仮免二次試験とその結果
1年A組は全員仮免の一次試験を通過した。これは快挙と言っても過言ではない。倍率にして15.4倍。とんでもない数字だ。A組の皆でお互いの健闘を称え合った。二次試験の説明が始まりモニターに私たちが先ほどまで居た試験会場が映し出される。会場が爆破されて建物が崩れていく。ええええ何故!?
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます。ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者としてどれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』
モニターをよく見ると、老人や子どもが被災現場に居る。彼らは“HELP・US・COMPANY“略してHUCフック。要救助者のプロなのだという。私たちは彼らを助け、その救助活動内容により採点される。
これって神野区の事件を模しているのかもしれない。あの時脳無が数体解き放たれ死傷者もでた。あの悪夢を繰り返したくない。かっちゃんを失う恐怖が蘇る。頑張ろう。
二次試験開始までの時間私はA組の集まる場所のベンチに腰掛けて麗日さんと話していたのだが、瀬呂くんの一言で上鳴くんと峰田くんに激しい取り調べを受けることになってしまった。
「なァなァすげー事あってさァ。聞いてくれよ」
「Rは?」
「18」
「聞こう」
「士傑のボディスーツの人いんじゃん?あの女の人」
「いる」
「良いという話なら甘い。オイラはもうさっきからずっと彼女を視・・・」
「素っ裸のまま緑谷を襲ってた」
「緑谷ァァァァア!!」
「へ!?な、な、何なの!?」
差し迫る必死な顔にたじろぎ、逃げようとするも捕まってしまった。
「緑谷お前何されたんだ!俺らに言ってみろ!!」
「試験中にナニしてんだよ!羨ましい!クッソ!秘密の花園で百合百合してたのかオイラも混ぜろよぉォォオ!」
「わ痛いやめて!何!?」
「何ってとぼけるのも大概にしろよ。女同士だからって許されると思うなよ!?」
「何の事言ってんの二人とも」
「あの士傑の女の人の話に決まってんだろォォォ!」
「へ・・・?」
二人の指差す先には士傑の女の人が居た。全裸になって引っ掻いてくるイメージしかなくて怖い。はっきり言ってもう戦いたくはない。それにあんな霰もない姿になられると目のやり場に困るもの。
「瀬呂くんに何聞いたか知らないけど,あの人の個性の関係だよ。訳がわかんなくて怖かったんだから!」
「そんなはずないだろ!!」
「全裸で迫られるって幸せすぎんだろぉがよ!」
「どこがっ!?」
士傑の女の人が私たちに気がついて手を振ってきた。一応会釈しておいたけど、私あの人なんだか苦手だな。質問攻めだし、いきなりひっかいてくるし・・・
『敵による大規模破壊が発生!規模は○○市全域!建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救助先着隊の到着に著しい遅れ!』
突然放送とともに部屋の壁が展開して、被災地がよく見えるようになった。試験と思えないほどの臨場感に私は息を呑んだ。この試験にどんだけの金がかかってるんだ。
『一人でも多くの命を救い出すこと!!』
採点基準についての説明は一切なかった。一体どうやって採点されるのか分からないけど、今私にできる事をしっかりしなくちゃ。とりあえず一番近くの都市部のゾーンへと向かった。そこには頭部から血を流している子どもが泣き崩れていた。慌てて駆け寄る。
「あ゛ああああん!たすげでええ!ひっ!ひっ!あっち!おじいちゃんが!!ひっ!潰されてえ!!」
「大丈夫よ、すぐに救けに行くから。まず、あなたは歩けそう?歩けないようだね。呼吸数は30回以上。頭部の出血も酷い・・・一緒に救護所に行こう。おじいさんも絶対に救けるから。皆!私はこの子を救護所に連れていく!先に行ってて追いかけるから」
血塗れになった子どもを抱えて走る。その間も大丈夫だと声をかけ続けると、HUCの子どもに「まあトリアージはできてるけど声かけ一辺倒か!!ヘタクソか!!」と罵られた。口が悪い。それにHUCの人たちが救助されながら採点しているのか。
到着するとすでにたくさんの人が救護所に運び込まれていてごった返していた。近くにいた人に子どもを引き渡して再び外の救助へと向かう。
先ほどの子どもの指差していたところにおじいさんが瓦礫に挟まっていた。すぐに瓦礫をどけて救けだして声をかけるが意識がない。自発呼吸はあるけど呼吸回数が異常値。これは最優先治療群、トリアージレッド!急がないと危ない。おじいさんを背中に担いで救護所へと走る途中、派手な爆発が同時にあちこちで起こった。爆炎とともに敵っぽい見た目ランキング3位のギャングオルカが手下を引き連れて現れた。待って・・・対敵も想定しての試験なの!?しかもギャングオルカが敵の役?かなり気合い入った試験だよ、これ。
『敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ救助を続行してください』
難易度高すぎて泣きそう。迫ってくるギャングオルカと手下たちに救護所が狙われている。真堂くんが走っていってオルカに攻撃するも、逆に超音波アタックを受けてしまい麻痺して動けなくなった。
助けに行きたくても、背中のおじいさんをはやく避難させて治療を受けさせないと。尾白くんと芦戸さん、常闇くんが駆けつけておじいさんを救護所まで運ぶのを手伝うと言ってくれた。おじいさんを皆に任せてどんどんと避難をすすめていく中、轟くんと夜嵐くんがギャングオルカの前に立ち塞がっているのが見えた。そして何やら二人は揉めている。轟くんの炎が、夜嵐くんの追い風を受けて麻痺して動けない真堂くんを襲う。試験中だっていうのに何してるのあの二人!信じられない!体育祭以降だ。こんな私情で冷静さを失っている轟くんを見るのは。
「何してんのよ!!」
真堂くんの服を掴んでフルカウルで飛んで炎を回避して喧嘩してる二人を怒鳴りつけた。もう少しで真堂くんが炎の巻き添え食らうとことだった。私の怒鳴り声にハッと我に帰り、試験中であることを思い出した轟くんと夜嵐くん。それが彼らの隙になってしまったのか夜嵐くんがギャングオルカの超音波アタックとサイドキックの拘束銃で動きを封じられ個性のコントロールが出来なくなって落下し地面に叩きつけられた。続け様に轟くんも、超音波アタックを食らっている。このままだと敵は救護所まで一直線だ。避難の砦が襲われるのはマズイ。距離的に私が一番救護所から離れた位置にいる。ここで戦線をつくって、救護所を守らないと。
「どいてろ」
動けないはずの真堂くんが突然、私の手を振り解いて地面に手を当てた。地面がぐちゃぐちゃに割れていく。救護所を狙うサイドキックたちの足場を崩したのだ。
「えええ!真堂くん、オルカの超音波で動けないんじゃ!」
「まァちょっとだいぶ末端痺れてるよね。音波も振動ってなわけで個性柄揺れには多少耐性あんだよ。そんな感じで騙し討ちも狙ってたんだよね!それをあの一年二人がよォーーー!足は止めたぞ!お前が奴らを行動不能にしろ!他の奴らと手分けして残りの傷病者を非難させるんだ!」
何だか爽やかキャラじゃなくなってる・・・?怖い顔した真堂くんに背中を押されて私は駆け出した。
オルカを風と炎で閉じ込めているのが見えた。轟くんと夜嵐くんだ。二人揉めてたけどちゃんとチームアップできてるじゃん。良かった。オルカは任せて私はこっちを制圧する!
フルカウルで敵役のサイドキックたちを薙ぎ倒していく。複数人に拘束銃を向けられる。あれ食らったら動けなくなってしまう。避けながら制圧。それしかないんだけど、なんせ数が多くて避けきれないかもしれない。
「借りる!」
そう言って尾白くんが制圧銃を撃とうとした敵の腕を掴んで、振り回して敵に向かって拘束銃を撃たせて周りをどんどんと行動不能にしていく。心強い助っ人だ。
「尾白くん!」
「怪我人の避難済んだって!すぐに何人か加勢くるぞ!」
「尾白!緑谷!加勢する!」
常闇くんと芦戸さんも加わって敵を制圧していく。何もなかった場所に突然梅雨ちゃんも現れて敵に奇襲攻撃をした。全然居るのに気が付かなかった。
「つ、梅雨ちゃんっ!いつの間にそこに!?」
「カエルっぽさを磨いてようやく実践レベルに達したの。"保護色"私の新技よ」
士傑高校の全身が毛がふさふさの人もやってきてどんどんと制圧が進んでいく。
ここは任せも大丈夫。なら、私がすることは轟くんと夜嵐くんのサポート。だんだんと炎と風の壁の威力が落ちてるのが気になってた。
「二人から離れてください!!」
オルカにフルカウルで蹴りの一撃を入れた時、試験終了の合図が鳴った。
『えー只今をもちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程終了となります!!!』
「お、終わったの!?」
轟くんと夜嵐くんの拘束が外されて一応超音波の麻痺が無くなるまでは医務室で少し休まないといけないようで運ばれていった。
私たちは制服に着替えて、再び会場で合格発表を待っていた。この待つ時間って心臓に悪いと思う。心臓バクバクしてるせいで絶対寿命縮まってると思う。
『皆さん長いことおつかれ様でした。これより発表を行います。とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています』
モニターに名前が映し出される。緑谷の文字を指を差しながら探す。
緑谷なまえ
その文字が目に飛び込んできた。合格だ。嬉しくて近くにいた麗日さんと手を取り合って飛び跳ねた。A組はほとんど受かったのだが、かっちゃんと轟くんの名前だけ無かった。クラスのツートップが落ちるなんて・・・
苛々してるかっちゃんと、黙って俯く轟くん。私は何て声をかけたらいいかわからなくて、二人のそばに行けなかった。峰田くんが「ヒエラルキー崩れたり」と言いながら轟くんの背中をポンと叩いたのだが、飯田くんにそっと引き離されていた。
各自に採点内容の記載されたプリントが配られた。私は71点。行動自体ってより行動するの前の挙動とか足止まったりするところで減点されてる。でも、何で減点方式なら50点き切った時点で退場させずに続行させたんだろ。
『今回あくまで仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え各々の学舎で更なる精進に励んで頂きたい!!そして・・・えー不合格となってしまった方々。点数が満たなかったからとしょげている暇はありません。君たちにもまだチャンスは残っています』
三ヶ月の特別講習を受講後、個別テストの結果次第で仮免許を発行してくれるらしい。再試験みたいな感じか。
これにて仮免試験終了!!
免許証を受け取ったのだが、ヒーロー名と私の顔写真が載っていて本当に、憧れのヒーローへと一歩ずつではあるが確実に近づいているのだと実感する。ここまで支えてくれた母やオールマイトへの思いが溢れて、涙目になってしまう。スマホで仮免許証を撮影して早速母とオールマイトへ送った。
士傑高校や、傑物学園も帰っていく。ハッとして士傑高校の生徒に声をかけた。気配を消す訓練はどんなことしてるのか知りたかったのだ。でも、そんな訓練してないってふさふさの人は言った。
「でも、あの唇プルっとした人が言ってた・・・それにあの人もっと話したそうにしてたのでお話しできればと思ったんですけど、どこへ・・・」
「ケミィか?彼女は調子が悪いと先にタクシーで駅へ向かってしまったよ」
「えーそっかぁ・・・悪いことしたなあ」
「そういえばあいつここ3日くらい変だったな・・・なんか普段と違うというか・・・」
じゃあまたいつか何処かで会ったときに話せばいいか。士傑の人たちに会釈してその場を後にした。
帰りのバスの中はみんな疲れ切って眠ってしまっていた。またもや機嫌の悪いかっちゃんの横に座らされている私はおちおち寝てられない。かっちゃんはこっちを見ようとせずにジッと外を見ていた。私が声をかけようものなら爆破されそうな雰囲気だ。
「・・・・・・」
「こっちみんな」
あ、見てるのバレてた。私は、慌てて目線を逸らしてスマホの画面を見てるフリをした。私は受かってかっちゃんが落ちるなんて思ってもみなかったし、励ましの声をかけるなんてかっちゃんのプライドが許さないと思う。だから、安易に声なんてかけられない。どんよりとした空気の中学校に到着してバスを降りた時、やっとまともに呼吸できた気がした。
寮に着くとそれぞれ風呂に入ったりくつろいでいた。
私も、シャワー浴びて着替えたのでみんなのところへ行こうとするとかっちゃんに後ろから声をかけられた。
「おい!なまえ後で表でろ。てめェの“個性“の話だ」
「え??」
「0時に表出てこい」
かっちゃんはそれだけ言ってどこかへ行ってしまった。