爆豪・緑谷チームアップ
期末テストは筆記試験だけじゃなくて、演習試験もあるのだけど私はB組の物間くんに食堂で絡まれたときに、拳藤さんからザックリと試験内容を教えてもらっていた。ロボとの対戦ならなんとかなりそうだと他の皆も一安心していた。
試験を間近に控えて苛立ってきたのか、何故かかっちゃんに「完膚なきまでに差ァつけててめェぶち殺す」と言われてしまった。
なんで!?一緒に勉強頑張ったのは何だったの!?
そして、迎えた演習試験当日。相澤先生から説明を受けていたのだが、捕縛布に隠れていた校長先生がひょっこり現れて試験内容の変更を言い渡される。私たちは突然のことに呆気に取られていた。
雄英高校の指導方針として、対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを今後重要視していくことになったらしい。
「というわけで、諸君らにはこれからチームアップでここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
「先、生方と・・・!?」
「尚ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度、諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
先生たちと戦闘するなんて、まだ1学期を終えるだけの私たちにできるんだろうか。相澤先生が組を発表していく。
「緑谷と爆豪がチーム」
「なまえっ!?」
「えっ!?私と、かっ、え!?」
「で・・・相手は」
「私がする!協力して勝ちに来いよお二人さん!!」
オールマイトが私たちの前に立ち塞がる。左隣からの視線で人が一人死にそう。圧がすごいんですけど、圧が。私とかっちゃんで協力して勝てるのかな。そもそも、かっちゃんは私が個性を持ったことも、かっちゃんに追いつこうと頑張ってることや雄英高校に来たことをあまり良く思ってない。私には戦いのない場所にいて欲しいって前に言ってた・・・
「それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいない速やかに乗れ」
学内バスにさっさと乗り込むとかっちゃんは一番後ろに座ってしまった。
なんだか隣に座るのも憚れるので、車内前方の方へ腰掛けた。静まり返った車内の空気に耐えきれなくなったのか、オールマイトが「しりとりとかする?」と聞いてきたが、この雰囲気の中絶対しないでしょ。
演習試験の会場入りをする前にルール説明をされた。私たちは協力して、30分以内にオールマイトにハンドカフスを掛けるか、どちらか一人がステージから脱出できれば合格になる。オールマイトを敵そのものと仮定し、試験は行われる。会敵した際に、相手との実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明。なるほど、これは私たちの判断力が試される。確かに実戦において、判断ミスは命取りになる。
先生たちは体重の約半分の重量を装着するというハンデがあるらしい。戦闘を視野に入れさせる為かな。
『皆位置についたね。それじゃあ今から雄英高校1年期末テストを始めるよ!レディイイッゴォ!!!』
始まったのだが、かっちゃんは私に目もくれずどんどんと歩き始める。慌てて追いかける。
「か、かっちゃん待って!」
「ついてくんな!俺一人でやれる!」
「せっ、戦闘は何があっても避けるべきだよ!」
「ブッ倒した方が良いに決まってんだろが!!終盤まで翻弄して疲弊したとこ俺がブッ潰す!てめェは隠れてろ」
「うぅ、オールマイトをなんだと思ってんの!いくらハンデがあってもかっちゃん一人でオールマイトに勝つなんて・・・」
それを聞いたかっちゃんの足が急に止まった。私は止まりきれずかっちゃんの背中にぶつかった。
「ぁあ゛!?俺だけじゃ勝てないってのか?」
「えっ、うーん、何て言うか・・・とにかく試験にごっ、合格するために私は言ってるの。聞いてよ、かっちゃん」
「だァからてめェの力なんざ合格に必要ねェっつってんだ!!なまえは黙って俺に守られてろ」
「だからそれは嫌なんだってば!一緒に考えよ?二人で一緒に合格しようよ!か、かっちゃん聞いてよ!」
頑なにかっちゃんは私の話を聞こうとはしなかった。足早に去ろうとするので、追いかけるために駆け出そうとしたとき、凄まじい爆発が起こり、周りの建物が倒壊した。その爆風とオールマイトの威圧感に圧倒された私は地面にへたりこんでしまった。
「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えてると痛い目みるぞ。私は敵だヒーローよ。真心込めてかかってこい」
オールマイトが走り出した衝撃で地面がめり込んで割れている。ハンデがあるのに、あの威力。正面戦闘はかなりマズイ。
「かっちゃん逃げよう!」
「俺に指図すんな!」
かっちゃんは私の横を走り抜けてオールマイトに向かっていった。閃光弾を放ち目を眩ませる作戦。でも、オールマイトにはそんな小手先の作戦は通じない。かっちゃんは顔面を鷲掴みされた。それでも尚、攻撃を撃ち続けるが、地面に背中から叩きつけられた。
「そんな弱連打じゃちょい痛いだけだがな!」
「カッ!ハッ」
「そして、君もだ緑谷少女!チームを置いてにげるのかい?」
オールマイトの一挙一動全てに気圧されてしまう。そして何故だがオールマイトの扮する敵の背後にヒーロー殺しを連想させた。あの時の恐怖が蘇る。ここは全力で逃げて体制を立て直すすべきだと判断した。
逃げるためフルカウルで後方に跳ぶ。しかし、かっちゃんは戦うために、前方へ跳んでいた。空中でぶつかり、かっちゃんに腕を掴まれて地面を転がる。
「だから!正面からぶつかって勝てるハズないでしょ!」
「喋んな、勝つんだよ。それがヒーローなんだから・・・」
「じゃあ、尚更ここでの戦闘は」
「うっせぇ!」
ガードレールを引きちぎったオールマイトが上空から襲いかかる。
「とりあえず、逃げたい君にはこいつをプレゼントだ!」
私は地面に押しつけられるように、ガードレールで固定された。直後かっちゃんはみぞおちに拳を食らった。
「わかるよ・・・緑谷少女の急成長と、彼女への接し方の戸惑いだろ?でもさ、レベル1の力とレベル50の力、成長速度が同じなハズないだろ?それに緑谷少女はいつまでも庇護対象の幼子じゃないんだ!もったいないんだ君は!わかるか!?わかってるんだろ!?君だってまだいくらでも成長できるんだ!でもそれは力じゃない」
私が憧れてきたかっちゃんはどんな些細なことであろうと勝者であろうとするんだ。私の大好きなかっちゃんは!!
「黙れよオールマイト・・・あいつの力借りるくらいなら負けた方がまだマシだ・・・」
かっちゃん・・・私の知ってるかっちゃんはそんなこと言わない。絶対にどんな手を使っても勝つことしか考えない。ガードレールが深々と地面に刺さっていてなかなか抜けないけど、かっちゃんに一言伝えたくてどうにかガードレールを吹き飛ばして、地面を強く蹴りかっちゃんの右頬を張り飛ばした。
「負けた方がマシだなんて言わないでっ!」
そしてそのままかっちゃんの手を引っ張り路地裏へと駆け込んだ。暴れて手を振り解こうとするかっちゃんの手を強く握り、指を絡めて手を繋ぎ直しそのまま路地裏を駆け巡る。絶対この手を離すもんか。
「私にはオールマイトに勝つ算段も逃げ切れる算段もとても思いつかない!」
「あ!?」
「諦める前に私を使ってよ!負けていいなんて言わないでよ!勝つのを諦めないのがかっちゃんでしょ・・・!」
30分の時間制限もある。早くしないとタイムアップで不合格になってしまう。建物の影に身を潜め、作戦を練る。
「二度は言わねえぞクソナード。あんなバカみてえなスピード相手じゃどう逃げ隠れても戦闘は避けらんねぇ」
「でっ、でも戦いになんてならないよ。あのオールマイト相手に」
「てめェ黙ってろ!ぶっ飛ばすぞ!半端な威力じゃビクともしねえのはさっきの連打でわかった・・・じゃあゼロ距離で最大威力だ。ダメージを与えつつ距離をとる唯一の手段」
「私にで、できるかなぁ」
「できるかどうかじゃねぇ、やるんだよバカ」
かっちゃんに頭を叩かれて目が覚めた。確かにできるかどうか気にしてる場合じゃないよね。かっちゃんが私の右腕に籠手をつけて、使い方を説明してくれた。これはかっちゃんの出すニトログリセリンを貯蔵するタンクの役割を果たしているのだけど、めちゃくちゃ重たい。かっちゃんいつもこんなのつけて動いてたのか。
「どこぉ見てんだあ!!?」
かっちゃんが建物の陰からから飛び出してオールマイトの気を引いた。
「なまえッ!!!!撃て!!!」
籠手のピンを引き抜いて、大声で叫んだ。
「ごめんなさいオールマイトォォォ!!!」
打った衝撃の反動がこちらにも来る。肩が痛いけどそんなこと言ってる場合じゃない。
「オールマイト、追ってくる様子ないね・・・まさか気絶しちゃったんじゃ」
「てめェ散々倒せるわけねぇっつっといて何言ってんだアホが。あれでくたばるハズねえだろクソ。次もし追いつかれたら今度は俺の籠手でぶっ飛ばす」
私たちはそのまま目の前の脱出ゲートへと向かってひたすら走った。走っていたはずだった。
「うんうん、それでそれで!?」
「「!?」」
かっちゃんの籠手が破壊されてバラバラに砕け散った。
「は、速すぎる!」
「これでも重りのせいでトップギアじゃないんだぜ?さァ・・・くたばれヒーロー共!!」
な、何が起こったのかよく分からなかった。けど、全身の痛みだけは分かった。
「素晴らしいぞ!少年少女よ!戸惑いながらも協力し、敵に立ち向かう・・・ただ!二人とも!それは今試験の前提だからねって話だよ」
気がついたら私は左手を掴まれ持ち上げられていた。もがいていたが肩が抜けそうになり痛みで顔がひきつる。一方でかっちゃんは、オールマイトに踏みつけられている。
「あと20分程かな・・・?さて、この暴れ馬たちどう拘束したものか。埋めるか!」
私が腕を掴むオールマイトの手を引き剥がそうとするがビクともしない。
「んんーっ!」
「なんて顔だよ緑谷少女」
オールマイトが私を地面に投げ飛ばした。
「終わりだ」
「か、かっちゃ、ん・・・ケホッ」
「うるせぇ・・・」
かっちゃんは地面に転がった私を見て声を絞り出した。そして、爆破してオールマイトの足から逃げ出し私の身体を持ち上げた。
「スッキリしねえが今の実力じゃまだこんな勝ち方しかねぇ!」
「え、ちょ、待、待って!まさか」
かっちゃんが私の身体を後ろに振り上げて助走をつけて吹き飛ばした。
「死ね!!!」
死ね!?死にたくないよ・・・
私の悲痛な思いは届かず、脱出ゲートへ向かって人間大砲よろしく宙を飛んでいた。
でも、これならゴールできるかも。しかし、それは甘かった。
オールマイトの攻撃を腰にモロに食らって私の身体は地面にめり込み、さらに転がってあちこちに擦り傷ができた。
「いやいや!甘いぞヒーロー共」
「籠手は"最大火力"をノーリスクで撃つ為だ。バカだったぜ。リスクも取らずあんたに勝てるハズなかったわ・・・行け!!!なまえ!!!」
そう言ってかっちゃんは体育祭でみせた特大火力を放った。
「早よしろ!ニワカ仕込みのてめェよか俺のがまだ立ち回れんだ!役に立てクソカス!」
走るか!?いや、こんくらいの距離ならフルカウルの跳躍一回半でいけるか。ゴールに近い私をオールマイトは無視できないはず。かっちゃんならそこを撃ってくれるだろう。かっちゃんならきっとそう"動く"。
ゴッ!と嫌な音が響いて振り返るとかっちゃんがオールマイトによってねじ伏せられた。
「寝てな、爆豪少年。そういう身を滅ぼすやり方は悪いが私的に少しトラウマもんでね」
かっちゃんはオールマイトの手に噛みついた。
「はよ、行けや!なまえ!」
かっちゃん!!
"怖い時、不安な時こそ笑って臨む"
かつてオールマイトが言ってた言葉。
「かっちゃんを離してくださいオールマイト!」
私は、恐怖に打ち勝つため、オールマイトに打ち勝つため引き攣りながらもニッと笑って、ワン・フォー・オールフルカウルを顔面にブッ放した。
かっちゃんを奪い返したのだが、かっちゃんは気を失っていた。ごめんね、かっちゃん、本当に私って奴は、かっちゃんが動くだろうって思って自分で動かなかった。泣き虫で愚図でノロマななまえのままだ。かっちゃんを背負って泣きながら脱出ゲートを駆け抜けた。
脱出ゲートをくぐり抜け、力尽きた私はかっちゃんを抱きしめたまま動けなくなった。腰の痛みが限界を突破しそうで意識が朦朧としていた。
リカバリーガールの出張保健室と書かれたテントに私とかっちゃんは収容され治療を受けた。
私は腰が痛すぎて仰向けになれず、お腹の下にクッションを挿れて腰を浮かせてうつ伏せになっていた。隣のベッドにかっちゃんは寝かせられていた。目覚める気配はまだなさそうだ。
私たちを運んできたオールマイトはリカバリーガールにこってり絞られていた。
「あんた本当に加減を知らないね!もう少し強く打ってたら取り返しのつかん事になってたよ!特に緑谷の腰!コレギリギリだったよ」
えええ、そうだったの!?怖・・・
「爆豪の方はしばらく目覚めないだろう。とりあえず二人共校舎内のベッドに寝かしておきな。轟たちもそっちで休んでもらってる」
リカバリーガールの出張保健室の壁には画面一面にありとあらゆる場所の戦闘が映し出されていた。このモニターで観察し、必要であればリカバリーガールが出張して治療するか、もしくはここに運び込まれるのだろう。
リカバリーガールにお願いして、ここで皆の試験の様子を見せてもらうことになった。
だんだんと腰の痛みも和らぎ椅子に座れるまでになったので許可をもらってモニター前のの椅子にゆっくりと座った。若干へっぴり腰だったので、リカバリーガールに追加治療されたのはいうまでもない。
残っていた皆の試験を見学させてもらっていたのだがタイムアップとなり試験終了となったため、テントを追い出された。私はそのままかっちゃんのいる校舎内の保健室へと向かうことにした。
ボロボロになって寝ているかっちゃんを見て泣きそうになった。掌の怪我が特に酷かったらしくて、包帯で巻かれている。かっちゃんのベッドの横にスツールを置いてかっちゃんが目覚めるまで側についていようと決めていた。かっちゃんの包帯だらけの手をそっと握り、泣きながら呟いた。
「かっちゃん、痛い思いさせてごめんね」
「・・・痛くねぇよこんなもん」
寝ていると思っていたかっちゃんの目が開いてめんどくさそうではあったけど、私の手を握り返してくれた。
「か、かっちゃん」
「・・・俺は死んでねんだよ、そんな泣くなうるせぇ」
「ごっ、ごめっ!」
「うるせえっつってんだろ。口塞ぐぞ」
「だって、かっ、かっちゃんがっ」
そう言ってかっちゃんはムクリと起き上がって私の首の後ろに手を回して見つめてきた。突然のことに黙ったまま固まっていると、かっちゃんの顔が近づいてきた。訳も分からず、近づいてくるかっちゃんの顔をずっと見つめてると、頭を叩かれた。
「おい!こういう時は目ェつぶれよバカか」
「え、え、そうなの!?」
「まァもーいいわ、てめェの涙も引っ込んで静かになったことだし。俺は寝る」
そう言ってかっちゃんはベッドに横になり布団を頭まですっぽり被ってみえなくなった。