部屋王決定戦
8月中旬、私は今日家を出る。
「メールしたらすぐに返してね」
「うん」
「ご飯ちゃんと食べてね?」
「うん」
母は私の手を強く握った。
「もう嫌だからね」
「うん、わかってる」
母の目には涙が浮かんでいた。もう母を悲しませたりしない。バタンとドアを閉めると、家の中で母が声を上げて泣いてるのがうっすらと聞こえてきて、私まで涙が出てきた。
かっちゃんの家に行くと、赤くなった目を見てかっちゃんが「泣き虫、もうホームシックかよ」と言って涙を指で拭った。
今日はかっちゃんの家の車で雄英高校まで送ってもらうのだ。かっちゃんはまだ一人で動けないし、いつ狙われるか分からないから公共機関も避けないといけない。それで車で送ってもらうらしく、私も一緒に乗せてもらうことになった。
かっちゃんのお父さんが、私たちが後部座席に座ったのを確認して出発した。かっちゃんのお母さんが元気よく手を振っている。
「なまえちゃん、勝己をよろしくね」
「へっ!?こ、こちらこそ、よろしくお願いします?」
「ははは、共同生活、勝己は我が儘言ったりするかもしれないけどなまえちゃんがいたら大丈夫かな」
「うっせぇクソ親父だまれよ。黙って前見て運転しろや」
「は、はい!かっちゃんのことお任せください!」
「はぁ!?なまえも黙れ、すでにホームシックになって泣いてたやつにお世話されるつもりはねんだよ」
かっちゃんはそう言って、ニヤリと笑った。ズルい。それは言わないで欲しかった。ムッとして頬を膨らませたら、手で両頬を押されて空気が抜けていった。
雄英高校の敷地内、校舎から徒歩5分の"ハイツアライアンス"ここが私の、いや私たちの新たな家だ。大きな建物だ。A組全員がこうして集っているのは、みんな保護者からの許可が下りたってことだ。誰一人欠けることなくこの日を迎えられたことは喜ばしい。
相澤先生が寮の入り口前で話し始めた。
「とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」
「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
「俺もびっくりさ。まァ色々あんだろうよ。さて・・・これから寮について軽く説明するがその前に一つ」
相澤先生は手を打った。
「当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく。大事な話だいいか。轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ爆豪救出に赴いた」
「え・・・」
皆は行くのを知っていたし、止められたけどそれでも私たちは尚あの場へ向かった。相澤先生の言葉にクラスメイトたちは俯いて黙ってしまった。
相澤先生は、オールマイトの引退がなければそのことを知らなかったかっちゃんと耳郎さんと葉隠さん以外を全員除籍処分にしていたらしい。行った行かなかった、どちらにせよ理由はどうあれ、私たちは先生たちを裏切り信頼を失ってしまった。
シュンと項垂れる私たちをみて、かっちゃんは上鳴くんを引きずって植木の陰でなにかを聞き出したらしい。
切島くんにお金を突き出した。
「えっ怖っ何カツアゲ!?」
「違え俺が下ろした金だ!」
「いつまでもシミったれられっとこっちも気分悪ィんだ」
きっと、これ暗視鏡のお金だ。切島くんはこのお金で焼肉をしようと言って、少しクラスの雰囲気が明るくなった。切島くんも上鳴くんも周りを明るく才能があるなぁ。
寮は一階が食堂、風呂、洗濯などをする共同スペースで、二階から各個人の部屋になっている。
共同スペースのソファはかなり大きいし、空間も広い。ここでこれから過ごしていくんだ。
「聞き間違いかな?風呂・洗濯が共同スペース?夢か?」
「男女別だ。おまえいい加減にしとけよ?」
「はい」
峰田くん、本当に欲に忠実なタイプの人だと思う。
ちなみに私の部屋は2階で、女子フロアに一人しか居ない。寂しすぎる。誰か部屋変わってと言ったけど、相澤先生に勝手に部屋変えるなよと怒られた。
部屋にはエアコン、トイレ、小さな洗面台に冷蔵庫にクローゼットまで付いているし、ベランダもある。
今日は一日荷解きをして部屋を作るらしい。
がんばるぞ!
私は今回、オールマイトグッズは厳選してフィギュア一体だけ持ってきた。実家の自分の部屋はそのまま残しておきたかったのだ。母が空っぽの部屋を見たらきっと悲しくなるから。
寮の部屋のテーマは、女の子!
これまでがオールマイトだらけのオタク部屋だったから心機一転可愛らしい部屋にしてみようという試みだ。
ナチュラルな色の木の家具を揃えて、白とグレーを基調に小物を飾ったりしてみた。そして入り口の壁に小さな飾り棚を取り付けてそこにオールマイトの小さなフィギュアをのせた。なんかこれ神棚みたい。オールマイトのフィギュアは守り神ってことにしよ。
部屋の隅に背の高い間接照明を置いて点けてみる。割とおしゃれっぽいぞ、これ。
デスクのところには、大きな丸いライトが何個もついた所謂、女優ミラーを置いた。別に化粧するわけじゃないんだけど、最近髪を巻いたりアレンジするからその時に大きな鏡があると便利だからね。
ベッドの布団のカバーはシンプルに無地の淡いグレーにした。
ふわふわの毛足の長めな白いラグを床に敷いたし、写真立てを本棚にのせて完成!
お昼ご飯を挟んでの荷解きが終わったのはもう夜だった。ベッドに横になってたら、女子のグループトークにメッセージが届いた。
『みんな荷解き終わった?終わった人は一階に集合!』
一階へ行くと、みんなもう集まっていた。葉隠さんと芦戸さんが「男子の部屋見に行かない?」と提案して、面白そうなので皆で見に行くことにした。
男子のリビングでかっちゃん以外が座ってくつろいでいた。
「男子、部屋できた?」
「うん、今くつろぎ中」
「あのね!今話しててね!提案なんだけど!お部屋披露大会しませんか!?」
「いいね!やろうぜ!」
そう言って始まった部屋のお披露目大会。まずは男子の部屋から。
常闇くんはドアの前に突っ立って誰も入れないようにしてたけど、芦戸さんと葉隠さんが押し退けて無理矢理侵入した。部屋は真っ暗真っ黒。怖い。なんかすごいねって言って私は部屋を出た。
青山くんはなんか、まあ予想通りだな。あと2階の人は・・・峰田くんだ。
血眼になって息が荒い峰田くんが入れよって手招きしてるけど、私たちはUターンしてエレベーターで3階に向かった。
尾白くんの部屋はシンプルで普通な感じ。
「いいね!普通な感じ!」
「緑谷、それは逆に失礼だぞ」
「えっ・・・!」
飯田くんの部屋は、本がたくさんあるし、眼鏡がめっちゃ並べてあった。こんなにいるの?
上鳴くんの部屋はなんか、男子高校生って感じする。壁にはダーツのおもちゃも飾ってある。なんか、チャラいなぁ。
「上鳴くん、チャラい」
「ええー、よくね?」
口田くんの部屋はウサギがいた。私とても高評価させて頂きます。モフモフしてて、可愛くてずっと触っていたい。
「え、可愛い・・・口田くん抱っこしてもいい?」
口田くんはコクコクと頷いている。そっと抱き上げるとモフモフが膝の上で大人しくちょこんと座っている。
私がウサギを抱っこして、麗日さんと芦戸さんが横から撫でる光景を上鳴くんはズルいと言いながら写真撮ってた。・・・そういえば上鳴くん、よく私の写真撮ってるけど何でだろうと思ったけど、膝の上のウサギが可愛すぎてその疑問はどっかへ飛んでいってしまって結局聞くことはなかった。
「釈然としねぇ」
「ああ・・・奇遇だね俺もしないんだ釈然・・・」
「そうだな」
「僕も」
「男子だけが言われっ放しってのはぁ変だよなァ?"大会"っつったよな?なら、当然!女子の部屋も見て決めるべきじゃねえのか?誰がクラス一のインテリアセンスか全員で決めるべきなんじゃねぇのかあ!!?」
力強く地を這うような声で叫ぶ峰田くんに男子は賛同している。芦戸さんもその意見に賛同したので、私たちの部屋もお披露目することに。私の部屋はオタク部屋じゃないから、見せても大丈夫・・・なハズ。
「じゃあ、部屋王を決めるってことで!」
「部屋王・・・」
男子棟4階はかっちゃんと切島くんと障子くんだ。
だけどさっきからかっちゃんの姿はない。
「爆豪くんは?」
「くだらねぇ先に寝るってよ。俺も眠い・・・」
そっか。かっちゃんもう寝ちゃったのか。
かっちゃんの部屋遊びに行きたかったのにな。
「じゃあ切島部屋!!ガンガン行こうぜ!!」
「どーでもいいけど多分女子にはわかんねぇぞ・・・この男らしさは!!」
私たちは熱血な部屋に言葉を失った。
「・・・うん」
「彼氏にやってほしくない部屋ランキング2位くらいにありそう」
「アツイね、アツクルシイ!」
「本当だ、こりゃ暑苦しい・・・切島くんは漁師になりたかったの?」
「ちげぇよ」
「え、大漁って書いてるのに?」
私が大漁とかいてある旗を指差して聞くと、切島くんは説明に困ったようで、次の障子くんの部屋へ行けと私の背中を押して部屋を追い出された。
障子くんの部屋は、敷布団、ローテーブル、座布団しかない。必要最低限しかない。すごい。
5階フロアへと移動する。
瀬呂くんの部屋はアジアンテイストで、何やら甘ったるいお香の匂いがした。
「エイジアン!」
「ステキー!」
「へっへっへギャップの男瀬呂くんだよ!」
「すご!瀬呂くん、お洒落な部屋なんだね!もっとテープとかで飾りつけられてるのかと思った」
「緑谷、お前・・・」
お次は轟くんの部屋。ドアを開けると、そこは・・・和室だー!?しかも、窓のところは障子だし。すごい和だ。和しか感じない。
どうやってリフォームしたんだろ。そういえば、轟くん食堂で和食しか食べてるとこ見たことないな・・・
砂藤くんの部屋は、甘い匂いがした。
シフォンケーキ焼いてたらしい。みんなに切り分けてくれた。もはやケーキしかみてなくて、部屋のインテリア覚えてないや。頬張りながら廊下を歩く。次は女子棟にいくから、一旦エレベーターで一階に降りて、女子エレベーターに乗り換えないといけない。
2階フロアは私だけなので、すぐ終わるだろう。
みんな私の部屋にやってきた。
入ってすぐの飾り棚をみんな神棚かよって突っ込んでる。やっぱそう見えるよね。
「わぁ!なまえちゃんの部屋めっちゃ大人っぽい!可愛い!」
「うお!ザ・女子って感じの部屋だな!」
「スハスハ!ハァ、女子の匂い!!緑谷の匂い!!」
「峰田、そろそろ本当お前やべぇよ。捕まるぞ」
「この写真・・・爆豪と緑谷がちっせぇ頃の写真か?」
あ、写真の存在忘れてた!慌てて隠そうとするけど、切島くんに奪い取られて皆にマジマジと見られた。
「緑谷、お前すっげぇ可愛くなったんだな。いや、ちっせぇ頃が可愛くないとかじゃなくて・・・」
「いいの、私ちっちゃい時男の子と間違われるくらい髪の毛短かったし日焼けしてたし」
「それに引き換え、チビ爆豪今と全然変わんねぇな!」
「爆豪はこの頃から緑谷のこと・・・ああ見えて健気なんだな」
そう言って皆は写真立てを本棚にそっと戻して部屋を出ていった。私の頭には疑問符が浮かんでいる。健気ってどういう意味?
その後も、女子部屋を見て回ったのだが、最後の八百万さんの部屋には度肝を抜かれた。
天蓋付きのベッドで部屋がパンパンだ。こんなことってある?どうやってベッド部屋に入れたの!?
こうして部屋ツアーが終了し1階へ戻ってきた。
部屋王を決定するために投票を行った。
そして、第一回部屋王の王座に輝いたのは得票数6票!圧倒的独走、単独首位を叩き出した部屋は・・・
「砂藤ーーー力道ーーー!!!」
「はああ!!?」
「ちなみに全て女子票!理由はケーキ美味しかったからだそうです」
「部屋は!!」
砂藤くんは皆に小突かれながらも嬉しそうにしていた。お開きになったとき、麗日さんに呼び止められた。
梅雨ちゃんが、かっちゃん救出メンバーに話があるらしい。
「私は思ったことは何でも言っちゃうの。でも何て言ったらいいかわからない時もあるの。病院で私が言った言葉憶えてるかしら」
"ルールを破るというのならその行為は敵のそれと同じなのよ"
憶えてる。梅雨ちゃんは引き留めるためにわざとキツい言い方をしてたんだな。
「皆行ってしまったと今朝聞いてとてもショックだったの。止めたつもりになってた。不甲斐なさやいろんな嫌な思いが溢れて・・・何て言ったらいいのか分からなくなって皆と楽しくお喋りできそうになかったのよ。でもそれはとても悲しいの。だから・・・まとまらなくってもちゃんとお話をしてまた皆と楽しくお喋りできるようにしたいと思ったの」
梅雨ちゃんはケロケロと泣き出した。
私たちだけじゃない。皆合宿でとても怖い思いをしている。そんな不安を拭い去りたくて、楽しく過ごすため部屋王決定戦とかして、いつものヒーローを目指し切磋琢磨する日常に、元に戻そうって頑張ってくれてたんだ。
私は梅雨ちゃんを抱きしめてごめんねと謝った。皆も梅雨ちゃんを囲んで謝罪して、和解した。
部屋に戻ったのだが、2階の部屋は私1人だけ。寂しい・・・。もう皆寝ちゃってるもんなぁ。共同スペースへと降りるとリビングから音が聞こえた。チラリと覗くとかっちゃんがソファーに座ってテレビを見ていた。
「かっちゃん」
「・・・なまえか。何だよ、ホームシックか?」
「ち、ちがうよ!」
かっちゃんの隣に座るとかっちゃんは何言わずテレビの画面を見ていた。
かっちゃんがいると安心するなぁ。かっちゃんの肩にもたれかかると、ビクッとして固まったけど避ける素振りもないのでそのまま肩にもたれていた。気づいたら寝ていたようで、かっちゃんに背負われて部屋に運ばれていた。
「んーー、眠い」
「俺も眠いわバカ」
ベッドに降ろされて布団をかけられた。
出て行こうとするかっちゃんの手を掴んだ。
「さ、寂しいから私が寝るまでそばにいて?」
「・・・ハァ。なまえ誰にでもそんなこと言ってんのか?」
「えー?言うわけないじゃん。かっちゃんにしか言わないもん」
「・・・」
かっちゃんは私の部屋を見回している。
「部屋王決定戦かっちゃん来なかったね」
「くだらねぇもんに付き合ってられっかよ」
「みんなの部屋見るの面白かったよ。かっちゃんの部屋にも遊びに行かせてね」
「・・・はよ寝ろガキんちょ」
そう言ってかっちゃんは私のベッドの横に腰を下ろして私の額をペシンと叩いた。
その後も何か喋った気がするけど憶えてない。気がついたら朝になっててかっちゃんの姿はなくなっていた。