かっちゃんの秘密
更衣室から寮に一旦戻って服を着替えたのだが、借りた体操服はかっちゃんのにおいがした。私変態みたいだな・・・いや、脱ぐ時に自然の流れで嗅いだだけでわざとじゃないから。
新しい服着て、ドライヤーして。準備が整った。いざ行かん。かっちゃんの部屋へ。
寮に来てから初めてお邪魔するんだよね。ちょっと楽しみ。部屋王決定戦参加してなかったし皆かっちゃんの部屋を見ていない。
少しドキドキしながら、男子寮のエレベーターに乗って4階まで上がる。誰にも会わなくて少しホッとした。
スマホで部屋の前に着いたよと連絡して、ドアをノックする。中から鍵が開いてドアが開いた。他の人に見られないように速やかに部屋の中に身体を滑り込ませる。
「お邪魔します。わ、かっちゃんの部屋、実家の部屋と雰囲気一緒だね。落ち着くなぁ」
「・・・そうかよ」
「あ、そうだ。コスチューム洗濯するね。濡らしちゃってごめんね。今からランドリールーム行って洗ってくるよ。バスタオルも洗濯しておくから袋ごと貰おっかな」
「バスタオルはいい」
「え、いいの?」
「バスタオルは俺が洗うから、てめェはコスチューム洗っとけ」
かっちゃんが袋からバスタオルだけ回収しようとしているのだが、取り出した拍子に私の下着まで飛び出してしまって2人の間に緊張感が走る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「悪りぃ」
「はっ!だ、大丈夫!こんなの、ただの布だから!!」
慌ててコスチュームの間に下着をねじ込んだ。かっちゃんの顔は少し赤くなっていて、つられて私のまで赤くなってしまう。
黙ったままの空気を打開すべく、立ち上がって部屋を出ようとしたのだが、かっちゃんに腕を引っ張られて足がもつれて転けてベッドに雪崩れ込んだ。こんなことで転けるなんて、圧縮訓練が聞いて泣くわ。
いつぞやみたいにかっちゃんを下にして倒れているので退こうとするがかっちゃんがそれを許さない。なんで!?動けないことを悟って大人しくかっちゃんの上にいるが、私の重みで苦しくないんだろうか。
「か、かっちゃん?」
何も言わず、かっちゃんは私ごとゴロリと回転して今度は私が下になった。見上げるかっちゃんの顔は少し苦しそうだった。私が相当重たかったに違いない。申し訳ない。かっちゃんの手が頬に添えられて、顔が近づいてきた。こういう時は目を瞑るって教わったから目を瞑ったんだけど、この後どうするんだろ。そう思ってたら、鼻をつままれた。苦しい。
「バーカ」
え、唐突に罵られたんですけど。転けたから?納得できるようなできないような、少し複雑な気分だ。
「開発工場ん時の嫌な気分は治ったかよ」
「あ・・・えー、うん。治ったと思う。あ、そうだ。ずっと聞きたかったんだけどあの首んとこ吸うやつ、あれ、何?」
「・・・・・・」
「な、なんか、あれされると、なんて言ったらいいかわかんないけどお腹の奥がギュッて、ヘンな感じになるから」
「・・・・・・」
かっちゃんは顔をわたしの肩にくっつけて何も言ってくれない。髪が首元に当たってくすぐったい。かっちゃんの髪を撫でる。真っ直ぐ綺麗な髪の毛は私のふわふわした髪とは正反対だ。
「それ他のやつに聞くなよ絶対」
「わ、わかった。じゃあ・・・かっちゃんが教えて?」
小爆発がかっちゃんの掌で起こった。かっちゃんはガバッと起き上がってわたしの首に噛みついた。えええええ、痛っ!待って、これで分かった気がする。私の仮説が正しければ・・・
「わ、わかった・・・!!かっちゃん実は個性もう一つあったんだね?吸血鬼的な個性ずっと隠してるの辛かったよね・・・ごめんね気づいてあげられなくて」
「・・・はぁ?」
「ずっと我慢してくれてたんだよね?ちょっとくらいなら血、吸ってもいいよ。絶対誰にも言わないから」
かっちゃんは何言ってんだみたいな顔してる。隠してたのにバレちゃって焦ってるんだね。大丈夫、私誰にも言わないし墓場までこの秘密持っていくよ、心配しないで。
「なまえ、てめェバカも休み休み言えよ」
「え!?」
「まぁ、いいわ。そんならなまえ時々ここに来いよ。俺ん中の吸血鬼が暴れ出す前に血ィ寄越せや」
半笑いでそう言うかっちゃんの手を握った。私でお役にたてるのであれば喜んで身を捧げましょう。かっちゃんの役に立てるのが少し嬉しい。
「わかった。どれくらいのペースで来たらいいの?」
「そうだな・・・毎日」
「毎日!?かっちゃん、今までどうやって生活してたの??」
「はァ?殺すぞてめェ」
そのあと解放されて、コスチュームを持って部屋を出た。首元に残る痛みがかっちゃんの秘密を物語っている。自室に戻って鏡で首元を見たけど、血なんか出ていなかった。吸血鬼が血を吸うと傷もつかないのかもしれない。血を吸ったらどうなるんだろ。力が強くなるのかな。
ランドリールームへ移動して二人分のコスチュームを手洗いしてると、芦戸さんがやってきた。
「ちょっと!なまえちゃん、それ!!爆豪のコスじゃん!!なんでなまえちゃんが洗ってんの」
「あ、いやぁその今日ちょっとしたミスで濡らしちゃって。それで・・・」
「え、それで洗わされてるわけ!?自分で洗えよって言いな!なんでもかんでもしてあげてたらダメだからね!爆豪のためにも、なまえちゃんのためにもならないんだから」
「は、はい・・・?」
物凄い剣幕で言われてたじろいでしまった。
コスチューム専用の乾燥機に入れてスタートボタンを押した。芦戸さんは洗濯機に洗濯物入れてスタート押して出て行った。
乾燥を待ってるときに、自分の必殺技について思いを巡らせた。オールマイトや発目さんの言葉。飯田くんに教わった脚技のコツ。そこから導き出されたのは、ワン・フォー・オールフルカウルシュートスタイル。でもこれはまだ構想段階。はやく構想を形にしなければ使うこともできない。コスチュームが乾燥するのにはまだまだ時間かかるし、外で自主練しよう。
それから私はシュートスタイルの会得のため、自主練を始めた。
圧縮訓練が終われば、仮免取得の試験がある。それまでに仕上げておかないと。シュートスタイルを強化するサポートアイテムがあってもいいかも!もう、夜だけど発目さんならまだ開発工場にいる気がする。
走って開発工場に向かうと、煙がでていた。やっぱり発目さんここに居たんだ。
発目さんは私が脚のサポートアイテムが欲しいと言うと、実はもう作ってあったらしくてすぐに「どっ可愛いこのフットパーツベイビー!!スパイク兼アーマーのアイアンソールなんてどうでしょう!!」と有無を言わさず足に取り付けられた。
仕事が早い・・・
私が腕のサポーターを頼んだ時に、足にもあった方がいいと踏んで勝手に作ってくれてたらしい。発目さんすごいや。かっちゃんの身体に触れてる発目さんに嫌な気持ちを抱いた自分を恥じた。彼女は仕事に熱心なだけなのだ。
受け取ってから、寮のところに戻って自主練をしてたらすっかり夜遅くなってしまっていた。コスチュームの乾燥も終わったのでメッセージを送ったけどかっちゃんはもう寝てるようで既読がつかなかった。
コスチューム綺麗に畳んで明日の朝渡そう。
シャワーを浴びてベッドに潜り込む。このフロアに一人しかいなくて寂しいとか、怖いとか思うよりも先に眠りについていた。