俺が守る
ガキん時からなまえはちょろちょろと俺の周りをうろついて、いろんな所についてきては転んで怪我をしては泣く。そんな泣き虫で鈍臭くてノロマなやつだった。一緒にヒーローごっこをしても守られる側じゃなくて、ヒーローになりたがる。いつもジャンケンで負けてなかなかヒーローになれなくて頬を膨らませる。言ってやらねえけど、こいつジャンケンでいつもグーを出すんだよ。バカだから気づいてないんだろうな。で、遊んでるうちに笑顔になっていく。笑った顔が可愛いってこっそり思ってた。俺が守ってやんねぇとダメだったし、俺がヒーローになって守りたいのはなまえだった。でも教えてやんねぇ。俺がヒーローになるまでは。
個性が発現したのは、幼馴染連中では俺が一番乗りだった。そしてなまえはいつまで経っても、個性の個の字もない状態だった。やっぱり俺が守ってやらないとダメな奴なんだ。周りの奴が“ムコセー“って虐めてる時、なまえを庇う俺は最高にカッコいいヒーローだと思ってた。だから、いつもの公園でなまえのことを執拗に追いかけ転ばせた奴の首根っこを掴んで放り投げて掌の爆発でぶちのめしてやったんだ。なまえを虐めてたくせにやり返されたら泣きだすそいつに分からせてやろうと思った。なまえに手を出したらどうなるかってことを。
だけどなまえはそいつの前に飛び出してきて両手を広げて庇った。てめェのことを虐めてた奴なのに。
「かっちゃん、やめて!泣いてるでしょ・・・?!これ以上はダメだよ」
虐められてた奴なんか庇ってヒーロー気取りかよ。今まで俺が助けてやってたというのに、反旗を翻された気分だった。なまえが喜んでくれると思ったのに、予想と違う反応をされて俺はかなりショックだった。
「ぁア?!“無個性“のくせに、助けてやったのによ、ヒーロー気取りかよなまえ!!」
俺もこういう時にどういう反応すればいいのか分からなかったって言うのもあって、爆発を起こしてなまえを睨みつけてしまった。
このことがあってから、こいつを守ってもまた何かいわれるんじゃねぇかって思って虐められてるなまえをみても守らなかった。守れなかった。なまえに拒否されるのが怖かった。
それでも、なまえは俺の後をついてきていた。それに少しホッとしている自分と、なまえのことを許せない自分がいた。それに“無個性“って言ってしまった後悔もあった。
しばらくして、みんなで探検している時に川に渡された丸太から足を滑らせて落ちてしまったことがある。俺はヘーキだったし、周りのやつもそんなに心配してなかった。それなのになまえは川に入ってきて、心配しながら手を差し出してきた。無個性の奴に、しかも皆の前で助けられるなんて俺のプライドが許さなくってなまえの手を叩いて突き飛ばした。唖然とした顔のなまえをみてやってしまったと思ったけど、皆の手前謝ったりしたくなかった。俺はいつだって正しいって思ってる奴らの前だったから。それに、なまえはどんなことがあっても離れる訳ないって高を括っていた。
それからなまえは俺のところへ来ることは無くなって、なまえはいつも一人だった。
無個性だっつーなまえのことを一番馬鹿にしていたのは俺だったんだって気がついた。
謝らないといけないのはわかってたけど、プライドが邪魔をして、仲違いをしたままいつの間にか俺たちは中学生になっていた。中学生にもなるとなまえはいやでも女なんだなってわかるようになっていた。詳しいことは分かんねぇけど、髪とか肌とかなんか綺麗になってるし、体付きも女のそれだし。
目があった時に、可愛いなって思ったけど、それを悟られたくなくて睨みつけた。周りの男たちでさえもなまえの可愛さに気がつき始めているらしかった。
ある時、個性を使って抵抗できない無個性のなまえを体育倉庫に閉じ込めてまわそうとしてる奴がって聞いていても立っても居られなかった。
すぐさま、体育倉庫に走っていってなまえを閉じ込めようとして倉庫前にいた奴らをブッ飛ばした。なまえにこんなとこ見せたくないからそいつらを体育館から引きずり出して裏で顔の原型がなくなるくらいにタコ殴りにした。
そいつらをのしてから倉庫の鍵を開けると、扉が開かなくて怖かったのだろう、涙を浮かべるなまえがいた。俺を見て安堵したけど、それと同時に俺に怯えてるのも分かった。抱きしめてやりたかったけど、そんなことできない。
「何でこんなとこにいんだよ、バカ。早よ出ろや」
「ご、ごめん」
俺は倉庫に用事がある振りしてなまえが体育館を出るのを見送った。
無個性なんだから俺に黙って守られとけよ・・・独り言は誰にも届かない。
なまえがヒーローになりたがってるのは知っていた。
でも、俺の志望校を皆の前で担任が言った時、なまえの瞳が揺れたのを俺は見逃さなかった。きっとこいつ無個性のくせに雄英を、ヒーローを目指してるんだって分かった。
てめェが敵と戦えるわけないだろ。俺がヒーローになったらなまえのいる場所には敵なんか近づけねぇからのほほんと笑って暮らしてろ。
「そういや緑谷も雄英志望だったな」
その言葉に嘲笑うクラスメイトに苛立ったけど、なまえに諦めさせるチャンスだと思った。なまえの机を爆破し、身体を吹き飛ばした。
「“没個性“どころか“無個性“のてめェがあ、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」
「待っ・・・違う待って、かっちゃん!別に張り合おうとかそんなの全然ないの、本当だよ」
俯いて教室の後ろまで下がっていくなまえはスカートの中が見えてること気づかねえし、他の男がニヤついてるのも気に食わねえ。
「ただ、小さい頃からの目標なの・・・それにその、やってみないとわかんないし・・・」
ようやくなまえは顔を上げたのだが、所謂上目遣いってやつで俺は心臓を掴まれたような気がした。兎にも角にも、足閉じろや。そういう無防備なとこにムカついて胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。顔を近づけると慌ててのけ反ろうとしてるけど壁があってできていない。
わざわざ危ないとこに自ら身を置かなくてもいいんだって分かれよバカ。
「なァにがやってみないとだ!!!記念受験か!!お前みたいな守られてばかりだったやつが何をやれるんだ!?」
「・・・」
何も答えないなまえをみて少し心が痛んだ。
ホームルームが終わり帰り支度をしているなまえの机の上に“将来のためのヒーロー考察ノート“なるものが置いてあって、諦めの悪さに苛立った。そうだ、こいつは何があっても俺の後くっついてきてたやつだった。諦めの悪さは天下一品だ。徹底的に諦めさせないといけない。
なまえのそのノートをひったくると、周りの奴が何だ?見せろって覗き込んできた。なまえが奪い返そうとしてきたが、俺の方が背が高いんだ、届くわけないだろ。両手に挟んで爆破した。
「あーーーーー!!!?ひどいよ、かっちゃん・・・うぅ、なんでこんなことするの」
大きな瞳に涙が浮かんできて動揺したけどやるなら徹底的に。焼け焦げたノートを窓の外に放り投げた。なまえはノートを取ろうと窓から身を乗り出すもんだから慌てて首根っこを掴んで引っ張った。落ちたらどうすんだよこのバカ。
どうにかそれらしい理由をこじつけて、なまえに受験をやめさせようとした。
なまえの肩に手をのせ、反対の手で顔を持ち上げた。少ししゃがんで目線を合わせる。いつの間にこんなに身長差ができてたのか分かんねぇ。顔を赤らめるなまえをみて俺はキスしてぇなって思った。こいつはそこらの女と違う綺麗さがある。
俯いて震えるなまえの頭をポンポンと叩いて離れた。俺の手には、なまえのふわふわとした髪の感触が残っていた。
「爆豪おまえさァ、幼馴染なんじゃねえの?」
「女にも容赦ねぇよな。今日のは流石にやり過ぎなんじゃね」
帰り道につるんでる奴らのそんな言葉にますます苛立って、目の前に落ちてたペットボトルを蹴飛ばした。かといって違うと否定もできない。掌を握りしめて爆発を起こした。
「ガキのまま夢見心地のバカはよぉ・・・見てて腹が立つ。つーかてめェらタバコやめろっつったろ!!バレたら俺の内申にまで火の粉かかんだろ」
振り返って言うが、奴らは震えて後ろを指さすのみ。なんだ?振り返る間もなく、俺は“何か“に身体の自由を奪われた。
「良い“個性“の隠れミノ」
ベトベトした“何か“が俺の体を乗っ取ろうとしている。奪われてなるものかと、個性で抵抗するも纏わりついて離れない。だんだんと息ができなくってきて苦しい。
こんなドブ男に俺が呑まれるかぁあああああ!
「こぉんのぉおおおおおおっ!」
周りにヒーローたちが集まってきているが、このベトベトに有効な個性の持ち主はいないようだ。早くしないと窒息して死ぬ。なんとかこの状況を打開する手はないものか。酸欠で頭もうまく回らない。こんなとこでやられるわけにはいかねえんだよ。
ふと、なまえと目が合った。なんでここに!?逃げろ。巻き添え食らうだけだぞ。
人混みを縫うように走ってくるなまえはカバンを投げて、ドブ男が怯んだ隙に懐に潜り込み俺を引っ張り出そうと手を伸ばしている。
「かっちゃん!」
「何で!!てめェが!!」
「足が勝手に、何でってわかんないよ!!かっちゃんが、救けを求める顔してた」
なまえもドブ男に飲み込まれそうになっている。バカ!俺だけでいいんだよこんな目に遭うのは。何でてめェまで・・・
「デトロイトスマッシュ!!!!!!!」
俺がガキの頃から憧れてきたヒーローの声と技名が聞こえてきて、呼吸できるようになった。オールマイトだ。何でここに!?咳き込んで大きく息を吸い込み新鮮な空気を肺へと送り込んだ。雨が降ってきた。オールマイトの放った一撃でドブ男は吹き飛び、さらには上昇気流が起こり雨が降ってきたと言うのか。何という凄まじい力。ハッとしてなまえを見ると無事だった。だけど正座してヒーローたちにこっぴどく叱られていた。
「君が危険を冒す必要は全くなかったんだ!危うく君は死ぬところだったんだぞ!」
なまえは項垂れて、説教され続けていた。ヒーローたちは何もできず見ていただけなのに、よく説教できるな、あいつは無個性なんだぞ。それなのに、危険も省みずに俺へ手を伸ばしてきたんだ。
「すごいタフネスだ!それにその“個性“!!プロになったら是非ウチのサイドキックに!!」
それに引き換え、俺は大絶賛されていたけど、あいつに負けた気がした。
なまえはぶちまけたカバンの中身を拾ってとぼとぼと帰っていった。
「おい!なまえ!!てめェに助けを求めてなんかねぇぞ!助けられてもねえ!あ!?なあ!?一人でやれたんだ。無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ!恩売ろうってか!?見下すなよ俺を!!」
後ろからなまえの手を掴むとバッと振り返った。大粒の涙をこぼし、おまけに身体がガタガタと震えていた。涙を浮かべているなまえを見て固まった。離して欲しいのか手に力を入れてるがちっとも力入ってねえ。反対の手でなまえの目を拭った。ありがとうって素直に言えない自分に苛立った。
「そんなんじゃないよ、私何も出来なかったもん。かっちゃんが死んじゃうかと思って怖かった。かっちゃんが無事で本当に良かった」
「クソナードが!!お前も死ぬとこだったんだぞ。ちったぁ考えて動けよバカ。泣くな!メソメソしてっとカビが生えるぞバカ」
「う、うん、ごめんね・・・」
なまえを余計に泣かせてしまったもんだから、慌てて踵を返して歩きだした。ヒーローってのがこんな恐怖と、悪意と戦ってるのかと俺は少しビビってしまった。無事で良かったってのは俺のセリフだバカ野郎。
守るって決めてたのに逆に守られた。
ガタガタ震えて、涙をこぼして・・・夢見心地のガキにヒーローなんかできねえよ。強くなって今度こそ俺が守ってやる。