なまえVSかっちゃん



皆寝静まって静かな夜。0時前にそっと部屋を出た。

“てめェの個性の話だ“

そう言うかっちゃんは背中しか見せなくて表情は分からなかった。かっちゃんは月明かりの中、寮の前のポーチの階段に座って待っていた。私に気がつくと、さっと立ち上がって戸惑う私を置いてどんどん歩いていってしまう。慌てて追いかける。時折着いて来ているか確認するかのように振り返る。逃げたりしないよ・・・ただどこまで行くのか不安になってきた。私心霊的なアレが苦手って知ってるでしょ?思わずかっちゃんのシャツを掴んだ。

「ねえ!かっちゃんどこまで行くの?マズイよこんな夜中に出歩いたりしたら」
「・・・」

かっちゃんは何も答えずポケットに手を突っ込んだまま歩いて行く。着いた先は、グラウンドβ。

「ここってグラウンドβ・・・」
「初めての戦闘訓練でてめェと戦って負けた場所だ。ずっと気色悪かったんだよ・・・」

何となくわかってた。かっちゃんがどんな思いでいるのか。急に私に個性が発現するなんてヘンだもんね。それに初めての戦闘訓練の後に私が言った言葉。疑問に思うのも当然だ。

「無個性で泣き虫ノロマで守られるだけだったてめェがどういう訳だか個性発現しててよォ。訳わかんねえ奴が訳わかんねェ事ほざいて、自分一人納得した面してどんどんどんどん登って来やがる。ヘドロん時から・・・いや・・・オールマイトが街にやって来たあの時から・・・なまえは変わった。しまいにゃ仮免てめェは受かって俺は落ちた。なんだこりゃあ?なあ?」
「そ、それは実力ってよりも・・・」
「黙って聞いてろ。クソカスが!!」
「ごめ、ん・・・」

かっちゃんは背中を向けたまま話し続ける。何だか、また高校に入学する前のかっちゃんみたいだ。

「ずっと腑に落ちなくてムカついてたぜ。けどなァ神野の件で何となく察しがついた。ずっとなまえのこと考えてた」

きた・・・また前みたいに仲違いしちゃうのかな。嫌だな。

「オールマイトから貰ったんだろ。その“個性“。敵のボスヤロー、あいつは人の“個性“をパクって使ったり与えたりするそうだ。信じられねぇが、ネコババアの一人が“個性“の消失で活動中止したこと。脳無とかいうカス共の“個性“複数持ちから考えて信憑生は高え。それにオールマイトとボスヤローには面識があった。個性の移動っつーのが現実で、なまえの人から授かったっつー発言と結びついた。オールマイトと会っててめェが変わって、オールマイトは力を失った・・・オールマイトは答えちゃくんなかった。だからなまえに聞く」

ようやく振り返ったかっちゃんの顔は怒ってもなくてただ穏やかな顔つきをしていた。かっちゃんの仮説は全て正しい。でも、もうオールマイトと約束して自分の口からは誰にも言わないって決めたんだ。手を胸の前で握りしめて何も答えなかった。それがたとえかっちゃんでも答えることはできないから。

「・・・」
「否定しねェってこたァ、そういうことだな。クソが・・・」
「聞いて、どうするの?私のこと嫌いになる・・・?」
「はァ!?好きとか嫌いとか今は関係ねんだよ!!なまえ、てめェも俺もオールマイトに憧れてた。なァそうだろ?ずっと守られるだけだったてめェが知らん間に憧れた人間に認められてた・・・だから戦えや。ここで今」
「な、何でっ!!!???ええええ!!?待ってよ何でそうなるの?いや、マズイでしょここに居る事自体ダメなことなんだよ?せめて、戦うって言っても自主練とかで、トッ、トレーニング室借りてやるべきじゃない??今じゃなきゃダメな理由もないでしょ?ね?」
「本気でやると止められんだろーが。なまえの何がオールマイトにそこまでさせたのか、もう本当に庇護対象のままのお前じゃないのかどうか確かめさせろ。俺がてめェを守るって決めてたのに、自分で自分のことは守れるようになるって豪語するようになったよな?なまえ、てめェが本気なのか俺は知りたいんだよ。てめェの憧れが正しいってンなら俺は間違ってたのか?なまえを守りたいっていう気持ちも全部。俺が!俺が勝ったら・・・ま、もういい」
「・・・かっちゃん」
「怪我したくなきゃ構えろ。蹴りメインに移行したんだってな?」
「待ってよかっちゃん!こんなのダメだよ」

かっちゃんはターボで一気に加速して向かってきた。右手を大きく振りかぶる。いつものかっちゃんの癖だ。だけど戦闘訓練の時に破っているから、これはフェイント・・・じゃなかった。どデカい爆発が私の身体を掠める。フルカウルで避けたけど、Tシャツの裾が焼け焦げた。

「った・・・!」
「深読みするよなてめェは・・・来いや!!」
「本気なんだね、かっちゃん」

何度も攻撃してくるかっちゃんはやっぱり本気だ。

「待ってってば!本当に戦わなきゃいけないの!?間違ってるわけないじゃん!かっちゃんの憧れも、その・・・私を守ってくれるっていう優しさも。誰も間違ってるなんて言ってない」

かっちゃんの攻撃を避けて、蹴って手からの爆破を防いだ。それでかっちゃんは躓いで転けた。

「だ、大丈・・・」
「俺を心配すんじゃねえ!!!!戦えよ!!何なんだよ!!何でずっと後ろにいた奴の背中を追いかけるようになっちまった。クソ雑魚のてめェが力をつけてオールマイトに認められて強くなってんのに!何で俺はっ!俺は、オールマイトを終わらせちまってんだ・・・俺が強くて敵に攫われなんかしなけりゃあんな事にはなってなかった!オールマイトが秘密にしようとしてた・・・考えないようにしてても、フとした瞬間に湧いて来やがる!どうすりゃいいか、わかんねんだよっ!!なまえ一人どんどん先に進んでいって、もはや俺の救けなんか必要としてないんだって悩んじまうンだよ!!」

ずっと抱え込んで、私なんかよりもずっとずっと悩んでた。考えてたんだ。それなのに、かっちゃんの気持ちをわかったような気でいた。全然分かってなかった。そんな風に思ってたの?この戦いに意味なんてきっとない。だけどかっちゃんの気持ちに応えられるのは私しかいない。走り出したかっちゃんに、私も正面から向かっていく。かっちゃんの顔にフルカウルが決まった。

「なまえてめェ」
「いいよ、かっちゃんの気持ち全部ぶつけても。どんなことになっても、私かっちゃんの事好きだから。戦いに勝っても負けてもそばにいる。かっちゃんが嫌だって言ってもずっとそばにいる。だから、やるなら全力だよ」
「っ!!何も分かっちゃいねェんだよなまえ!!俺がてめェの事どう思ってるか」

どうしようもない苛立ち、不安、苦しみ。どんな感情だって受け止めたい。それで嫌われたって構わない。どんなことがあっても私はかっちゃんのこと支えられる人になりたいから。かっちゃんはやり場のないこの気持ちを戦うことで発散させたいだけなのかもしれない。そうだとしても一蹴することはできない。思えば、幼稚園、小学校、中学校と本音で話し合ったことなかった。いつだってすれ違って仲違いしたままで。仲直りしたと思ったらこうして喧嘩して。付き合いは長いのに、かっちゃんの本音は隠されていたのかも。そんなの寂しいじゃない。もっと知りたいよかっちゃんのこと。

かっちゃんの攻撃は激しくなるが、私の身体を直接は狙っていないことに気がつく。かっちゃん・・・

「てめェが何考えてるかわからねえ!なまえは俺のこと好きだっつーけど全然俺のこと男って思ってねんだろうが!!どんだけ、バカにして突き放しても俺のこと嫌いになんねえし、聖人のつもりかよ!!舐めやがって!!俺がてめェのことどう思ってるかなんて考えたことねえンだろ!!クソがっ!!」
「・・・そんな風に思ってたの?そりゃ普通は、バカにされて突き放された関わりたくなくなると思うよ・・・でも私に個性が何にも無かったからこそ、小さい頃のかっちゃんはヒーローだったんだよ?強くてかっこいいところが鮮烈で、私にないものを沢山持ってた。オールマイトよりも、ずっと身近なヒーローだったんだよ!だから、ずっとずっと・・・!!」

かっちゃんへの好きって気持ちがどういう形であるのかが分かった気がする。かっちゃんに好きな人や恋人ができたら悲しいって思うのも、他の女の人がかっちゃんの身体に触れてるのが嫌だって思うのも、かっちゃんに触れられた場所が熱くなって溶けそうになっちゃうのも、全部答えがわかった気がする。だけど、勝っても負けても今は伝えちゃいけない気がする。きっとかっちゃんはこんなことの後に言われても良く思わない。
感情が昂って少しコントロールが乱れた。全身常時身体許容上限、ずっとフルカウル状態の時は5%を意識していた。自分の身体がどれだけ鍛えられたかなんて案外自分じゃ気づかない。

全身常時身体許容上限8%!!

「かっちゃんの側で、守られるだけじゃなくて。私だって、かっちゃんのことも守りたいって思うんだよ!!」

かっちゃんのみぞおちを狙って放ったが、腕で防がれた。お互いの攻撃が相打ちで相殺される。これは流石に恥ずかしいから言えないけど、救けなきゃって気持ちより勝たなきゃって気持ちが強い時、私はうっかり口が悪くなる。それは私の中の“勝利“のイメージがかっちゃんだってこと。いつだってかっちゃんが私の無意識の中に存在してるんだ。

「かっちゃん!!!!」
「なまえなんかに敗けるかあああああ!」

気がついたら地面に押し付けられていた。服はボロボロだし息が上がって、かっちゃんの手を押しのけることもできない。

「俺の勝ちだ。オールマイトの力・・・そんな力持っても自分のモンにしても俺に敗けてんじゃねぇか。何が自分のことも俺のことも守る、だよ。何で敗けとんだ。なァ」
「そこまでにしよう二人共」

オールマイト・・・

「悪いが聞かせてもらったよ。気づいてやれなくてごめん」
「・・・今、更・・・・何でこいつなんだよ。ヘドロん時からなんだろ。何でこいつだった」
「非力で・・・誰よりヒーローだった。君は強い男だと思った。既に土俵に立つ君じゃなく、彼女を土俵に立たせるべきだと判断した」
「俺だって弱ェよ・・・あんたみてえな強え奴になろうって思って来たのに!弱ェからあんたをそんな姿に!!」

かっちゃんは私の身体の上から退いて、乱暴に私の手を引っ張り起こしてくれた。

「これは君のせいじゃない。どのみち限界は近かった。こうなる事は決まっていたよ。君は強い。ただねその強さに私がかまけた・・・抱え込ませてしまった。すまない。君も少年なのに」

オールマイトはそう言ってかっちゃんを抱き寄せて頭を撫でた。それをかっちゃんは振り払った。

「長いことヒーローをやってきて思うんだよ。爆豪少年のように勝利に拘るのも、緑谷少女のように困ってる人間を救けたいと思うのも、どっちが欠けていてもヒーローとして自分の正義を貫くことは出来ないと。緑谷少女が爆豪少年の力に憧れたように、爆豪少年が緑谷少女の心を畏れたように・・・気持ちを曝け出した今ならもうわかってるんじゃないかな。互いに認め合い、まっとうに高め合うことができるはずだ。救けて勝つ、勝って救ける、“最高のヒーロー“になれるんだ」
「そんなん・・・聞きてぇワケじゃねンだよ」

かっちゃんは膝を抱えて座って顔を伏せた。

「なまえ、一番強え人にレール敷いてもらって敗けてんなよ」
「強くなる。私、かっちゃんにも勝てるくらいに。同じくらいになるよ」

大きなため息をついてこっちを見ようとはしない。

「なまえとあんたの関係を知ってんのは?」
「リカバリーガールと校長。生徒では君だけだ」
「バレたくねェんだろオールマイト。あんたが隠そうとしてたからどいつにも言わねえよ。クソナードみてえにバラしたりはしねえ。ここだけの秘密だ」
「秘密は本来私が頭を下げてお願いすること・・・どこまでも気を遣わせてしまってすまない・・・こうなった以上は爆豪少年にも納得いく説明が要る。それが筋だ」

オールマイトはかっちゃんに話した。巨悪の根源に立ち向かう為、代々受け継がれてきた力なのだということ。その力でNO1ヒーロー・平和の象徴となったこと。腹に酷い傷を負い限界を迎えていたこと。そして後継に無個性だった私を選んだこと。このことが知れ渡れば、力を求めて私が狙われるかもしれないこと。

「あばかれりゃ力の所在やらで混乱するってことか。っとに何で俺に安易にバラしてんだよクソなまえ」
「私が力尽きたのは私の選択だ。さっきの言ったが君の責任じゃないよ」
「・・・結局、俺のやることは変わんねェや」
「うん・・・」
「ただ今までとは違えからな、なまえ。俺も全部、お前を含めて全部俺のモンにして上に行く。“選ばれた“お前よりもな」
「じゃっ、私はかっちゃんについて行って同じラインに立つ!」
「だから、てめェを越えていくっつってんだろが!」
「え、一緒に並んだらダメなの?」

首を傾げて覗き込むようにして聞いたら顔を掴まれた。オールマイトの笑い声が聞こえてきた。

「ぶつかりあうことも必要だし、時に素直になって胸の内を吐露することも大事だが、爆豪少年!緑谷少女よ!さ、そろそろ寮に帰らないと」

そう言ってオールマイトが寮まで送ってくれた。
寮に着くと、相澤先生がブチギレて待っていた。私たちが抜け出して戦ったこと知ってて、無理矢理引き戻すことなく待っててくれたんだ。怪我したところに消毒液ぶっかけられて絆創膏を貼られた。
捕縛布で拘束されて身動き取れなかったけど、先生の優しさに泣きそうになった。このギリギリと食い込む捕縛布がなければ余計に感動していただろう。

「試験終えたその晩に痴話ケンカとは元気があって大変よろしい」
「相澤くん待って!捕縛待って!原因は私にあるんだよ」
「はい?原因?何です?」

まさか三人の秘密を打ち明けるのだろうか。ドキッとしてかっちゃんを見ると、同じような顔してかっちゃんもこっちを見た。

「爆豪少年は私の引退に負い目を感じていたんだ。そのモヤモヤを抱えたまま試験に臨ませ・・・その結果彼らの劣等感が爆発した。気付けずメンタルケアを怠った・・・大人の失敗が招いた衝突だったんだ」
「・・・んん。だからルールを犯しても仕方ない・・・で済ますことは出来ません。然るべき処罰は下します。先に手ェ出したのは?」
「俺」

かっちゃんが即答した。だけど、かっちゃんは決して私に直接爆破をしてきたわけじゃない。一方私はかっちゃんに思いっきり蹴り入れちゃった。

「私もけっこう・・・ガンガンと・・・」
「爆豪は四日間!緑谷は三日間の寮内謹慎!その間の寮内共有スペース清掃!朝と晩!プラス反省文の提出!!怪我してるなら保健室へ行け!ただし余程のことでなければ婆さんの個性は頼るな。勝手な傷は勝手に治せ!以上!はよ寝ろ!」

そう言って管理人室でもある相澤先生の部屋を追い出されて二人きりになった。沈黙の中で私たちはお互いの呼吸だけを感じていた。先ほどまでの激情はもう無くなっていてただ穏やかな気持ちだった。

私は無意識のうちに自分の抱いている感情を誤魔化していた。感情に愛だの恋だの、そんな浮ついた名前つけたくなかった。けど気がついてしまったものは仕方ない。かっちゃんに再び拒絶されることを恐れて知らず知らずのうちにこの感情に蓋をしていたのかもしれない。走り出したこの衝動とも言えるこの感情はもう止まらない。加速していき、止める術を知らない。そう思うとかっちゃんが言ってた言葉が気になった。

“お前を含めて全部俺のモンにして上に行く“

お前も俺のモンにするって、文字通りの意味なのかな。そうだとしたら、この溢れ出す感情の速度を緩めるための行為だって言えば許してくれるよね?
何も言わずこっちをみてるかっちゃんの前に立って背伸びをした。唇が頬にぶつかって、私はかっちゃんの反応も見ずに女子寮に上がるエレベーターに飛び乗った。ドアが閉まる直前に見たのは泥だらけの顔を真っ赤にして私がキスした頬を手で押さえるかっちゃんの姿だった。



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