雄英のビッグスリー
皆に取り残されていく焦りの中かっちゃんと一緒に勉強と自主トレ、昼食作りに励んだ。私の中に知らぬ間に芽吹いていた恋心に気づいてしまってからかっちゃんのことを意識してしまって挙動不審になっていた。かっちゃんが物を取ろうと立ち上がっただけでビクッとする私の様子に気づいたのか触れることすらしなくなり、一定の距離感を保ってくれていた。だけどそれはそれで寂しい。そんな自分のわがままっぷりに少し呆れてしまう。
頬にキスされたことを思いだしては身体中がカーッと熱くなって、大声で叫びだしたい衝動に駆られていた。そんな謹慎期間も今日で最後。
謹慎期間三日目の晩にしてようやく相澤先生に呼び出されて、反省文を提出した。私の書いた原稿用紙10枚にも渡る超大作な反省文を読みながら先生は吹き出していた。ひどい。一生懸命反省して書いたのに・・・
「緑谷、今後は夜中に寮を抜け出して喧嘩なんかするんじゃねえぞ。お前らほんっと素直じゃねんだから、全く」
「・・・はい」
「明日から授業に復帰してよし。ただし、遅れを取り戻すために放課後に補習するからな。合理的にやれよ」
「はい!死ぬ気で頑張ります!!」
寮に戻ると皆に明日から復帰できるのかと尋ねられた。
「どうだった?相澤先生はなんて?」
「ご迷惑おかけしました!わたくし緑谷なまえ、明日より学業に復帰いたします!」
そう言って踵を揃えて右手でビシッと敬礼すると、皆も同じようにして返礼してくれた。
「わぁ!よかったねなまえちゃん!」
「待ってたわよ緑谷ちゃん」
「みんな、本当にごめんね!」
「なまえちゃんオツトメご苦労様!」
「オツトメって・・・つか何息巻いてんの?」
そう言って深々とお辞儀しながら、フンフンと鼻息を荒げていたら耳郎さんがやや引いた感じで聞いてきた。そんな引かないでよ私はただやる気に満ち溢れているだけなんだから。騒がしいのに気が付いたのか男子たちもやって来て、私の復帰を一緒に喜んでくれた。
「飯田くん!!ごめんね失望させてしまって!!」
「うむ・・・反省してくれればいいが・・・しかしどうした?」
「この三日間でついた差を取り戻すの!!!」
「あ、良いな。そういうの好き俺!」
拳を高らかに天に突き出して私は頑張る宣言を皆にした。
翌日久しぶりの通学に気合が入りすぎて一番乗りで寮を出た。と言っても徒歩5分の場所なのだが。寮を出る時、かっちゃんだけが一階にいて少し気まずかった。だって、かっちゃんはもう一日謹慎期間があるから。
「かっちゃん、行ってくるね」
「・・・」
「ご、ごめんね?先に復帰して」
「別にいい。俺がケンカふっかけたのが悪ぃんだから」
「で、でも」
「いいっつってんだから、いいんだよバカ。オラ、さっさと行けクソなまえ」
「・・・行ってきます」
そう言って笑いかけたら、頭にチョップを食らった。なんで?朝から理不尽だわ。そう思いながら叩かれた頭をさすりながらドアを開けた。
「あ、明日は一緒に行こうね!!」
「うっせぇ!早よ行けや」
振り返って手を振ったら、かっちゃんはぶっきらぼうに言って踵を返して去って行ってしまった。
久しぶりの教室は、誰もいなくて静まり返っていた。自分の席に座っているだけなのももったいない。授業まではまだ一時間もあるし、朝トレってことで走り込みしておこう。更衣室まで行くのめんどくさいし教室誰もいないしここで着替えちゃおう。体操服を取り出して、制服のネクタイを外して、カッターシャツのボタンを一つ一つ外していく。シャツを脱いで下着だけになった時、教室のドアが勢いよくあいて、少しの間を置いてすぐに閉まった。
慌てて体操服を着てドアを開けると轟くんが顔を真っ赤にして座り込んでいた。そうだよね、こんな時間に人が居るなんて思わないし、ましてや着替えてるなんて誰も想像しないよね。申し訳なくて、声をかけた。
「と、轟くんごめんね」
「いや、お前が居るって思わなくてしかも着替えてるなんて・・・わりぃ」
「いえ、こちらこそ朝っぱらから見苦しいものをお見せしてしまって・・・」
「緑谷お前は、自信を持っていい」
「・・・・・・」
そんなこと直接言われたらなんて返事すればいいかわからないよ。黙ってたら轟くんが立ち上がって私の体操姿をじっと見ていた。
「これからトレーニングでもするのか?」
「そ、そうなの。三日間も寮の中で缶詰だったでしょ?寮の中でできることなんてしれてるし、筋トレとストレッチくらいしかできてないの。だから思いっきり個性使いながら走り込みしようかなと思って」
「付き合う」
「いいの?」
轟くんも体操服に着替えて、グラウンドに出た。個性を使って相手を追いかけ捕獲テープで捕まえた方が勝ちのガチンコ勝負。一切手加減しないでってお願いした。互いに離れた場所からスタートする。開始のアラームが鳴って火蓋が切って落とされた。
氷で足場を凍らせてくる轟くん。私は氷の上を滑るようにして進んだ。次は炎が出てきて、私を攻撃してくる。ひらりと避けた先にまた氷があって私は足を滑らせた。落ちかけたけれど、フルカウルで体勢を整えて建物の壁を走って登り元いた場所へと戻った。けれども、轟くんの姿が見つからなくてキョロキョロしてたら頭上から轟くんが落ちてきて驚いて悲鳴をあげてしまった。捕獲テープでぐるぐる巻きにされて私は負けた。
「緑谷よく足場から落ちずに戻ってきたな」
「絶対落ちると思ったよ私も」
「三日のブランクなんて全然感じさせない動きだった」
「いやぁ、でも捕まっちゃたし。まだまだだね、私は」
テープを外して轟くんは私の顔をじっと見て真剣な眼差しを向けた。
「緑谷は・・・・蕎麦好きか?」
「・・・へ?唐突な質問だね。好きだよ?どうして?」
「・・・なんとなく」
轟くんのこと天然だと思ってたけど、ドがつくほどの天然だったみたい。面白くて小さく吹き出したら、なんで笑ってるか分からないのか首を傾げている。林間合宿で好きだって言われてから、どんな風に接したらいいかわからなくて少し距離を置いてた。それで、轟くんと気まずくなるの嫌だし、これからも級友として仲良くしていきたい。
「ふふふ、轟くんって天然だよね!」
「・・・」
「そろそろ着替えないと!早く戻ろう!付き合ってくれてありがとう」
二人してまた競争するかのように走って教室に戻って制服を取って今度はちゃんと更衣室で着替えた。
制服に着替えてから、教室に入ると麗日さんにどこ行ってたのって心配された。それもそのはず、一番乗りで寮を出たのに一番遅くに教室に来てきているから。ちょっと運動してきたって言ったら、次は私も誘ってって言われた。もちろん誘いますとも。
相澤先生がやってきて今日の授業の説明が始まった。
「じゃ緑谷も戻ったところで本格的にインターンの話をしていこう。入っておいで。職場体験とどういう違いがあるのか直に経験してる人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名・・・通称ビッグスリーの皆だ」
入ってきた3年生の一人と目が合ってニコッと笑いかけてきた。あ、あの恐怖の心霊体験ゴミ捨ての時に見た顔だ。良かった。生きてる人間だったのか。ホッと胸を撫で下ろしたけれど、生身の人間でもあれは心臓に悪かったぞ。しかも顔だけしか見えなかったからわかんなかったけど、思いだした。去年テレビで見た雄英体育祭で成績こそ振るってないもの妙なインパクトを残していた人だ。素っ裸になって周りを困惑させているのを私は覚えていた。隣の二人も確か上位にはいなかったと思うけど・・・ビッグスリー・・・どんなヒーローなんだろう。
「じゃ手短に自己紹介よろしいか?天喰から」
天喰と呼ばれた先輩の眼力がすごすぎて鳥肌が立った。一瞥だけで凄まじい迫力!どんな個性なんだろう。だけど、天喰先輩は突然黒板の方にくるりと方向転換してカタカタ震えて「帰りたい」って呟いてる。・・・え、ビッグスリーなんですよね?
波動と名乗ったロングヘアの可愛い先輩が天喰先輩の分まで紹介してあげていた。波動先輩は気になることがあるとすぐに聞いてしまう性質らしくて、いろんな人に質問を投げかけていた。しかも、答えは聞かずにどんどんと次の質問をしていくスタイル。マイペース!
「合理性に欠くね?」
「イレイザーヘッド安心してください!!大トリは俺なんだよね!前途ーーーー!!?」
私が勝手に名付けた心霊先輩が、腰に手を当てて私たちの方へ何かを言って欲しそうに耳を向けた。前途・・・??
「多難ー!っつってね!よォしツカミは大失敗だ」
大笑いしながら、滑ったことを受け流す鉄のハートをお持ちのようだ。ちょっとどころかかなり変わった人たちだな。
「まァ何が何やらって顔してるよね。必修てわけでもないインターンの説明に突如現れた3年生だ。そりゃわけもないよね。1年から仮免取得・・・だよねフム。今年の1年生ってすごく元気があるよね・・・そうだねェ何やらスベリ倒してしまったようだし、君たちまとめて俺と戦ってみようよ!!」
明るく元気いっぱいに腕を振り回して言う心霊先輩。
「え・・・ええ〜〜〜!?」
「俺たちの経験をその身で経験した方が合理的でしょう!?どうでしょうねイレイザーヘッド!」
「・・・好きにしな」
てな訳でやってきた体育館γ。準備運動をしている心霊先輩を止めようと声を他の3年生がかけているがそんな気はさらさらなさそうだ。
「いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
「俺!」
「私・・・行きます!」
「意外な緑谷!!」
「問題児!!いいね君やっぱり元気があるなあ!!」
彼はオバケじゃなくて雄英のトップの人。オバケじゃないとわかった今、全然怖くないもん。むしろ手合わせ願えるなんて願ってもない話。雄英トップと今の私。距離はどの程度か。
「よっしゃ先輩!そいじゃあご指導ぉー」
「よろしくお願いしまーっす!!」
私が走りだした直後、心霊先輩の服がはらりと落ちた。大事なところを隠すようにズボンを引っ張りあげてる先輩の姿にちょっと動揺したけど、その隙に顔にフルカウルを決めてやる。
隙だらけに見えたのに蹴りはちっとも当たらなくてすり抜けた。やっぱりすり抜ける“個性“なんだ。すごい個性だ。どうしよう。
「顔面かよ」
同時に他のクラスメイトも攻撃をするが、ちっとも当たらなくてその場から心霊先輩の姿は消えていた。ワープしたかのように耳郎さんの背後に回って攻撃されていく。遠距離系から攻撃されて、接近戦に強いメンバーのもとにどんどん現れて腹にパンチを食らっていく。
「お前らいい機会だ。しっかり揉んでもらえその人・・・通形ミリオは俺の知る限り最もNO1に近い男だぞ!プロも含めてな」
一瞬で半数以上がKOされた。心霊先輩結局自分で名乗らなかったので、相澤先生によって初めてフルネームを知った。通形先輩って言うんだ。
「何したのかさっぱりわかんねぇ!!すり抜けるだけでも強ェのにワープとか!それってもう無敵じゃないすか!」
「よせやい!」
いや、きっとこの個性には何かからくりがあるはず。
「何かからくりがあると思うよ!“すり抜け“の応用でワープしてるのか“ワープ“の応用ですり抜けてるのか。どちらにしろ直接攻撃されてるわけだからカウンター狙いでいけばこっちも触れられる時があるハズ!何してるかわかんないなら、わかってる範囲から仮説を立ててとにかく勝ち筋を探っていこう!」
「オオ!サンキュー!謹慎明け緑谷スゲー良い!」
切島くんが私の方を向いて頷いている。通形先輩は地面に沈んでいった。これがからくり?初手から考えてきっと私たちの背後に回ってくるハズ!やっぱ来た!!ビンゴ!
後ろに蹴り上げるけど攻撃はやっぱりすり抜けてしまう。しかも、すり抜け目潰し。咄嗟に目をギュッと瞑った拍子にみぞおちに拳をくらった。
「ほとんどがそうやってカウンターを画策するよね。ならば当然そいつを狩る訓練をするさ!!」
通形先輩に誰一人として触れることができないまま全員が腹パンされて終わった。
「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど!!すみませんね女性陣!!とまァーこんな感じなんだよね!俺の“個性“強かった?」
「強すぎっス!」
「ずるいや私のこと考えて!」
「すり抜けるしワープだし!轟みたいなハイブリットですか!?」
波動先輩が喋りたくてウズウズしているのを天喰先輩が宥めている。仲良しなんだね。確かにもう少しで先輩の大事なところ見えてしまうところで、ほんとギリギリの線を攻めてた。万が一見てしまってたら私はしばらく、通形先輩のこと“卑猥先輩“って呼ぶところだったよ。
「いや!個性は一つ“透過“なんだよね!君たちがワープというあの移動は推測された通りその応用さ!」
通形先輩がワープの理屈を教えてくれた。だけど、発動中は酸素を取り込めないらしい。簡単な動作ですらいくつかの工程が必要。つまり常に考えて動かなければならない。予測が大事だという。予測を可能にするのは経験。経験則から予測を立てていく。インターンにおいては仮免を取得した私たちはお客じゃなくて一人のサイドキックとして扱われるのだ。
「時には人の死にも立ち会う・・・けれど怖い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の“経験“。俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」
力強く拳を握り締めながら言う通形先輩の言葉に鳥肌が立った。先輩は運用するには大きすぎるデメリットの個性を経験をもとに予測というサポートを身につけ最強に変えた。ただ強い人が雄英のトップにいるんじゃないんだ。通形ミリオ先輩は努力でトップを掴んだ人なんだ。
私もインターンに行きたい!!けど、体育祭で私に来た指名はグラントリノただ一人。インターンさせてもらえるだろうか。
『は!?いんたぁん!?誰だ君は!!』
「それであの・・・グラントリノは受け付けているのかなって思って」
『無視たぁ大物になったもんだ小娘!!悪ぃな俺は今別件で動いてて世話はムリだぜ。そうか体育祭俺以外指名なしのヘッポコ継承者だもんな』
「う、うう・・・」
放課後の補習という名の相澤先生のしごきが終わって寮に戻って、グラントリノへ電話したら秒で断られた。ぐうの音も出ないお言葉まで頂いた。くそう。
「ヘッポコ継承者だからNo1ヒーローに近づけるならなんでもやりたいんです!」
そういうと、かっこつけるなって怒られた。けどグラントリノは私にヒントをくれた。オールマイトの元サイドキックの存在を。
電話を切った後、風呂に入り一日の疲れを洗い流した。
その後でかっちゃんに会いに部屋に行ったのだけどものすごい勢いで通形先輩のモノを見たのか問いただされた。見てないっていうとあからさまに安心してた。切島くんあたりから聞いたんだろうな。心霊現象だってビビってた時は全然心配してくれなかったのにって頬を膨らませたら、かっちゃんに頬をつねられた。
「俺も明日から復帰する。仮免取ったらすぐに追い越してやるからな」
そう言ってかっちゃんは腕立て伏せを始めた。私はかっちゃんのベッドに乗って、母にメッセージを送っていた。寮に入ってから寂しいみたいで、時々メッセージが届くのだ。それに返信していたらいつの間にかかっちゃんが居なくなっていた。気にせずネットのヒーローニュースなどを読み漁っていたらシャワーを浴びたかっちゃんも戻ってきてベッドに二人並んで座った。ちょっと緊張してたら頭を撫でられた。髪を下ろしてるからふわりと毛先が揺れた。あのキス以降一定の距離とってたのに、近づいてくるものだから逃げようとしたらベッドに押し倒された。近づいてくる顔に近くにあった枕を押し付けて私は部屋から飛び出した。