爆豪家にお泊まり
ショッピングモールで死柄木弔と遭ってから、私の母の過保護具合が増してる気がする。出張で家をしばらく空けないといけないらしいけど母は家に私一人を残すのを嫌がった。一人でも大丈夫だと言うのに母は決して許さなかった。
そしてその結果がこれ。かっちゃんの家にお泊まりという訳。
私は炎天下の元、一泊二日分の荷物を詰め込んだ大きなリュックを背負い爆豪家のインターホンを押していた。時刻にして午後一時。
林間合宿の前に爆豪家合宿とは思ってもみなかったよ・・・
かっちゃんが出てきて中に招き入れてくれた。外の暑さが嘘のように涼しい。ポタリと汗が一筋流れた。ひんやりと涼しいエアコンの風に身体が冷やされていく。
「あ、あれ、お母さんは?」
「仕事」
「そっかぁ。じゃこれうちの母から」
そう言ってかっちゃんにラッピングされた手土産の箱を渡した。受け取った箱をリビングのテーブルの上に乗せた。
「す、涼し〜、外暑くて溶けるかと思ったよ。汗でベトベトだ」
「シャワー浴びてこいよ」
「え、いいの?あ、ありがとう!じゃお借りします・・・」
蛇口を捻り、ぬるめの温度のシャワーで汗を流してついでにシャンプーもしておいた。さっぱりしたいし。私は癖毛なこともあって自分専用のシャンプー持参しているので、それで洗った。
身体を拭いて、下着の上にキャミソールとショートパンツを着た。タオルで髪を拭きながらリビングへ行くとかっちゃんがゲームをしていた。
「かっちゃん、シャワーありがと」
「ん」
かっちゃんがこちらをチラリと見て石像のように固まっている。テレビの画面にGame Overと表示された。
「あ、かっちゃんゲームオーバーだ」
「なまえ・・・てめェそんな格好でウロウロすんな!アホ!」
「え・・・いつもこんな感じなんだけど」
「夏風邪はバカがひくってこういうことなんだな・・・百歩譲って今は許してやっけど、林間合宿んときはぜってぇTシャツ着ろよ!クソが!」
「う、うん分かった・・・そうだ、ドライヤー借りたいんだけど、どこ?」
首にタオルをかけながら言うと、かっちゃんはコントローラーをソファに放り投げ、脱衣所まで一緒に行きドライヤーの場所を教えてくれた。
かっちゃんが外に出ようとしたとき、私はバスマットに躓いて咄嗟にかっちゃんの服にしがみついた。
「うわっ!痛っ・・・くない??」
「いってェわ」
痛みがなかったのはかっちゃんを下敷きにしてたからか。というかこの体勢、なんかやばい?
かっちゃんに馬乗りになってるし、かっちゃんの顔の横に肘を床についてるせいで身体が密着してるし顔が近すぎる。私の髪からポタポタと水滴が落ちてかっちゃんの顔を濡らしている。そういえばこういう時かっちゃんは目を閉じろって言ってたな。それなのに、かっちゃんめちゃくちゃ目開けてんじゃんって思ったけど言わないでおく。言ったらなんか爆破されそうな気がしたから。命は惜しいもん、だってまだ爆豪家合宿始まったばかりだし。シャワーも浴びたところだし。
慌てて退こうとするが、かっちゃんの手が私の背中に回って動けなくなった。かっちゃんが私を抱えながら起き上がり、対面するような感じで座った。抱っこされてる感じ・・・?
かっちゃんは私の首にかけてあるタオルで顔についた水滴を拭った。
「てめェなぁ!」
「ご、ごめんね。すぐ退くから。え?あのかっちゃん?」
立ち上がろうとしたけど、かっちゃんが抱きしめる力が強くて動けない。かっちゃんの顔を見たくても、かっちゃんの肩に押しつけられてて見れない。怒ってる?今どんな顔してるの?
「かっちゃん・・・?」
「・・・だ」
「え?何?何?もっかい言って?」
かっちゃんが言った言葉が聞こえなくて、顔をあげようとしたけど、押さえつけられたままで動けなかった。
「チッ!重てェっつったんだよ」
「はっ!!そうだよね、ほんとごめん」
かっちゃんの手の力がフッと抜けたので私は立ち上がった。かっちゃんを起こそうと手を差し出したら手を叩かれた。なんか、小さい頃を思い出した。かっちゃんが川に落ちた時のことを。
「なまえ今すぐTシャツ着ろ!」
「え、なんで?」
「なんでもだ!バカ!」
「わ、わかった・・・ごめんね?かっちゃん頭ぶつけてない?」
「ぶつけたわクソが」
「え、頭大丈夫?」
「その言い方やめろや!俺の頭はいたって正常だわクソナード!」
「そういう意味じゃないのに・・・」
そう言ってかっちゃんの後頭部を撫でたら、小さなたんこぶができてた。これは痛かっただろうな。私のせいで申し訳ないな。
その手を振り払ってかっちゃんはドスドスと足音を鳴らして脱衣所から出て行った。また足音がして戻ってきたと思ったらかっちゃんの黒地のTシャツを差し出された。
「今すぐこれ着ろ」
私が受け取ると、ピシャリと脱衣所のドアを閉めてリビングへと戻って行った。
受け取ったTシャツを言われるがままに着たけれど、かっちゃんのサイズだから私には大きくて下のショートパンツまで隠れてしまう。なんだかTシャツしか着てない人にみえる。ま、いっか。
ようやくドライヤーにたどり着けた。鏡に映った私の髪は前に比べてかなり伸びている。ヘアオイルをつけて丁寧に乾かしていく。ブラシでとかしながらブローするのだが、こうするだけで全然纏りが違う。何故か「可愛いは作れるのですよ」と言っていた発目さんのことを思い出した。
リビングに戻るとまたゲームをしていたので、かっちゃんの隣に座って「私も一緒にしたいな」と言ったけど、盛大に無視された。まだ怒ってるのかな。
少し凹みながら、キッチンで勝手にコップを出してウォーターサーバーの水を入れて飲んだ。
冷たい水が喉を通り抜けて身体がひんやりする感じがした。
かっちゃんの隣に座ってスマホをいじってたら、かっちゃんのお母さんが帰ってきた。
玄関まで迎えにいくと、お母さんが私の名前を呼びながら抱きしめてきた。かっちゃんはお母さん似だと思う。お母さん若くて綺麗だなぁ。
お母さんに、一瞬Tシャツしか着てないのかと思ったと言われて、ショートパンツ履いてますアピールをしておいた。
夜ご飯の支度を手伝ったのだが、私の不器用さが露見してしまった。不器用なりに頑張ったので許して欲しい。その後かっちゃんのお父さんも帰ってきて、みんなで食卓を囲んで賑やかな食事の時間を楽しんだ。
かっちゃんがお風呂に行ってる間に、お母さんが夏だしホラー映画でも観て涼もうと言ってきたのだが、心霊的なアレが無理な私はどう答えるべきか迷っていた。
結局お母さんのニコニコ笑顔の前では断れなくて、三人で観始めたんだけど始まった瞬間から怖すぎて涙が出そうになる。映画が始まってからどれくらいの時間が経っただろうか。時計を見て絶望した。まだ30分しか経っていない。
目を閉じてやり過ごそうとしてたら、お風呂から上がったかっちゃんがもう寝るからと言って、私をリビングから引きずり出した。
「・・・」
「なまえ、ホラー無理なのになんで観てんだよ」
「だ、だって・・・大人になった今なら観れるような気がしたから・・・」
「ガキだろうがよ」
「それならかっちゃんも同い年だからガキじゃん」
かっちゃんはムッとした顔で近づいてきた。
「大人なら一人で寝ろよ?」
「えっ!きょ、今日は怖いから一緒の部屋で寝たい、です」
「隣の部屋で、一人で、寝ろ」
かっちゃんの隣の空き部屋が私の泊まる部屋なのだけれど、一人で布団に入ってたら怖くて泣きそうになった。
さっきのホラー映画がフラッシュバックする。耐えられなくなって枕と掛け布団を持って、かっちゃんの部屋をノックした。顔を覗かせた私を見てため息をついて中に入れてくれた。かっちゃんのベッドの横に敷布団も持ってきて、並んで横になった。これで心霊的なアレに怯えず安心して寝れる。
「かっちゃん、おやすみ」
「おう、さっさと寝ろガキんちょ」
目を瞑ってみたが、やっぱり怖い。起き上がってかっちゃんの方をみたら横になってるかっちゃんと目が合った。良かった起きてた。
「あ、あの。やっぱ怖すぎるから私が寝るまで寝ないでほしい」
「は??」
「それか、私が寝るまで横に居て?」
「はぁ??」
「ええええ、じゃ、私が寝るまで手繋ぐのは?」
「てめェなぁ・・・」
「あ・・・そっか、私が寝るの待ってたらかっちゃん寝るの遅くなっちゃうね。わかった、一緒の布団で寝てもいい?」
「・・・」
「ダメ?」
かっちゃんは何も言わないので、無言は肯定だろうと決めつけて勝手にベッドに潜り込んだ。かっちゃんがベッドの端につめてくれたので、遠慮なくベットで仰向けになった。ベッドの家主はというと端で横向きになってこちらに背を向けていた。
かっちゃんの温もりって安心するんだよなぁ。そう思ってぴとりと背中にくっつくとキレられたけど、引き離したりされなかったのでそのままくっついて私は夢の中へと落ちていった。
翌朝目が覚めたら、かっちゃんに後ろから抱きしめられていたけど、かっちゃんの手が私の胸に張り付いてたから固まってしまった。
後から起きてきたかっちゃんもそれに気がついて、さすがのかっちゃんも、しどろもどろになっていた。
「・・・悪かったな」
「私が一緒に寝てってお願いしたからだし、わざとじゃ無いの分かってるから気にしなくて大丈夫だよ。ちょっとした事故だから」
そう言って小さく笑ったらかっちゃんは何故か不服そうな顔をしていた。