オールマイトの家庭訪問
私たちはあの後、轟くんたちと合流してかっちゃんを警察に送り届けた。
かっちゃんは警察のところへ行くまでずっと黙ったままだった。
離れたくなくて泣きそうになっている私を見てかっちゃんは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わず歩いて行った。
その後ろ姿が見えなくなるまでずっと佇んでいたのだが、八百万さんに声をかけられてようやく歩き始めた。
半日以上かけて家路を辿った。
「では!」
「ありがとうな、みんな!」
「お三方!真っ直ぐ帰ってくださいね!?」
「うん、本当にみんなありがとう!みんなが居てくれなかったらかっちゃんを奪還できなかったと思う。本当に本当にありがとう」
「じゃあ・・・また学校で」
そう言って皆と別れた。皆疲れた顔をしている。それもそうだ。あれだけの大事件の真っ只中に飛び込んでいったのだ。
かっちゃんは無事だったけど、オールマイトは大丈夫だったのかな。色々なことがありすぎて考えが追いつかない。とぼとぼと歩く道すがら、かっちゃんに無事に地元の駅に着いたよとメッセージを送った。きっとまだ警察で事情聴取を受けてるんだろうな。
家に着くと母が心配してくれていた。
「おかえり。オールマイト・・・大変だったみたいだね。なまえも帰り道大変だったでしょ」
「・・・うん。疲れちゃったから少し寝るね」
「そうね、疲れてるものね。ご飯できたら起こすからそれまでゆっくりしておきなさい」
「ありがとう」
服を着替えてベッドに潜り込んだ。
この先どうなるのか、私の行動は本当にあれで良かったのか、不安で頭がいっぱいになって
、枕に顔をうずめた。いつの間にかスマホを握りしめたまま眠りについていた。
どれくらい寝たのだろう。スマホが振動して目が覚めた。画面をみるとオールマイトからの電話だった。
多古場海浜公園にて待っているとそう言って電話は切れた。スマホにはオールマイトからの着信が何回かあった。ずっと待たせているのかもしれない。
慌てて起き上がると、走って玄関に駆けて行った。「もうご飯できるよ!?」と母に声をかけられたが「後で!」と叫んで家を飛び出した。
走っていくと浜辺に包帯を巻いて右腕を固定したオールマイトが立っていた。
「お!やっと来た・・・!」
「オールマイト!!!」
「遅いよ、もーーー!!」
「オールマイト!」
オールマイトが乙女のように手を振りながら駆けてくる。
「テキサス・・・スマッシュ!!」
え、・・・そんなに待たせたの怒ってる?思いっきり右の顔を殴られた。これでも一応嫁入り前の女の子なんですが私。でも力が全然入ってなかった。砂の上で尻餅をついた私をオールマイトは拳を握りしめて本気で怒ってる。
「君ってやつは本当に言われたことを守らない!!全て無に帰るところだったんだぞ。全く誰に似たのやら・・・緑谷少女、私ね・・・事実上の引退だよ。もう戦える体じゃなくなってしまった」
「・・・」
オールマイトはマッスルフォームで正拳突きをするが、4回程度で血を吐きながらトゥルーフォームに戻ってしまう。
「ワン・フォー・オールの残り火は消え・・・おまけにマッスルフォームもろくに維持出来なくなってしまった。だと言うのに、君は毎度毎度何度も飛び出して行ってしまうし・・・!何度言っても体を壊し続けるし!!だから、今回!」
ああ、きっと怒られる。また勝手に、かっちゃんの奪還のために動いたこと。オールマイトがバッと手を振り上げたので私は目をギュッと閉じた。
「君が初めて怪我をせず窮地を脱したこと、すごく嬉しい。これから私は君の育成に専念していく。この調子で・・・頑張ろうな」
そう言ってオールマイトは砂の上にペタリと座り込んでる私を左腕で抱きしめた。
「うっ・・・オル・・・オールマイト、私っううっ」
「君は本当に言われたことを守らないよ・・・その泣き虫なおさないとって言ったろう」
「うわぁぁぁぁぁあん、オールマイト!」
頬に残る弱々しい痛みがオールマイト時代の終幕をじんじんと告げていた。なかなか泣き止まない私にオールマイトはジュースを買ってくれて、泣き止むまで背中をさすってくれた。なんかお父さんみたいって言ったらオールマイトは目を細めて笑っていた。
泣き腫らした目を誤魔化すように家に帰って、顔を洗った。それでも目は腫れたままだった。
母が温かいご飯をよそってくれて久しぶりに一緒に食事をとった。
「・・・美味しい、お母さんのご飯本当に美味しいなぁ」
「ふふふ、久しぶりだもんね、お母さんのご飯。・・・・・・ねぇなまえ。雄英行かなきゃダメ・・・?」
「え・・・」
お母さんは目を伏せて言った。
「突然、個性が発現したっていうのもお母さんびっくりしたんだけどね、高校に入ってからなまえは大怪我してばかりじゃない・・・。敵にも何度も遭遇して死ぬかもしれないような危ない目に合ってる。お母さん心配なの。しかも今後全寮制になるって言うし・・・目の届かない場所になまえを行かせたくない・・・」
母の気持ちは分からなくもない。それにうちは父がずっと海外に単身赴任してて家には私と母の二人きりだ。わたしが寮に入ってしまうと母はこの家に独りぼっちになってしまう。
「でっ、でも!私は雄英がいいの。小さい頃から憧れてた高校に必死に努力して、やっとの思いで入れた。それに憧れのオールマイトもいる・・・」
「そう・・・そうよね。うん・・・分かったわ」
それから私たちはその話題を忘れるために、テレビをつけてバラエティー番組を見た。それでも二人の間の空気は、暗く淀んだままだった。
お風呂から上がるとかっちゃんから電話がきた。家の下に来ているという。下に降りるとかっちゃんがポケットに手を突っ込んで壁に寄りかかって立っていた。
「かっちゃん!!どうしたの!一人で外に出たらダメなんでしょ!?」
「うるせェ、家もどうせバレてるだろ。家に居ても居なくても一緒だわ」
「そ、そんなっ、とにかくうちに上がって」
かっちゃんの手を引っ張って家へと連れ帰った。
母はかっちゃんをみて、一人で外に出たらダメなんじゃないの!?と私とおんなじ様に驚いていた。
部屋に案内していると母がかっちゃんのお母さんに電話している声が聞こえた。きっとかっちゃんのご両親がうちまで迎えに来るんだろう。
かっちゃんは小さく舌打ちして私の部屋のラグの上に座った。どうしたんだろ。
「・・・・・・」
「かっちゃん?」
「あのクソガキ救けるために大怪我したんだってな」
「あ、う、うん」
「大怪我してたのに、動いてたんだろ」
「え、えっとー・・・あの、その」
かっちゃんの声色は少し怒ってる感じだ。
「こっち座れ」
かっちゃんの正面に座ると、私の包帯だらけの手を握った。
「俺は来んなって言ったのに来やがって。バカにも程があるだろ」
「・・・ごめんなさい。でも!」
「自分のこともなまえことも守れるくらいになっから。そん時、伝えたいことがある」
「・・・?う、うん・・・」
「・・・まあ、ありがとな」
「・・・!!」
嬉しくなって笑うと、それを見たかっちゃんがわたしの髪をぐしゃぐしゃにした。
「かっちゃんが無事で本当に良かった。もう会えなくなったらどうしようって怖かった。こうやってかっちゃんが居てくれるのが嬉しい。それにこうやって小さい頃みたいに仲良くしてくれて本当に嬉しい。ありがとうかっちゃん」
「・・・」
大きな溜め息が聞こえて、かっちゃんにほっぺをつままれた。
「い、いふぁい!」
家のインターホンが鳴って、玄関から賑やかな声が聞こえてくる。かっちゃんのご両親が迎えに来たのかも。部屋を出るとかっちゃんはお母さんに頭を叩かれて怒られていた。心配するのはどこのお母さんも同じなんだな。
「勝己!あんたって子は本当に!よそ様に迷惑かけて!!引子さん、なまえちゃん、ごめんね、うちの馬鹿息子が迷惑かけて。なまえちゃんまたいつでも遊びに来てね。ほら!帰るよ!!」
そう言ってお母さんはかっちゃんを引きずって帰っていった。
私は手を振ったけど、かっちゃんはそっぽを向いていた。
翌日、家庭訪問でオールマイトが家にやって来た。
憧れのヒーローが家にやってくるなんて人生って何が起こるか分からないって改めて思った。母もオールマイトを目の前にしてコーヒーを運ぶ手が震えていた。
「えー事前にお話行ってるとは思いますが、雄英の全寮制について・・・」
「ハイ、えとその件ですが、私・・・嫌です」
「お母さん!?昨日は"うん"って言ってたじゃない!」
「考えてたんだよ!?でもね、嫌なの!なまえは個性が出なくてそれでもずっとあなたに憧れてきました。でも奇跡的に個性が発現してから、雄英に入ってからなまえどんどんボロボロになっていくんです。なまえの腕知ってますか?これ以上怪我が増えると動かなくなるかもしれないって・・・!」
お母さんは緊張で震えてたはずなのに、今は全然震えてない。むしろ語気が強くなっていっている。
「先日の戦い、テレビで拝見しました。一人の一般市民としてもとても感謝しています。が・・・親としては怖かったです。なまえはあなたに憧れてます。なまえの行く末があんな血みどろの未来なら、私はこの子が無個性のまま誰かと結婚して幸せに暮らしてるほうが良かったのにって思ってしまうんです」
「お母さん!!」
椅子から立ち上がって抗議の声をあげる。
「なまえ、応援はするけどそれは心配しないってことじゃないって言ったよね。なまえはこのまま雄英に通いたいよね。でも・・・ごめんねなまえ」
そうだよね・・・心配しない親なんていないもん。私は母の気持ちをないがしろにしていた。当然の帰結だ。
「ハッキリ申し上げます。なまえの親として今の雄英高校に娘を預けられるほど、わたしの肝は据わっておりません」
「お母さん・・・」
母は、涙を浮かべながらもはっきりとした口調でオールマイトに思いを伝えている。
「どうしてもヒーローになりたいなら別に・・・雄英でなくともヒーロー科はたくさんありますよね」
辛いけど、でも、私はヒーローになることがゴールなのであって、雄英高校に通うことがゴールなのではない。私は走って部屋に行き洸汰くんからの手紙を持ってリビングへと戻った。
「いいよ。雄英でなくたって。見て。オールマイト、お母さん。手紙もらったの。合宿の時救けた子から。ヒーローどころか個性すら嫌っていた子がありがとうって言ってくれたの。まだめちゃくちゃ心配されててダメダメだけど、それでも、一瞬でもこの手紙がこの子が私をヒーローにしてくれた!嬉しかったの!雄英でなくたってどこだっていい!私絶対にヒーローになるから!」
それを聞いたオールマイトがマッスルフォームで母に向かって土下座をした。
「私はなまえさんが、私の後継に相応しいと・・・すなわち平和の象徴になるべき人間と思っております」
母は慌てて土下座をやめさせようとしている。
「なまえさんにわたしの全てを注がせては貰えないでしょうか!!この命に代えても守り育てます。立派なヒーローにしてみせます」
母はふらりと床に座り込んだ。
「・・・やっぱり嫌です。だってあなたはなまえの生き甲斐なんです。雄英が嫌いなわけじゃ無いんですら。なまえに幸せになってほしいだけなんです・・・だから、命に代えないでちゃんと生きて守り育ててください。それを約束して下さるのなら私も折れましょう」
「お母さん・・・」
「約束します」
母の後ろ姿は、すっかりと小さくなっていた。
「なまえも雄英で生活していくならわかってるわね?」
「絶対心配させない!」
こうしてオールマイトによる家庭訪問が終わった。私はオールマイトを家の下まで送りに行った。
「いいお母さんを持ったな」
「・・・はい」
「お師匠・・・どことなく先代と似ているよ」
「え!?お母さんが!?」
「うん、髪型とか」
「髪かぁ」
オールマイトの姿をみて近所の人達が騒ぎ始めたので、慌てて車に乗って帰っていった。
これから雄英での新生活が始まるんだ・・・
もっともっと強くなって母に心配かけないようにしなくっちゃ。