爆豪勝己を奪還せよ



私はあの後、気を失ったらしい。すぐに病院へとドクターヘリで搬送されたのだが、二日間気絶と悶絶を繰り返し高熱にうなされていたという。それにリカバリーガールがきたり、警察が訪ねてきたらしいけど何一つ覚えていない。

気がつけば見慣れぬ天井を見つめていた。病院なんだろうなと分かったけど、今日が何日なのかあれからどれくらい経ったのかわからない。
横のテーブルを見れば母の字のメッセージカードとりんごが置いてある。

かっちゃんはどこにいるんだろう。どうか無事でいて欲しい。洸汰くんは?どうなったんだろう。もっと私に力があれば、強い身体だったならこんなことにはならなかったのに。
涙がぽろぽろと溢れて止められなかった。苦しくて息が上手くできない。


「あー緑谷!!目ぇ覚めてんじゃん!つか、泣いてる!?」
「え?」

上鳴くんを先頭にクラスメイトたちがぞろぞろと病室へ入ってきた。

「入っても大丈夫か?」
「ご、ごめっ、大丈夫だよ。A組の皆で来てくれたの?」
「いや、耳郎くんと葉隠くんは敵のガスによって未だ意識が戻ってない。そして八百万くんも頭をひどくやられここに入院している。昨日丁度意識が戻ったそうだ。だから来ているのはその3人を除いた」
「15人だよ」
「爆豪いねぇからな」
「ちょっ轟」
「・・・・・・」

涙がまた一筋頬を伝って枕を濡らした。

「オールマイトが言ってたの。手の届かない場所には救けに行けないって。だから手の届く範囲は必ず救け出すんだって。私は手の届く場所にいた。必ずかっちゃんを救け出さなきゃいけなかった。私の個性はそのためのものなのに・・・。入学初日に、"一人助けて木偶の坊になる"って、相澤先生の言う通りになった・・・体動かなかった・・・!」
「じゃあ今度は救けよう」

切島くんがそう言った。

「・・・?」
「実は俺と轟昨日もきててよぉ、オールマイトと警察が八百万と話してるところに遭遇したんだ。八百万が脳無にとりつけた発信機があるらしい。その発信機のデバイスを八百万に作ってもらえば・・・」
「まて、切島くん!プロに任せるべき案件だ!!生徒の出ていい舞台ではないんだ!馬鹿者!!」

切島くんの言葉に、飯田くんが強く食ってかかる。

「んなもんわかってるよ!!でもさァ!何っも出来なかったんだ!!ダチが狙われてるって聞いてさァ!!なんっも出来なかった!!しなかった!!ここで動かなきゃ俺ァヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」

ほかのクラスメイトたちも飯田くんの言葉に賛成している。

「なァ!緑谷!!まだ手は届くんだよ!」

ドクンと心臓が鳴った。まだ間に合うの?かっちゃんを助けられる?

「ヤオモモから発信機のやつもらって、それで辿って・・・自分らで爆豪の救出に行くってこと!?」
「敵は俺らを殺害対象だと言い、爆豪は殺さず攫った。生かされるだろうが殺されないとも言い切れねぇ。俺と切島は行く」

轟くんがそういうと、飯田くんが憤怒した。障子くん、青山くん、常闇くんもその提案には反対した。とどめに梅雨ちゃんが「どれ程正当な感情であろうとまた戦闘を行うというのなら、ルールを破るというのなら。その行為は敵のそれと同じなのよ」と言った。病室は一気に静かになった。みんなの言い分はよくわかる。だけど、私は・・・私はかっちゃんを救けたい。

病院の先生が部屋に入ってきて診察の時間だと告げ、みんなは部屋を出て行った。
切島くんだけはまだ残ってこっそり私に作戦を伝えた。

「行くなら即行。今晩だ。重症のおめーが動けるかは知らねえ。それでも誘ってんのは緑谷が一番悔しいと思うからだ。今晩病院前で待つ」
「・・・わかった」

私の答えはもう決まっていた。

診察で私はもう同じような怪我が続けば腕の使えない生活になると言われた。答えられず黙っていると、先生は胸ポケットから一枚の紙を取り出した。

「ただ君に救けられた人間はいる。病は気から・・・あんま思い悩まず前向きにね」

そう言って渡されたのは洸汰くんからの手紙だった。無事だったんだ。良かった。
私は夜指定された時間に病院の前へ行くため、忍び足でナースステーション前を通り、こっそりと外へ出た。
八百万さんと外へ出る直前、鉢合わせた。

「緑谷さん・・・やはり行くんですね」
「うん。行くよ」
「・・・わかりました」

切島くんと轟くんが私たちを見て、不安と安堵が混ざったような表情をしている。

「緑谷、行くんだな?」
「うん」
「八百万は、答え・・・」
「私は・・・」
「待て」

振り返ると飯田くんがいた。飯田くんは、私たちが取り返しのつかないことになったらと心配をしてくれている。でも、私たちはルールを破らずにかっちゃんを取り戻す算段はきっとある。

「飯田くん、あのね、私たちルールを破っていいだなんて思ってないよ」
「・・・俺だって悔しいさ!!心配さ!!当然だ!!俺は学級委員長だ!クラスメイトを心配するんだ!爆豪くんだけじゃない!!・・・緑谷くん、君の怪我をみて床に伏せる兄の姿を重ねたんだ。君たちが暴走した挙句兄のように取り返しのつかない事態になったら・・・僕の心配はどうでもいいって言うのか!!僕の気持ちは・・・どうでもいいっていうのか・・・」
「飯田くん・・・」

飯田くんは私の肩に手を置いて、震えている。きっとお兄さんのことを思い出してるんだ・・・

「飯田。俺たちだって何も正面きってカチ込む気なんざねえよ。戦闘なしで救け出す」
「ようは隠密活動!それが俺ら卵のできるルールにギリ触れねえ戦い方だろ」

八百万さんは私たちのストッパーの役割をするために元々同行するつもりだったそうだ。

「私、手が届くって言われたらいてもたってもいられなくって・・・救けたいって思っちゃうんだ・・・飯田くんが攫われても私は絶対同じことするよ?」
「・・・平行線か。ならば僕も連れて行け」

八百万さんも飯田くんも一緒に来てくれるのは心強い。私たちで絶対にかっちゃんを取り戻す。
それから私たちは新幹線へと乗り込んだ。弁当をかっこみ、かっちゃん奪還に備える。
隣の席に座った八百万さんが、私の強く握っていた拳に触れて、手を繋いでくれた。怖い・・・かっちゃんを失うことが。
敵に連れて行かれる時、かっちゃんは「来るな」と言った。私に救けられるのは屈辱かもしれない。けれど、私の人生にかっちゃんがいなくてはダメなのだと、病院のベッドに伏せているときに思った 。だって私たち幼馴染だから。

神奈川県横浜市神野区。
発信機のデバイスの座標はここを示している。到着してすぐにいこうとするが、敵に顔が割れている私たちは隠密に活動するため変装をすることにした。
八百万さんの提案でドンキで変身グッズを購入した。私は白いサラシを巻いて背中に"喧嘩上等"と刺繍が入った赤い特攻服を着て、黒の特攻足袋を履いていた。そして金髪ロングヘアのウィッグ。完全に夜の街を徘徊するヤンキー女子スタイルだ。それに黒いマスク。なにこれ、私じゃないみたい。

「・・・オ、オッラァ!!コッラァ!!」
「ちげぇ、もっと顎をクイクイやんだよ!自信持てよ緑谷、今おめーはレディースの総長なんだよ!吃るな」
「が、がんばる!」
「威圧感のないヤンキーだな」

みんな変装していざ出陣!と言う時に、雄英じゃんと声がしてビクつく。振り返れば、ビルのモニターに雄英高校の謝罪会見動画が映し出されていた。体育祭開催の件から雄英の基本姿勢は把握しているはずなのに悪者扱いして、今回の件の対策の不備がなかったのかと責め立てられている。
私たちは何も悪くない。襲ってくる方が圧倒的に悪いのに、他人からすれば結果が全てなのだ。空気が淀んでいく。

発信機の示す場所へと移動する。敵は丸一日この場から動いていないらしい。敵がいるからといってかっちゃんがいるとは限らない。だけど一縷の望みをかけてやって来たのだから、今更後には引けない。
飯田くんや八百万さんが危険な場合は、止めると言ってくれている。

「私たちができる範囲でできることを考えよう・・・・・・」

外から敵のアジトを見て回る。

「電気もついてねーし、中に人がいる感じはねぇな」
「木を隠すなら森の中。廃倉庫を装っているワケだな」
「みて、正面のドア、下に雑草が茂ってる。他に出入り口があるのかな?どうにか中の様子を確認できないかなぁ」

私が門扉から中を覗いていると、背後で八百万さんが酔っ払いに絡まれていた。

「ぁあ゛!?オッサン、この子から離れろや。バイクで市中引き回しされてぇのか!?」
「ひっ!」
「やればできる子緑谷なまえ。しっかし市中引き回しって、江戸時代とヤンキー混合してんな、おめー」

八百万さんのピンチに、私は吃らずメンチを切ることに成功し切島くんに褒められた。たぶん。


「一旦離れよう」

私たちは建物の横の細い路地に入った。人が一人やっと通れるくらいの狭さだ。高い位置に窓があるが、なんとか中が見えそうな位置だ。暗視鏡を作ろうとする八百万さんを止めた切島くんはポケットから暗視鏡を取り出した。今日のためにわざわざアマゾンで購入したらしい。
私それ知ってる。5万円ちかくするやつだ。切島くんもそれだけ本気だってことだ。
私は轟くんの肩に乗って窓から中をそっと覗いた。やっぱり暗視鏡ないと見えないか。

「うおっ!!」
「切島くん!?」
「っベェ!!」
「どうしたの?何か見えた?」
「左奥・・・!緑谷左奥見ろ!」

暗視鏡で見えたのは無造作に置かれた脳無たち。ここは脳無の格納庫なのか。
覗いていると急に突風に煽られてウィッグとマスクが吹き飛び、さらに轟くんの肩から落ちそうになった。轟くんが咄嗟に足を掴んでくれたので肩車される形でなんとからその場に留まった。轟くんがそっと地面に降ろしてくれる。
突風はMt.レディがアジトを攻撃したものによるものだった。プロヒーローが何人も集結している。

「ヒーローは俺たちなどよりもずっと早く動いていたんだ・・・!」
「すんげえ」
「さぁすぐに去ろう。俺たちにもうすべき事はない!」
「オールマイトの方ってMt.レディ言ってた・・・ってことはかっちゃんはそっちにいるのか・・・」
「オールマイトがいらっしゃるのなら尚更安心です!さぁ早く・・・」

プロヒーローたちの元へ何かが出て来て話し始めた。弔の名前を出している。
現れたやつの気迫で振り向くことすらできない。一瞬で私たちに死を錯覚させるほどの気迫。弔・・・死柄木のことだ。オールマイトが言ってた巨悪ってまさか、あれのこと?
あれがオール・フォー・ワン。身体が動かない。

「ゲッホ!!くっせぇぇ!んっじゃこりゃあ!!」

かっちゃんの声だ!

「悪いね爆豪くん」
「あ!!?」

バシュッと音がして続々と敵連合のメンバーが現れた。
林間合宿のとき、身体が動かなくて救けられなかった。今は身体は動くのに恐怖で動けないなんて・・・目の前にかっちゃんがいるのに、手が届く場所にいるのに。敵は私たちにはまだ気づいていないはず。じゃなきゃすぐ様攻撃されている。
ここからかっちゃんのとこまで6〜7メートルくらいかな。フルカウルで跳べば1秒未満で届く。やれるか?逃げ切れるか?みんなが危なくなるかもしれない。作戦を練らなきゃ。
と、とにかく!動かないと始まらない!
足を踏み出そうとした時、飯田くんが私の服を掴んだ。

「やはり来ているな」

オール・フォー・ワンの言葉に固まった。バレたか!?
凄まじい音が空を切り、衝撃音で建物が揺れる。

「全て返してもらうぞオール・フォー・ワン!!」

オールマイトだ。突如始まった戦闘に、私たちの入る隙はない。奴が邪魔してかっちゃんを救けられない。そのすきに敵連合はかっちゃんもろとも逃走しようとしてる。かっちゃんも囲まれていて逃げられる状況じゃない。こんなピンチに私たちは戦うことが許されていない。
かっちゃんを気にしていてオールマイトも思う存分戦えない。どこか一瞬でも隙があれば・・・隙・・・

「飯田くん、皆!」
「ダメだぞ緑谷くん」
「ちがうの!あるの、絶対戦闘行為にならない!私たちもこの場を去れる!尚且つかっちゃんを救け出せる方法が!でも、多分私じゃダメなの。切島くんが成功率を上げる鍵なの。かっちゃんは相手を警戒して距離を取って戦ってる。タイミングはかっちゃんと敵たちが二歩以上離れた瞬間」

爆音が鳴り響き激しい戦いを物語っている。
その中でみんなに作戦を伝えた。

「飯田さん・・・」
「バクチではあるが、状況を考えれば俺たちへのリスクは少ない。何より成功すれば全てが好転する。やろう!」

私たちはフルカウルとレシプロ、切島くんの硬化で壁をぶちぬいた。開けた瞬間すぐさま、轟くんの氷結でできるだけ高く跳べるように道を形成した。手の届かない高さで戦場を横断する。
切島くんが手を伸ばし叫んだ。

「来い!!!!!」

かっちゃんも爆風ターボで跳躍して手を伸ばした。切島くんはしっかりとかっちゃんを掴んだ。私たちはそのまま滑空していく。
その隙に轟くんと八百万さんもその場を逃げているはず。

敵が追いかけてくるが、Mt.レディが巨大化して間に立ち塞がってくれた。

「Mt.レディ!!!」
「救出・・・優先!行って!バカガキ・・・」

後ろでグラントリノの声も聞こえる。きっとオールマイトは大丈夫だ。

地面に無事に着地できたのはかっちゃんの爆風で衝撃を相殺したからだ。みんな無傷だった。
轟くんから着信がきて、ふたりの無事も確認できた。

いまだ鼓動が激しく打っている。チラリとかっちゃんを見ると目が合った。かっちゃんは少し不服そうな顔をしている。その顔を見て、涙が溢れてきた。良かった・・・
かっちゃんに抱きついて人目も憚らずわんわん泣いていると、背中に手が回ってきて抱きしめ返された。

「か、かっちゃっ、ん!かっちゃん!」
「うるせェよ、なまえ。なんだよその格好」
「ひっぐ、うっ、レディースのそ、総長だよ」
「・・・弱そ」

報道のヘリが何台も頭上を通過して行った。
かっちゃんの腕の中で、駅前のビルのモニターでオールマイトとオール・フォー・ワンの戦いを観る。
そこに映し出されたのは、萎んで細くなったオールマイトの姿。秘密にしてきた姿だった。
周りの人達がオールマイトへ声援を送り始めた。

「勝って!!オールマイト!!!」

オールマイトとオール・フォー・ワンがぶつかり、周囲が吹き飛んでいる。オールマイトの渾身の一撃でオール・フォー・ワンは地面に横たわり動かなくなった。
痩せ細ったオールマイトは、左手を掲げた。勝利のスタンディングだ。
オールマイトはTVカメラに向かって指さした。

「次は君だ」

短く発信されたメッセージ。それは一見まだ見ぬ犯罪者への警鐘。平和の象徴の折れない姿に見える。しかし、私には真逆のメッセージに受け取れた。

"私はもう出し切ってしまった"

益々泣き出した私をかっちゃんは強く抱きしめた。



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