魔獣の森を抜けて



待ちに待った林間合宿当日。学校に集合してからバスに乗って移動するのだが、B組の物間くんがやたらと絡んでくる。

「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれれぇ!?そうだろ?緑谷。おい緑谷聞いてんのか、おいコラァ。待ってって。緑谷ァァァ!」
「ひぃぃ!来ないで!」

拳藤さんがトンと物間くんの首に手刀を振り下ろした。ぐったりとする物間くんを引きずって回収していった。
物間くんの絡み方が怖いので逃げてたら、追いかけてきて鬼ごっこみたいになってしまっていた。拳藤さんが物間くんの首根っこを掴んで手刀を入れて気絶させなかったら、多分永遠に追いかけられてた。ありがとう拳藤さん。

バスに乗り込んだのだが、何故だか皆にかっちゃんの横に座るように無理矢理押し込められた。

「一時間後に一回止まる。その後はしばらく・・・」

相澤先生の声はかき消されて最後まで聞こえなかったけど、とりあえず一時間はこのままなのだと分かった。

「ふわぁ、眠た・・・」
「・・・」

かっちゃんの家に泊まってから、かっちゃんはなんだか余所余所しくてあんまり目を合わせてくれない。気にしてるのかな、私の、その・・・胸触ったこと。全然気にしなくていいのに。私も気にしないようにしてるから。

一時間の間喋らずボーッとかっちゃん越しに窓の外を眺めてるだけだなんて退屈だなぁ。
身体を揺らされて目を開けるとかっちゃんが降りるから退けと言って怒っていた。
あ、私寝ちゃってたんだ。

バスから降りて背伸びをした。休憩タイムだと思ったけど、降りた先はパーキングエリアではなかった。B組のバスも見当たらない。

「煌めく眼でロックオン!キュートにキャットにスティンガー!ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」
「今回お世話になるプロヒーロープッシーキャッツの皆さんだ」
「わぁぁあ!連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団!ワイプシ!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にもなる・・・」

私が興奮してワイプシの情報を捲し立てるとピクシーボブが「心は18!!」と叫びながら猫パンチをしてきた。

「心はァ?」
「じゅうはちぃぃ!」

ピクシーボブ必死だ。私、ワイプシ好きなんだよなぁ。強く逞しいのに可愛いところとか。猫なところとか。
マンダレイが宿泊施設の場所を教えてくれるのだが、何故こんなところから説明するんだろう。

「今はAM9:30。早ければぁ、12時前後かしらん」

皆が騒ついてバスに戻ろうとしている。切島君が叫んだ。

「バスに戻れ!!早く!!」
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

一斉にバスに向かって走り出すが、地面が轟音とともに盛り上がって私たちを飲み込んだ。そして崖下に突き落とした。

「わるいね諸君。合宿はもう始まってる」
「私有地につき"個性"の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この"魔獣の森"を抜けて!!」

口の中に土が入って気持ち悪い。雄英に入ってからこんなことばかりだ。魔獣と言っていたのが気になる。森の中から四足獣の何かが現れた。これがマンダレイの言っていた魔獣か。口田くんの個性でも鎮まらない獣をよく見ると土くれでできている。そうかこれは個性で作られたものなのか。そうと分かれば遠慮なく攻撃できる。
ワン・フォー・オールで、次から次へと湧いて出てくる魔獣たちを壊しながら先へと進むが、体力を消耗して、カラダはヘロヘロ。トイレもなければ、自動販売機もないような場所だ。皆でサバイバルしながら施設を目指し前へ前へと進んでいった。
陽も沈みかけるPM5:20。ようやく施設へと辿り着いた私たちは満身創痍だった。
三時間で来れると言っていたのはなんだったのか。

「何が三時間ですか・・・」
「腹減った死ぬ」
「悪いね。私たちならって意味アレ」
「実力差自慢の為か・・・」
「ねこねこねこ・・・でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら特にそこ4人。躊躇の無さは経験値によるものかしらん?三年後が楽しみ!ツバつけとこーーーー!!!」

え、私もツバつけられるの!?かっちゃんが私を盾にしてピクシーボブの魔の手から逃れていた。

「あ、あの、ずっと気になっていたんですけどその子はどなたかのお子さんですか?」
「ああ、違う。この子は私の従甥だよ。洸汰!ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから・・・」

私は男の子の近くへ行き目線を合わせるために屈んで手を差し出した。

「あ、えと、私雄英高校ヒーロー科の緑谷なまえです。よろしくね」

男の子は私の手を叩いてくるりと方向転換して歩き出した。それを見てかっちゃんがキレている。

「ありゃ、嫌われちゃった・・・?」
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「こんのぉマセガキィィ!なまえに触んな!」
「おまえに似てねぇか?」
「あ?似てねぇよ!つーかてめェ喋ってんじゃねえぞ、舐めプ野郎」
「悪い」

かっちゃんは轟くんにまでキレている。いいからもう中に入ろうとかっちゃんの背中を押すと静かになった。施設に入ると食事が用意されていた。魚料理に肉料理、野菜もたくさんあって彩り豊かでどれも美味しそうだ。昼抜きだった分皆ものすごい勢いで平らげて行く。私も食べていたけど、黙々とマンダレイのお手伝いをする洸汰くんのことが気になっていた。

食事が終わり、入浴の時間となり女子全員で大浴場へと向かった。ここは天然温泉が湧き出ているらしい。一日の疲れを癒すのはやはりお風呂だと思う。身体を洗い終えてみんなで露天風呂へと向かった。足先からゆっくり浸かるとじんわりと疲れが溶けていくようだった。

「気持ちいいねぇ」
「温泉あるなんてサイコーだわ」
「今日疲れたからお風呂の中で寝ちゃいそう」
「なまえちゃん、それはあかん!溺れちゃうよ」

のんびりと浸かっていたら、男風呂の方が騒がしくなった。こういうとき真っ先に峰田くんを疑ってしまう。

「壁とは越える為にある!!“Plus Ultra“!!」

やっぱり峰田くんだ。私は露天風呂から出て身体にバスタオルを巻きつけ、ワン・フォー・オールで迎撃する準備をした。堂々と覗こうなんて許せない。
峰田くんと思われる手が見えたとき、洸汰くんが壁の間から突然現れた。

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

そう言って峰田くんの手を薙ぎ払い突き落とした。壁の向こうで「くそガキィイイイ!!」と叫ぶ声が聞こえた。

「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと洸汰くーん!」

芦戸さんが大きな声で叫ぶもんだから洸汰くんが振り返った。裸の私たちを見て動揺したのか足を滑らせて女湯の方に落下してきた。

「洸汰くん!危ない!!!」
「キャーーーッ!」

みんなが悲鳴をあげた。私はフルカウルで地面を蹴り上げ地面スレスレで洸汰くんの身体を受け止めた。そのまま洸汰くんを抱き抱えて、マンダレイさんのいる事務所へと走った。

「マ、マンダレイさん!!!洸汰くんが!」

バスタオル一丁で現れた私に驚いていたが、腕の中の洸汰くんを見つけて慌てて駆け寄ってきた。

「落下の恐怖で失神しちゃっただけね、ありがとう。イレイザーに一人性欲の権化がいるって聞いてたから見張ってもらってたんだけど・・・最近の女の子って発育良いからね」
「とにかく何ともなくて良かった」
「よっぽど慌ててくれたんだね」

洸汰くんがなんでヒーローを毛嫌いするのか気になっていたことを尋ねると、両親はヒーローだったが、物心ついたばかりの洸汰くんを残して殉職してしまったらしい。幼子にとって両親が全てだ。それで洸汰くんにとってヒーローは理解できない気持ち悪い人種だと思っているそうだ。価値観の相違に私は何も言うことができなかった。

「それより君、服着てきな?」
「はっ!!!そ、そうですね!戻ります」

そう言われてバスタオルで廊下を全力疾走したのを今更になって恥ずかしくなってきた。
事務所から顔を出し誰もいないことを確認し、忍のように足音を立てずに早歩きで進む。走らないのはバスタオルが肌けるし、最悪とれるから。そんなとこ誰にも見せたくない。
もう少しで浴場に着く。誰ともすれ違うことなく戻ってこれた。良かったと安心した時、男湯の暖簾をくぐって誰かが出てきた。かなりまずい状況だ。これじゃバスタオル一丁でうろつく変質者みたいじゃないか。
咄嗟に廊下に置いてあった陶器でできている大きな招き猫の後ろにしゃがんで隠れた。

「緑谷か。それで隠れてるつもりか?」
「轟くん・・・こっち来ないで!私今バスタオルしか巻いてない」
「・・・!?」
「洸汰くんが落ちて気を失ったから、事務所に連れて行ったの。急いでたから服着る余裕もなくて・・・。わがままで悪いんだけど、あっち向いててくれない?私女湯のとこに行きたいから」
「わかった。俺は一旦脱衣所に戻る。時間を置いて出る」
「ごめんありがとう」

夏とは言え、山間部では夜になるとひんやりする。なんだか湯冷めしてしまったので、また湯に浸かることにした。身体があったまったら出よう。そう思ってたけど、せっかくだしもう少しと浸かってるうちに完全にのぼせてしまった。
なんとか風呂から出て身体を拭いて、服を着た。フラフラする足取りで浴場を出たら、ちょうど男湯から出てきたかっちゃんと鉢合わせした。

「おい、てめェなんでそんな格好なんだよ!Tシャツ着ろっつったろうがよ!お、おい、どうした」
「の、のぼせちゃって・・・」
「チッ!バカかよ・・・しゃーねぇな。乗れ」

かっちゃんがしゃがんで背中に乗れと合図した。でも、もうそんな気力もなくて・・・床に崩れ落ちた。疲れてる時に長湯するんじゃなかった。慌てたかっちゃんが「なまえ!なまえ!」と呼んでるなと思ったのが私の記憶の最後。

気がついたら、女子部屋の布団の上に寝かされてた。

「あ、なまえちゃん!良かったぁ!目ぇ覚めたんやね!心配しとったんよ」
「緑谷ちゃん、はい、水飲んで」
「んー、あれ、みんなどうして」

私の周りにはクラスの女子達がいた。梅雨ちゃんにコップを渡されて飲み干した。

「なまえちゃん、長湯してのぼせたんよ」
「あ、そういえば、そうだったかも」
「爆豪さんが緑谷さんを運んでくれましたのよ。お姫様抱っこで!いつか私もされてみたいものですわ!爆豪さんにお礼を言わないと、ですわね」
「そ、そうなの!?」
「それをみた峰田がうるさかったよ、本当に。キャミソールの緑谷!エロすぎ!意識がない!お姫様抱っこ!役得すぎんだろ!!って大騒ぎ。爆豪はブチ切れ」
 
葉隠さんが峰田くんのモノマネをして笑いながら言った。

「みんな、迷惑かけてごめんなさい」
「私らはなんもしてへんよ!爆豪くんにお礼言ってあげて」
「後で男子の部屋行くんだー!なまえちゃんも行こ!爆豪にお礼すんでしょ!」

芦戸さんのテンションに気圧されて、頷いてしまった。かっちゃん、怒ってるだろうな・・・。



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