの横に少し距離を置いて腰掛けてみた。はぁと大きめのため息が隣から聞こえてきた。え、私間違えた?立ち上がろうとしたらかっちゃんに手を引っ張られてまた座らされた。さっきよりもかっちゃんと近くなった。かっちゃんの部屋は男の子って感じの部屋だけど、綺麗に片付けてある。
「あの・・・かっちゃんの将来設計を邪魔してごめんね」
「・・・それなら今からでも入学辞退してもいいんだぜ?」
「そっ!それは、いや」
「じゃ一発殴らせろ」
「ぇえ!?そ、それも、やだ!」
かっちゃんが指の関節をボキボキと音を鳴らしている。理不尽すぎる。
「目ェつぶって歯ァ食いしばれ!」
かっちゃんが右手を大きく振りかぶった。怖くて目をギュッと閉じる。身体が震えてしまう。けれどもいつまで経っても衝撃はやってこなくて、唇に何かが触れた。その後も目をつぶっていたけどかっちゃんの拳は飛んでこない。恐る恐る目を開けると、かっちゃんが呆れた顔してこっちを見てた。
「バーカ」
かっちゃんはデコピンして、小さく笑った。だ、騙された!カーッと耳が熱くなった。かっちゃん、学校と違って二人きりだと結構落ち着いて喋れるんだな。この機会に仲直りできたりしないかな?
「かっちゃん、わ、私たちまた小さい頃みたいに仲良くなれないかな?高校もまた同じだし」
言ってるうちに顔がどんどん熱くなるのが分かる。かっちゃんの目を見れなくて俯いて言う。
「・・・無理だろ」
だよね。やっぱりそうだよね。ショックで涙が出そう。いや、泣いちゃダメだ。ますますかっちゃんにウザがられるだけだ。
「そ、そうだよね。ごめんね」
慌てて立ち上がって部屋を出る。かっちゃんが私を呼ぶ声が聞こえたけど、振り切って階段を駆け降りた。
かっちゃんのお母さんにお邪魔しましたと声をかけて走って家まで帰った。
私なんかが仲良くしたいだなんて、おこがましいよね。お母さんが、かっちゃんに渡せた?と聞いてきたけど、頷くしかできなかった。自分の部屋の枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。
明日目が腫れちゃうな。