飴と鞭でなく鞭と鞭です



林間合宿三日目PM13:00。
朝から個性を伸ばすための訓練を引き続き行なっているわけだが、例のブートキャンプに身体が慣れてきたのを虎さんに見抜かれてしまい、ウェイトをつけてのトレーニングへと移行した。それが重いのなんのって。

「オラ!叫べ!プルスウルトラァァァ!」
「イエッサァー!!!プルスウルトラァァァ!!!」
「筋繊維引きちぎらんかい!腕が下がってるぞ!」
「イ、イエッサ・・・オエッ」

これいつまで続くんだろ・・・。昼間食べたものが全て出ていくほどの過酷なトレーニングに心も体も折れそうだ。相澤先生が私の方を指差して言った。

「緑谷何へたりこんでる!立て!敵はそんなの待ってくれないぞ!」
「イエッサァ・・・」
「何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて何の為にこうしてグチグチ言われるか常に頭に置いておけ」

相澤先生の言葉で、自分の原点を思い出した。私の原点はオールマイト。全ては彼から始まった。オールマイトのおかげで私はヒーローを志し雄英へやってきたのだ。
オールマイトなら洸汰くんへどんな言葉をかけるのだろう。
そういえばオールマイトは合宿に来ないのだろうか。

「そういえば相澤先生、もう三日目ですが」

トレーニングの動きの途中で急に止まったので身体がふらついた。 

「おい、緑谷言ったそばからフラっとするな」
「今回、オールマイト・・・あ、いや他の先生方って来ないんですか?」
「合宿前に言った通り敵に動向を悟られぬよう人員は必要最低限」
「よってあちしら4人の合宿先ね!」

ラグドールが伸び伸びと相澤先生の後ろで身体をしならせながら言った。可愛い・・・ラグドールは常に動いている気がする。スカートが彼女の動きに合わせてひらりと揺れている。

「そして特にオールマイトは敵側の目的の一つと推測されてる以上来てもらう訳にはいかん。良くも悪くも目立つからこうなるんだ、あの人は・・・」

うん、この言い方"悪くも"の割合が高そう。

「そっかぁ・・・」

シュンと肩を落として言うと、ピクシーボブがニシシと笑った。

「ねこねこねこ!それより皆!今日の晩はねぇ・・・クラス対抗肝試しを決行するよ!しっかり訓練した後はしっかり楽しいことがある!ザ・アメとムチ!」

それを聞いた私は絶望した。アメとムチじゃなくてムチとムチじゃんこんなの。肝を試すなんて誰が考え出したのよ、試さなくていいのに・・・私の独語を聞いた飯田くんが肝試しの起源を語り始めた。
いや、そうじゃないのよ、飯田くん。相変わらず真面目だなぁ。
耳郎さんも怖いの嫌いみたいで親近感が湧いていたけど、もし臆病者同士ペアになったら・・・と考えてゾッとした。常闇くんは闇の狂宴とか呟いてる。何なの闇の狂宴って。心霊的なアレのことなの?

「というわけで今は全力で励むのだぁ!!!」
「イエッサァ」

私の力のない返事に、ピクシーボブはまたニシシと笑った。

訓練を終えて夕飯作りにとりかかる。私の包丁捌きに不安を覚えたのかクラスメイトたちにやんわりと包丁を取り上げられて「なまえちゃんは、お米洗って炊いて?」と優しく誘導された。その優しさが逆に傷つくよ・・・
そして、かっちゃんは私とは対照的に器用に包丁を使いこなしていて麗日さんに驚かれていた。

「爆豪くん包丁使うのウマ!意外やわ!」
「出た!久々に才能マン!」
「意外ってなんだコラ!包丁に上手い下手なんざねえだろ!!」
「「「・・・・・・」」」

その言葉でみんながこちらを見た。
やめて、こっち見ないで。その憐れみの目は傷口に塩を塗りたくってるようなものだからね。
私はお米を炊くために、火を起こそうと石炭を積み上げていた。背後から轟くんが声をかけてきた。轟くんの手には鍋があった。肉じゃが作る用の両手鍋だ。

「オールマイトに何か用でもあったのか?相澤先生に聞いてただろ?」
「ああ・・・っと、うん。洸汰くんのことで」
「洸汰?誰だ?」
「ええ!?あの子だよ!ホラ、えと・・・あれ、また居ない」

ひみつきちに行ってるのかな。本当に嫌なんだな、私たちのこと。

「その子がさヒーロー、いや、"個性"ありきの超人社会そのものを嫌ってて、私はその子の為になるようなこと何も言えなかったの。オールマイトならなんて返したのかなって、思って・・・あ、轟くんなら何て言う?」
「・・・場合による」
「っ!そりゃ場合によるんだけども!」

私は軍手で顔の汗を拭った。

「素性もわかんねぇ通りすがりに正論吐かれても煩わしいだけだろ。言葉単体だけで動くようならそれだけの重さだったってだけで。大事なのは"何をした・何をしてる人間に"言われるか・・・だ。言葉には常に行動が伴う・・・と思う」

"小心者で無個性の君だったから!!私は動かされた!!君はヒーローになれる"

そうオールマイトが言ったのを思い出した。

「そうだね確かに・・・通りすがりが何言ってんだって感じだよね」
「お前がそいつをどうしてえのか知らねぇけど、デリケートな話にあんまズケズケ首突っ込むのもアレだぞ。そういうの気にせずぶっ壊してくるからなお前。ま・・・お前のそういうとこが好きになったんだけど」
「・・・!?なんか、すいません・・・」

轟くんは驚くほどナチュラルに好きだと伝えてくるので、私はどう反応すればいいかわからない。

「緑谷・・・」

轟くんが両手鍋を置いて、わたしの頬を触った。驚いて固まってると、表情を変えないまま轟くんはタオルで私の頬をゴシゴシ拭き始めた。

「い、いたた!轟くん痛いってば!なに!?」
「悪い。顔に炭がついてたから。あ、緑谷、ここ虫に刺されたのか?赤くなってる」

首のところを指差して轟くんが聞いてきたけど、鏡でも見ないと虫に刺されたかどうかなんて分からない。

「え、赤くなってる?いや、どうだろ。わかんない。刺されたのかなぁ。痒くないけど」
「・・・」
「君たち手が止まってるぞ!!最高の肉じゃがを作るんだ!!」

飯田くんがビシッと指摘してきて、私たちは顔を見合わせて笑った。

「「はーい」」

その様子を見ていたかっちゃんが包丁でまな板を真っ二つにしていたのを私は知らなかった。

食卓の周りではそれぞれ話が盛り上がって賑やかだった。私は、適当に座ろうとしていたのだが、切島くんと葉隠さんに両サイドから掴まれて、連行された。

「緑谷、お前轟といちゃついてっから爆豪が爆発したぞ」
「え、どういうこと?私いちゃついてたの!?いつ!?」
「なまえちゃーん。ちょっと前に爆豪、包丁でまな板を真っ二つにしちゃったんだよ!はやく、なまえちゃん側に行ってあげてよ」
「真っ二つ!?なんで!?え、怖いよ。私行かないとダメ?」
「なまえちゃんが頼みの綱だよっ!」
「気が立ちすぎて俺らには手に負えん」

そして無理矢理かっちゃんの左隣に座らされたのだが、怒りのボルテージが最高潮って顔してるかっちゃんがそこにいた。過去最高に怖い。

「かっ、かっちゃんどうしたの?」
「なんもねえよ!クソが!」
「・・・お腹でも痛いの?」
「ぁあ゛!?痛くねぇわ!!」
「せ、せっかくみんなで頑張って作ったご飯だから、楽しく食べようよ!ほら口開けて、あーん」

お箸で私が炊いた(と思われる)白米をかっちゃんの口元まで運んだけど、一瞬静かになった後に先程よりも一層怒らせてしまった。

「自分で食えるわっ!ボケ!」

かっちゃんがなんでこんな怒ってるのか皆目検討もつかないが、落ち着くまで背中をさすってあげた。5分くらいすればかっちゃんも落ち着いたので、ようやくゆっくり食事できるようになった。洸汰くんと似てるな、かっちゃん。いや、洸汰くんがかっちゃんに似てるのか?洸汰くんはここまで凶暴じゃないけど。
でも、そんなこと本人に伝えたらまた爆発するだろうから口まで出かかった言葉を飲み込んだ。

食べ終わって食器洗いをしていたのだが、麗日さんが個性を生かした洗い方をしていた。
私が洗って、麗日さんが泡を洗い流して空中に洗った皿を浮かべるのだ。自然と水が切れて、拭かずとも乾いていく。

「麗日さん、すごい!!個性発動できる時間長くなったね!」
「やったぁ!合宿の成果でてるんかな?なまえちゃんどんどん洗っちゃってー!」
「はいよっ」
「えー!何なに!?めっちゃ楽しそうなことしてるじゃんっ!」
「本当ですわね、こうやって洗うのもトレーニングの一貫になりますわね」

ちょっとした人だかりができていた。麗日さんも頑張ってるな。私ももっと頑張らなきゃ。

「腹も膨れた!皿も洗った!お次は・・・」
「肝を試す時間だー!!」

芦戸さんが元気いっぱい叫んだけど、相澤先生に補習組は連れて行かれてしまった。

「うわぁぁ!堪忍してくれえ!試させてくれえ!!」

悲痛な叫びが聞こえてくる。これから補習授業するらしい。あれだけ肝試しを楽しみにしていたのに、可哀想に・・・
変わってあげたいけど、補習は補習で嫌だ。ごめんね。
心苦しいけど、捕縛布で引きずられていく5人を見送ることしかできなかった。




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