死柄木弔との邂逅



演習試験も無事に終わり、あとは合格発表を待つのみとなった。筆記試験はともかく演習試験で不合格だったのは、芦戸さん、上鳴くん、切島くん、砂藤くんの四名。

「皆・・・土産話っひぐ、楽しみに・・・うう、してるっ、がら!」

嗚咽を漏らしながら言う芦戸さんを励まそうと声をかける。

「まっまだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれない!」
「緑谷それ口にしたらなくなるパターンだ・・・」

みんな推論しているが、考えても分からないものは分からない。こうなったら流れに身を任せるしかないよ。
予鈴と同時に相澤先生が入ってきた。

「予鈴が鳴ったら席につけ!」

立ち静まり返った教室に、相澤先生がつかつかと歩く音だけが響いていた。私は自分の手を握りしめた。

「おはよう。今回の期末テストだが・・・残念ながら赤点が出た。したがって・・・林間合宿は全員行きます」
「「「「どんでん返しだあ!!!」」」」
「筆記の方はゼロ。実技で切島、上鳴、芦戸、佐藤、あと瀬呂が赤点だ」

隣の席で瀬呂くんがぶつぶつと独り言を言っている。相当落ち込んでいるようだ。
赤点取ったら林間合宿行けないと言っていたのは相澤先生の合理的虚偽だったらしい。出たよ、合理的虚偽。赤点の人たちには別途補習時間が設けられていてかなりキツい合宿になりそう。
一週間の強化合宿だとかなりの大荷物になりそう。水着もいるのか・・・
葉隠さんが「A組みんなで買い物行こうよ!」と提案し、木椰区ショッピングモールへ行くことになった。
かっちゃんはかったりィとのことでパス。轟くんはお母さんのお見舞いだそうでこちらもパス。二人を除く18名での買い物。なかなかに賑やかになりそうだ。

翌日、ショッピングモールに現地集合したA組18名。かなりの大所帯で目立つのか雄英生だと声をかけられる。みんな買いたいものがそれぞれ違うから結局は自由行動にして、時間を決めてまた集合することになった。

私は職場体験の時にお泊りグッズたくさん買ってあるから、髪の毛につけるリボンから探そうかな。麗日さんはとりあえず薬局に行かないといけないらしくて、走って行ってしまった。
結局私は皆と来たのに、ポツンと独りぼっちになってしまった。

「おー雄英の人だスゲー!サインくれよ」
「へ!?」

夏なのに長袖長ズボンの全身黒い服に身を包む男の人が後ろから声をかけてきた。

「確か体育祭でボロボロんなってた奴だよな!?」

男は馴れ馴れしく後ろから肩を組んで来た。距離感が近すぎるし、肩にまわされた手に力を入れらている。

「わぁぁ・・・は、はい」

すごいな雄英。やっぱりたくさんの人に見られて覚えられてるんだ。ただ、なんか、この人不気味かも・・・距離感がヘンだし。保須事件の時にヒーロー殺しと会ったことも知っているみたい。

「いや、本当信じらんないぜ、こんなとこで"また会う"とは!」
「・・・!?」

肩にまわされていた手がゆっくりと私の首を掴み、フードで隠れていた顔が見えた。

「ここまでくると何かあるんじゃって思うよ。運命・・・因縁めいたもんが。まぁでもお前にとっては雄英襲撃以来になるか。お茶でもしようや。なんだよその顔。相変わらず可愛いな、緑谷なまえ!壊したくなるぜ」

死柄木弔・・・!死柄木は私の耳元で囁いた。私は恐怖で身体が震えて鼓動が激しくなった。

「自然に、旧知の友人のように振る舞うべきだ。決して騒ぐなよ?震えてるな・・・落ち着いて呼吸を整えろよ。俺はお前と話がしたいんだ。それだけさ。少しでもおかしな挙動をみせてみろよ?簡単だ。俺の五指が全てこの首に触れた瞬間、喉の皮膚から崩れ始め、一分と経たないうちにお前は塵と化すぞ」
「こっ、こんな人ゴミで、やったらすぐにヒーローが・・・ヒーローが来て捕まるよ」

死柄木は私の身体にぴったりと密着するように立っていて、気持ち悪い。そして、死柄木が周りにいる人達を指さして、捕まるまでに30人は壊せると宣う。周りの人たちは巻き込めない。

「話って、何・・・?」
「ハハハ良いね。せっかくだ腰でもかけてまったり話そうじゃないか」

死柄木に誘導されて、ショッピングモールの中央にあるベンチに座る。死柄木の手はまだ私の首を掴んでいる。

「だいたい何でも気に入らないんだけどさ今一番腹が立つのはヒーロー殺しさ」
「仲間じゃないの・・・?」
「俺は認めちゃいないが世間じゃそうなってる。問題はそこだ」

死柄木は、雄英襲撃も保須での脳無も全部ヒーロー殺しに持っていかれたと思っているらしい。

「俺と何が違うと思う?緑谷なまえ」
「何が違うかって・・・?わ、私はあんたの事は理解も納得も出来ない。ヒーロー殺しは納得はしないけど理解はできたよ。私もヒーロー殺しも始まりはオールマイトだったから・・・。私はあの時救けられた。少なくともあいつは壊したいがために壊してたんじゃない。徒に投げ出したりもしなかった。やり方は間違ってても理想に生きようとしてた・・・んだと思う」

そう言った時の死柄木の目が一瞬にして凍りついた。夏なのにまるで冬であるかのような寒気がした。
話している死柄木の手が私の首を絞めつける。苦しくて手を離してほしくて、死柄木の手に触れる。どんどんと力が強くなり窒息しそうになる。もがき苦しむ私の姿を恍惚の表情で見つめる死柄木は異常だ。

「なまえちゃん?お友達じゃないよね?・・・手離して?」

麗日さんだった。彼女も巻き込むことは絶対にしたくない。

「なっ、何でもないよ!大丈夫、だから!来ちゃダメ!!」

パッと手が離れて死柄木は去っていく。肺に一気に空気を取り込む。咳き込みながら死柄木に尋ねた。

「オール・フォー・ワンは何が目的なの、死柄木」
「え?死柄木・・・って」
「・・・・・・知らないな。それより気をつけとけな。次会う時は殺すと決めた時だろうから緑谷なまえ」

恐怖で人混みに紛れて消えていく後ろ姿を追うこともできなかった。私は無力だ。
麗日さんが通報してくれて、その後ショッピングモールは一時閉鎖された。区内のヒーローと警察が緊急捜査するも、死柄木弔は発見されなかった。私はその日のうちに警察署で事情聴取を受けた。話が終わり警察署を出るとオールマイトがいた。

「救けてやれなくてすまなかった」
「いえ・・・」

オールマイトにも救けられなかったことってあるのかな。そんなことを聞いたら死柄木のことを気にしてるみたいで嫌だけど、聞かずにはいられなかった。警察の塚内さんが、現場にきたオールマイトが救えなかった人間は今まで一人もいないよと教えてくれた。
お母さんが迎えに来てくたのだが、大泣きしていた。ここまで親に心配かけてちゃ、まだまだヒーローとは言えないな。

警察の人に家まで送ってもらって、その日は母の部屋で布団を並べて一緒に寝た。それくらい死柄木弔は、母に死の恐怖を植え付けたのだ。
大丈夫だよと母の手を握った。

ショッピングモールでの買い物は何一つ買えないままに終わってしまったので、日を改めてかっちゃんと二人で別の場所のショッピングモールに来ていた。

「・・・大丈夫か?」
「うん、大丈夫!かっちゃんがいるもん。怖くない」
「・・・」

かっちゃんは何も言わず私の右手をとって手を繋いで歩き出した。

「あ、ありがとう」

かっちゃんは、だいたい必要なものはもう買ってあるらしくて、買わないといけないのは私の虫除けスプレーや水着くらいだった。私の買い物に付き合わせちゃって申し訳ないな。
水着を選ぶ際、麗日さんにメッセージでどんな水着にしたのか質問した。「みんなビキニにしたよー」と返事が返ってきたので、かっちゃんにビキニ買ったんだってと伝えたら小さな爆発がおこった。

「ちょ、ちょっと、ここ店の中だよ!爆発控えて!」
「うっせぇ!んなこた分かっとるわ」

水着を何着か試着したのだがかっちゃんがどれもダメだ、とか似合ってねぇって言うので困ってしまった。

「じゃあどれだったらいいのよ」
「これだな」

そう言ってかっちゃんが手にしたのはウェットスーツだった。え、林間合宿でサーフィンする気なの?山でしょ?林の間にいく合宿でしょ?頭にたくさん疑問符が浮かんでしまう。流石にこれは丁重にお断りした。
もうかっちゃんの意見は聞かずに自分が可愛いと思った黒のシンプルな水着にした。肩紐を首の後ろでリボン結びするタイプのものだ。
試着してかっちゃんに見せたらそっぽ向いて黙ってしまったけど、自分的にこれが気に入ったので購入した。

「なまえ、上からラッシュガード着ろよ?」
「な、なんで!?」
「・・・・・・日焼けすんだろ」
「あ、ああ〜確かに!じゃ、ラッシュガードも買っとこ」

こうして買い物を終えたのだが、買い物中ずっと手を繋いでいたので、それが当たり前になってしまってずっと手を握りながら家まで送ってもらった。帰り際、かっちゃんから小さなラッピングされた箱を渡された。

「やるわ」
「あ、ありがとう。なんだろ?開けてみてもいい?」
「・・・おう」

ラッピング紙を丁寧に開けていくと、箱の中に黒の大きめなリボンのバレッタが入っていた。

「え、これ・・・」
「いらねんだったら返せ」
「い、いる!ありがとうかっちゃん大事に使うね。嬉しい!」

今日はあまり言葉数が少なくて私一人で喋ってる感じだったけれどかっちゃんが私が期末テストの前に言ったことを覚えていてくれて、わざわざリボンを買ってくれたことが嬉しかった。

「いつの間に買ったの?全然気づかなかった」
「てめェがぼんやりしてるからだ」
「ありがとうかっちゃん。さっそくつけよっと」

私がリボンをつけるとかっちゃんの顔が柔らかくなった気がした。


朝の通学時いつも私の家の方が駅から離れているので、私がかっちゃんの家に迎えに行っていたが、ショッピングモールの事件の後かっちゃんがうちまで迎えに来るようになった。家から出る時、手を繋ぐのかなと思ってかっちゃんに手を差し出したら、少し乱暴に引っ張られた。頭につけた黒いリボンが揺れる。それを見てかっちゃんは満足気な表情をしていた。地元の誰に見られるかわからないからか、少しだけ嫌そうにしてたけど手を繋いだまま駅まで歩いてくれた。

学校にいくと、女子たちにリボン可愛いと褒められた。

「なまえちゃんリボンめっちゃ可愛いやん」
「ほんとだ緑谷ちゃんとても似合ってるわ」
「ありがとう!これね、かっちゃんがくれたの」
「「「・・・!?」」」

クラスが一瞬静まり返った。

「それで嬉しくてコスチューム着てる時だけじゃなくてずっとつけることにしたの」

ふにゃりと笑ってリボンに触れながら言うと、飯田くんと轟くんを除く皆が青筋を浮かべるかっちゃんに向かって親指を立てていた。

「爆豪、センス良いじゃんっ!」

葉隠さんがバシンとかっちゃんの背中を叩いたが葉隠さんの姿が見えないせいで、不意打ち攻撃を食らっていた。

敵の動きを警戒して例年使っていた林間合宿先は急遽キャンセルになり、行き先は当日まで明かされないことになったと告げられた。
死柄木弔が動いたから、もしかしたら林間合宿は無くなるかもと思っていたけど、林間合宿自体は中止しないんだな。合宿は私たちのスキルアップを図るものだから敵が動き始めた今だからこそ余計にすべきだと考えたのかも。

こうしてあまりにも濃密だった前期のカリキュラムは全て終了した。



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