仮免一次試験
国立多古場競技場がヒーロー仮免許取得試験の会場なので、学校からバスで移動することになっている。私は葉隠さんと芦戸さんに連れられかっちゃんの横に押し込まれるようにして座席に座らされた。緊張でそわそわしていると、窓際に座るかっちゃんは呆れた顔でこちらをみていた。
「そんなソワソワすんな。落ち着けよ」
「だ、だってかっちゃん!試験本番なのに、そんな落ち着いてられないよ!!」
「だァァァ!!うるせぇんだよ、なまえ。静かにしろや」
そう言ってかっちゃんは私の手を少し乱暴に掴んで手を握った。
「は、はい・・・」
皆にいつ見られるかも分からない状況で手を繋ぐという行為に謎の背徳感に襲われ小声で返事をしてしまった。別に見られたってただ手を握って私を落ち着かせてるだけだから、背徳感なんて抱かなくたって大丈夫なのに。かっちゃんの大きな手に包み込まれた自分の手をまじまじと見ていると、かっちゃんが指を絡めて手を繋いできた。指が長くて綺麗。掌は厚くてゴツゴツしているし個性のせいなのか皮膚が私よりも硬い。やっぱりもう小さな男の子のかっちゃんじゃないんだ。大人になりつつあるんだ。そう思うと少し寂しくなった。
勇気を出して、もっと早くに仲直りしていれば・・・小学校や中学校の間も一緒に過ごせたのにな。なんだか急に成長した姿を見せられていて浦島太郎のような気分だよ、私は。
大人しくなった私に満足したのか、かっちゃんは窓の外の景色が流れていくのをバスの肘置きに頬杖ついて見ていた。そんなかっちゃんの横顔をこっそり見つめていたのだが、普通にバレて「こっちみんな」って言われてしまった。かっちゃんって顔かっこいいよなぁ。プロヒーローにでもなった暁にはモテまくるんだろうなぁ。ちょっとなんかモヤモヤした気持ちになる。
でも、そういえばかっちゃんの浮いた話今まで一回も聞いたことがない。私に友達が居なかったから聞いたことないだけかな。わかんないや。
そんなことを考えてるうちにバスは国立多古場競技場の駐車場で停車した。
「この試験に合格し仮免許を取得できればおまえらタマゴは晴れてヒヨッ子・・・セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
相澤先生の言葉に身が引き締まる。そう、私は絶対にプロのヒーローになる。ほんの些細な胸のモヤモヤに悩んでる場合ではないのだ。
「っしゃあ!なってやろうぜ!ヒヨッ子に!!」
「いつもの一発決めて行こうぜ!」
「せーの!Puls・・・」
「Ultra!!!」
待って、誰ですか。私たちの円陣に勝手に加わってきた人が地面にめり込む勢いで謝罪して額から血を流している。なにこの人怖い。
「一度言ってみたかったっス!!プルスウルトラ!!自分雄英高校大好きっス!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス!!よろしくお願いします!!」
全ての語尾に感嘆符がつく程の熱血っぷりに私はコスチュームバックを両手で抱えながら後退った。相澤先生が、彼のことを知っていたようで推薦入試トップの成績だったが、何故か入学を辞退した人だと言った。つまりそれって轟くん以上の実力の持ち主ってことだよね?
東の雄英、西の士傑。そんな強豪校が2校も集まる試験会場は合格率五割を下回るのでは・・・?
その他の高校の人にも絡まれて、雄英生って意外と有名なんだねって麗日さんと話す。
そこへ相澤先生の旧知の仲だというスマイルヒーロー"Ms.ジョーク"が現れた。彼女の教える傑物学園高校も同じ会場で試験を受けるらしい。傑物学園の2年生が近づいてきた。
「おお!本物じゃないか!!俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね!」
そう言って黒髪爽やかイケメンが私の両手を握ってきた。そのせいでコスチュームバッグが地面に落っこちた。最悪!縁起悪いじゃん!
仮免試験落ちたらあなたのせいにします!!
離してほしくて、手を引っ込めようとするけど力が強くなっていってますます離してくれないんですけど。なんなのこの人・・・
助けを求めようとしたら、かっちゃんが私の腕を掴んで真堂と名乗る人物から引き離した。
「神野事件を中心で経験した爆豪くん。君は特別に強い心を持っている。今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
握手をかっちゃんに求めるが、その手を叩いてかっちゃんは睨みつけた。
「フかしてんじゃねえ。台詞と面があ合ってねんだよ。それにこいつに気安く触んな」
「こらおめー失礼だろ!すみません無礼で・・・」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
切島くんがかっちゃんの粗暴に対して謝ってるけど、かっちゃんは私を背中に隠すようにして真堂って人に怒ってる。ちょっと怖かったからかっちゃんが助けてくれてホッとした。
そろそろコスチュームに着替えて会場入りしないと。相澤先生に促されて、私たちは更衣室へと向かった。
説明会場には様々な高校のヒーロー科が集まってきていた。会場にビッチリ埋まるほどの人数が集結していてなんだか酸欠になりそうだ。
ヒーロー公安委員会の人は疲れを一切包み隠そうとせずに、眠たいと言いながら試験内容を説明していく。
「ずはりこの場にいる受験者1540人一斉に勝ち抜けの演習を行ってもらいます。現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」
"ヒーローとは見返りを求めてはならない"
"自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない"
確かにステインはその思想を社会に投じて、その色を深く染み込ませていった。その影響で、ヒーロー公安委員会はヒーローになるための仮免許取得試験の条件をとりわけ厳しくしたようで、条件達成者先着100名を一次試験通過とみなすようだ。
通過条件は3つのターゲットを装着した人にボールを当てるというもの。ボールは一人6個配られる。3つ目のターゲットにボールを当てた人が倒したことになるらしい。そして2人倒した人から勝ち抜きとなる。入学試験と似てるが、対人とロボでは話が全く違う。しかもボールの所持数は合格ラインの2人を倒すギリギリの数だ。2つ当てたとしても逃げられれば他の人に横取りされる可能性だってある。入試以上に熾烈な戦いになることは目に見えてる。
しかも、対人となれば個性の分からない相手に戦うのは不利だ。雄英高校は体育祭のテレビ中継によって個性が全国にバレているため尚更不利。
ターゲットを装着し、ボールを受け取った。いよいよ始まる試験を前に深呼吸を一つ。
よし、やるぞ!!
先着で合格なら同校で潰し合いはない。むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋。
「皆!あまり離れず、ひとかたまりで動いた方が良さそう!」
「フザけろ、遠足じゃねぇんだよ」
「バッカ待て待て!」
かっちゃんは私の提案を無視して走って行ってしまった。うん、分かってたよ。かっちゃんは群れないものね。切島くんと上鳴くんはかっちゃんを追いかけて行ってしまった。
「俺も大所帯じゃ却って力が発揮出来ねえ」
「轟くん!!」
「緑谷時間ねえよ!行こう!!」
轟くんまで一人で行ってしまった。手の内がバレてる私たちが単独で動くのは良くない気がするけどこうなったら仕方ない。
カウントダウンが始まった。なんだか周りの視線が雄英生に集まってる気がする。やっぱ皆考えることは同じだよね。スタートの合図と共に一斉にボールがこちらへ向かって飛んでくる。必殺技を練り上げてた私たちにボールを防ぐなんてなんてことは無いが、数が多すぎる。
傑物学園の生徒がボールを硬化し地中から狙ってくる。耳郎さんが素早く反応し、地面を抉ってボールの軌道が見えるようにしてくれた。
真堂くんが、地面に手を置いた。
「割る!!」
激しい揺れに、地面が割れていきA組のみんなとバラバラになってしまった。
「なまえちゃん!」
「麗日さんっ!」
なんて個性だ。建物のあるとこでは使い辛そうだな。分断されてしまった。傑物学園の術中だ。このまま一人でいたらやられる。一年の訓練の差だ。経験値だけじゃ埋まらない差。全国の強い人たち、怖いけど少しだけワクワクしている自分に気がついた。
ゾワっとして急に目の前から人が現れて右胸あたりにつけたターゲットにボールを当てられた。
「当たった。ダメですよ。ボーッとしてたら。でもピンチなのに笑ってるなんて変なの」
バスを降りた時に会った士傑高校の女の人だ。
「君、カワイイねえ」
構えていつくるかわからない攻撃に警戒するが、女の人はあなたたちのこともっと知りたくて会いにきたとペラペラ喋っている。そんなこと言われても油断しないから。
急に視界から彼女が消える。来るぞ。
わかっていても反応が遅れる。間一髪のところ避け反撃しようにも、また居なくなって反撃ができない。
「消える個性だと思ってる?私はただ隠れてただけよ」
そう言って後ろから地面に押さえつけられた。しまった。個性じゃなく技術訓練の賜物だという。身体を押さえつけられていて動けない。
「あなたは何でヒーローを志してる?名誉?誇り?誰かの為?あなたのことがもっと知りたいな」
ワン・フォー・オールで女の人の下から抜け出したのだが、他の人にも狙われてしまい他勢に無勢だ。とにかくボールを避けまくるしかない。
「大丈夫!!?」
麗日さんの声だ。振り返ると瓦礫の上から声を張り上げている。そんなことしたら他の人に狙われてしまうのに。
「早く!なまえちゃん!」
手を差し伸べる麗日さん。何か策でも有るのだろうか。他の人の攻撃を受けて瓦礫の上から落ちそうになっている。
危ない!
林間合宿で敵に襲われた時、戦うことを選択して腕を壊した。壊していなければかっちゃんを奪い返せてたかもしれない。奪い返せてたらオールマイトはオール・フォー・ワンと戦っていなかったかもしれない。あの時洸汰くんを保護して相澤先生の元へ敵よりも速く駆けられていれば・・・
足を中心に使って鍛える。もう少し早くこの考えにたどり着くべきだった。
落ちていく麗日さんをキャッチすることができた。
人を救けるにはまず自分が無事でいなきゃ!
アイアンソールで地面を蹴って他の人の足場を崩して麗日さんと一緒に瓦礫の影へ隠れた。
「ありがとう。ごめんね、ヘタこいた」
「・・・ん。いや、別にそんな。それより・・・」
振り返って麗日さんの手の中のボールを弾いた。
「ひょっとして士傑の人ですか?」
「はえ?」
「麗日さんは"個性"の訓練をしてごく短い時間なら副作用を気にせず自身へ使えるようになってる。危ない目にあっても発動の素振りすらないし、何より無策のまま敵前に姿を現すなんて私の知ってる麗日さんじゃない」
麗日さんの衣装と顔が溶けていく。えええ、こんなとこで素っ裸になっちゃうの!?だ、大丈夫!?これがこの人の個性なの!?
「気づいてたすけたってことは逆に利用しようとしたの?」
「わっ・・・!そこまで頭回ってません!でも結果的に良かったです。麗日さんじゃないなら尚更浮かんだりできないから、あのまま落っこちてたら確実に背中を痛めてた」
「・・・・・・なるほど。それが君の理由なんだね。もっと教えて欲しいな君のこと」
試験の後じゃダメなの??
「君は誰でもたすけるの?境界は?何を以て線を引く?」
「いや服は!?何で裸!!着てください!!」
「やることやったらね」
そういって走ってきて顔を引っ掻かれて血が出た。なんなのこの人。また引っ掻かれそうになった時、テープが飛んできて私と女の人の間に壁を作った。瀬呂くんだ。
「緑谷何この羨ましい状況!!」
「瀬呂くん!!あらゆる意味でナイス!!」
「麗日!!」
麗日さんが飛び出してきて女の人に攻撃するが避けられしまう。
女の人は麗日さんに何かを言ってどこかへ消えていった。
「あ待て痴女!」
「追わなくていいよ!あの人をポイントにするのは難しいし、逆に狙われるリスクの方が高い・・・それよりも二人は本物?」
「?うん」
「ドンパチやってんの見えて駆けつけたんだよ。麗日とはその途中で合流したんだ」
「そっか。ありがとう!」
とりあえず3人で固まって動くしかない。放送で通過できる人数は残り42名と知らされる。
襲われて気づいたが、抜け駆けしようとする人がいた。多数で少数を狙うってことは獲物を奪い合うことになる。そんな中抜け駆けする人がいたら味方も減って不利になっていくだけだ。全員合格できるだけの人数を拘束して身動き取れなくしてからボールを確実に当てていくのが勝ち筋。そう説明すると二人は納得していた。
「シッ!ちょい待って。来てない・・・?」
「・・・!!」
「私が囮になるから二人は隙をついてなるべく多くの相手を拘束して!瀬呂くんと麗日さんの個性は相手の自由を奪いやすい」
「囮って・・・こっち3人だぜ?数じゃ負ける。無理だ」
「・・・ラジャ」
「ええ!!おい、麗日どうすんだよ」
「っし!行くよ?瀬呂くんと麗日さんならできる!あとは任せたよ!!」
私が飛び出していくと、やっぱり大勢の人に囲まれていた。攻撃を掻い潜りながら何人かのボールを逆に奪って投げ返してターゲットに当てることもできた。確実に昨日の私より成長してる。私に続いて瀬呂くんも出てきて一緒に皆の目を引きつけていく。
「なまえちゃん!瀬呂くん!行きます!!」
麗日さんが浮かせた瓦礫に瀬呂くんのテープがくっついてる。無重力を解除し一気に周囲の人の上にテープが落ちていき、動きを制圧した。
「君ら1年だろぉ?勘弁してくれよぉ。俺らここで仮免取っとかないといけねーんだよ」
「私も同じです・・・ごめんなさい」
ボールをそっとターゲットに押し当てた。
『現在79名!ガンガン進んで良い調子ですよ!』
他の皆は大丈夫だろうか。2次試験会場へと向かう途中、かっちゃん達と合流した。
「・・・通ったんか、なまえ」
「かっちゃん・・・!あ、うん!」
「そんな"力"があれば当然か」
「へ!?え、ええ!!??」
「"借りモン"自分のモンになったかよ。あ、オイ!顔怪我してんじゃねえか!ほんっとなまえてめェは鈍臭いな」
え・・・?かっちゃん、はじめての戦闘訓練の後に言ったこと覚えてたの?あの時は何言ってんだって一蹴してたのに。かっちゃんは怪我してる頬にそっと触れた。その触れ方は言葉とは裏腹に割れ物に触れるかのように優しくてなんだか泣きそうになる。
受け継いだ力のこと、かっちゃん信じてなかったけど、気づいたの?なんでそんな優しく触れるの?
聞きたいことがたくさんあるけど、言葉が出てこなくて、黙ってかっちゃんの肩にぽふんと顔を寄せた。そして問答無用で救護室に連れて行かれ、「頬の怪我の処置をしろ」ってそこに居た医師と看護師に偉そうに指図していた。