よみがえった過去の夢
私の起床時間は寮に入ってから早くなったと思う。実家では母が起こしてくれていたが、ここでは自分で起きないといけないのでアラームを早めにセットしている。重たい瞼を擦りながらスマホを見たら起きる予定の時間よりも少し早かった。きっとかっちゃんの謹慎期間が明けて今日から一緒に登校できるからだ。
まずは起きたら身だしなみを整えていく。準備できたので一階へ降りるとかっちゃんがすでに起きてきていた。意外とかっちゃんは早起きするタイプで、どちらかというと私の方がよく寝坊するタイプ。入学初日も寝坊してギリギリだったくらいだし。
「おはよぉ、かっちゃん早いね」
「てめェがおせぇんだろ」
「ネクタイお願いします」
「こっち来い」
寮に入ってから八百万さんや麗日さんにネクタイを締めてもらってたら、かっちゃんが怒ってそれ以来ずっとかっちゃんにしてもらっていたのだけど昨日は私一人謹慎が明けてしまうので、頼みにくくてなまえ流ノットで学校へ行ったわけなのだが今日は晴れてかっちゃんも謹慎が明けて学業復帰する。よって今日からネクタイはかっちゃんにしてもらうつもりだ。かっちゃんのそばに行くとグイッと引っ張られて一気に距離が縮まった。かっちゃんの顔を見るのが恥ずかしくなってきて、ちょっと目を逸らした。スルスルとネクタイを器用に締めていくかっちゃんはカッコいい。これは私だけが知ってるであろうかっちゃんのカッコ良さだから、ちょっとばかし優越感に浸れる瞬間だ。綺麗な結び目のネクタイがすぐに完成する。お礼を言うとかっちゃんは目を細めて前髪あたりを撫でてきた。途端に昨日押し倒されたことを思い出してしまった。枕を押しつけて脱兎の如く走って逃げてしまったけれど、かっちゃん怒ってなさそう。良かった。
遠くでカタリと音がしてびっくりしてかっちゃんの服を掴んだ。音がする方からこそこそと話し声が聞こえてきて、かっちゃんはキレながら走って行ってしまった。曲がり角で大きな爆発が起こってしばらくしたら、そこからちょっと焦げてる瀬呂くんと切島くん、芦戸さんが出てきた。皆若干焦げてるのにすっごい破顔していて、そのアンバランスさがちょっと怖い。
「緑谷幸せそうだな」
「いや、この場合爆豪のが幸せなんだろ」
「なまえちゃん、ネクタイいつも爆豪にしてもらってたんだ!?ヤオモモか麗日がしてるのかと思ってたよ」
その言葉で先程の様子を見られてたと知る。非常に恥ずかしい。この年にもなってネクタイすらできないって思われてるよね!?どう言い訳すればいいかわからなくて、困って曖昧に微笑んでたら三人は「この笑顔は爆豪が死ぬぞ!」って叫び出した。朝からテンション高すぎて怖い。キレ顔のかっちゃんに手を引っ張られて食堂へと連れて行かれた。
来た者から順に朝ごはんを食べていく。かっちゃんと私は朝はご飯派。それぞれ自分の茶碗に白米をよそって運んで席に着く。時々母の味が恋しくなるけども、こんな美味しいの毎日食べられるなんて幸せなことだよね。食べ終わって手を合わせていたら、かっちゃんに引きずられるように寮から出た。私たちが一番に寮を出たようで教室には二人だけだ。
「なまえ」
「な、なに?」
「明日からは朝俺の部屋来い」
「なんで?」
「ネクタイ」
「あ、ああ!そうだよね、今日見られちゃって私の不器用さがまたバレちゃった。明日からは朝かっちゃんの部屋に行くね」
ネクタイを触りながらそう言うとかっちゃんはそっぽを向いた。
今日はインターンの説明をより詳しくしてもらうことになっている。けれどかっちゃんは仮免を取得できていないためインターンにはまだ行くことができない。
「1年生のヒーローインターンですが、昨日協議した結果校長をはじめ多くの先生が“やめとけ“と言う意見だった」
「ざまァ!!」
「が、今の保護下方針では強いヒーローは育たないと言う意見もあり方針としてインターン受け入れの実績が多い事務所に限り1年生の実施を許可すると言う結論に至った」
「チッ!!クソが!!」
かっちゃんの合いの手の変わりように苦笑いしてしまった。
私は昨日のグラントリノの電話で教えて頂いた元サイドキックであるサー・ナイトアイをインターン先としてオールマイトに紹介してもらおうと決意を固めた。早速休み時間に職員室にいるオールマイトの元へ行き頭を下げた。
「お願いします!!」
「断りマス」
「・・・・!」
「意地悪で言ってるんじゃないぞ。理由は3つ。1つ、私は昨日の会議で反対派だ。敵の活性化を考えると1年生は少なくとも今じゃなくていいと思う。2つ、シュートスタイルの強化をしてからでもいいと思う。3つ、訳あって気マズイ・・・」
「私情かよオールマイト!!!」
後ろで他の先生方がやいのやいのオールマイトの言葉に賛同したり否定的だったりと様々な反応をしていた。
「かっちゃんにレール敷いてもらっといて敗けんなって言われたんです。私の“個性“はオールマイトによく似ています。ナイトアイの下でならあなたとの比較になると思うんです。私は他の人の何倍も強くならなきゃいけないんです」
そう言ってもう一度頭を下げた。けれども、やはり紹介はできないと言われてしまった。肩を落としてシュンとしたら、「私からはってことだ」とオールマイトは慌てて訂正していた。放課後に仮眠室に来るよう小声で言われた。
そして現在、通形先輩とともにオールマイトの仮眠室に呼ばれて、ソファに並んで座っている。通形先輩はオールマイトを目の前にしてテンションが上がっているようだ。
「あの・・・状況がよく掴めないんですけど」
「奇遇。実は俺もなんだよね緑谷さん」
オールマイトは私たちを見て静かに口を開いた。
「通形少年は現在ナイトアイの下でヒーローインターンを行なっている」
「本当ですか通形先輩!!」
「もう一年は継続してもらってるんだよね!」
てことは卒業後はサイドキック入り確定だ。もう就職先が決まってるようなもんだ。すごいうなあ。
「通形少年から見て、緑谷少女はナイトアイの下で働けると思うかい?」
「ん・・・なる程話ってのはそういう事ですね!緑谷さんをサーに紹介してやれと!!」
通形先輩が私の肩にガシッと力強く腕を回してきた。
「しかし何で俺をクッションに?オールマイトから直接言えば喜びますよ。いつも動画眺めていますし」
「・・・正直合わせる顔がない。私は結局彼の忠告通りになっているからね」
「・・・?」
「で!どうだろうか緑谷少女は」
「そうですね・・・じゃあ君はどういうヒーローになりたい?」
入学してから今日まで短い期間だったけど色んなことを経験した。経験すればするほどいかに難しい道なのか分かった。だから私は強くならなきゃいけないんだ。
「どんなに困ってる人でも笑顔で、誰にも心配させることのないくらい、必ず勝って必ず救ける・・・最高のヒーローです」
「めちゃくちゃな目標だね・・・断る理由ないしいいよ」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
「ああ!元々サーが好きそうと思ってた」
「本当ですか!?うわぁあ!」
通形先輩の手を握ってお礼を言うと先輩は頭を掻いてニカッと眩しい笑顔を見せた。
それからしばらくオールマイトを含めておしゃべりに興じていた。
週末にサー・ナイトアイの事務所に連れて行ってくれると通形先輩は約束してくれた。嬉しくて、寮に帰って麗日さんに週末に通形先輩と二人でナイトアイの事務所に行くことを報告した。それを聞いていたかっちゃんが鬼の形相でやってきて、かっちゃんの部屋に連れ去られた。部屋には入ったと思ったらドアに押し付けられた。かっちゃんが首筋に強く吸い付いてきて、パッと離れた。びっくりして固まっていたらかっちゃんが耳元で囁いた。
「なまえ」
「っ!」
かっちゃんの声がすぐ近くで聞こえてきて、身体中に電気が走るような感覚に陥る。好きだって気持ちが強くなってかっちゃんにしがみついた。かっちゃんも私を腕の中に閉じ込めるように抱きしめてきた。こうやってるとお互いの熱で溶けてしまいそうだ。
「かっちゃん、怒ってる?」
「怒ってねえけど」
「けど?」
「ムカついてる」
「え、それって怒ってるんじゃん」
「黙れ」
「何で怒ってるか教えてくれなきゃ分かんない」
「は?教える訳ねえだろ」
「ええええ、教えてよ。改善しようにも理由がわかんないとできないよ。ね?教えて?」
かっちゃんは目を吊り上げて、抱きしめる力を強めた。
「なまえは俺だけを見てろ」
「・・・見てるよ?」
「ちげぇよバカ!物理的なもんじゃねえよ」
「ん??」
「はぁ・・・もういいわ」
「かっちゃん待って。まだギュッてしてて、離れたくない・・・明日からかっちゃんも仮免講習でいないんでしょ?会えなくなるしまだこうしてたい」
「・・・」
かっちゃんに肩に担がれるように身体を持ち上げられて、ベッドに運ばれた。放り投げられてかっちゃんが上から覆い被さってきた。制服のままだからスカートが捲れていないか心配になってソワソワしてたら足の間にかっちゃんの身体が入ってきた。もう完全にスカートとかどうでも良くなった。この体勢なんか恥ずかしい。身を捩ったらかっちゃんの足が私の足の付け根に触れてビクッとしてしまった。うう、なにこの感じ。どうしたらいいのか分からない。昨日は逃げてしまったけど、今日は離れたくないって自ら吐露した訳だし、今更逃げ出せない。
「かっちゃん・・・」
かっちゃんはなにも言わずただ私をじっと見つめているだけだ。それから、かっちゃんは私の頬をひとしきり触って、隣に並ぶように横になった。天井を見つめるかっちゃんはなんか苦しそうにしている。何でだろ。
「か、かっちゃん身体しんどいの?」
「しゃべんな」
「ひ、ひどい!心配してるのに・・・」
「てめェのせいでこうなってんだろうが、バカか」
「!!??ど、どういうこと・・・?」
「こういうことだ」
そう言ってかっちゃんは私の顔を掴んで、乱暴に唇を頬にぶつけてきた。かっちゃんの顔は真っ赤で、つられて私まで赤面してしまう。
ええ、どういうことですか!?
分からないけれど、恥ずかしくて顔を見られたくなくてかっちゃんにくっついた。くっついてるうちにポカポカしてきて気がついたら二人して電気をつけたまま制服で寝てしまっていた。
温かくて幸せな夢を見た。幼い頃の私とかっちゃん。公園の遊具の下で二人で指切りして約束をしていた。
“なまえ、大きくなったらかっちゃんのお嫁さんになりたいな"
"いいぜ、約束だからな!絶対忘れんなよ"
そういえば幼い頃、そんなことを話していた気もする。なんで忘れてたんだろ。ヒーローになることだけが私の夢だとばかり思ってた。きっとこの後くらいにオールマイトにどっぷりハマって、ヒーローになる夢ばかり追いかけていた気がする。
起き上がるとかっちゃんの部屋だってことに気付いて寝ているかっちゃんに布団をかけた。制服のまま寝てしまってたからシワになってる。何気に今日の授業での個性の特訓疲れたもんね。リモコンで部屋の電気を消した。またかっちゃんの隣にゴロンと横になって、寝てるかっちゃんの髪を撫でた。
私の夢そういえば二つあったんだ。今こうしてかっちゃんのそばにいて、ヒーローになるという夢の切符を手につかんだ。これ以上ない幸せだ。
・・・・・・あれ、でも待てよ。それっぽいことは言われたけれど、かっちゃんに好きだって直接言われた訳じゃないことに気づいてしまった。いやいや、好きでもない人にキスしないよね、多分。多分・・・ほんの少し不安になって、私はかっちゃんのベッドから抜け出して自分の部屋へ戻った。
シャワーも浴びて着替えなきゃ。
このほんの少しの不安が、後に大きなものになって波乱を巻き起こすなんてこの時はちっとも想像していなかった。