家庭教師・爆豪くん
6月の最終週。期末テストまで残すところ一週間を切っていた。
「全く勉強してねーー!!」
そう叫ぶ上鳴くんと横でニコニコしている芦戸さん。焦ってばかりで結局勉強してないらしい。いや、そこは勉強しようよ。みんなで合宿行きたいもん。
「芦戸さん、上鳴くん、が、頑張ろうよ!やっぱ全員で林間合宿行きたいもん!ね?」
すこし首を傾けて言えば、芦戸さんが目に涙を溜めて抱きついてきた。ヨシヨシと頭を撫でる。あ、芦戸さんの髪の毛フワフワしてて気持ちいいな。芦戸さんが気合いを入れて叫んだ。
「ありがとなまえちゃん、私頑張る!!」
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」
「言葉には気をつけろ!!」
轟くんがバッサリと切り捨てて上鳴くんが怒っていた。なんだかこういう日常っていいな。ヒーロー殺しとの戦いで少し疲れていたから、何気ない日々がかけがえのない大事なものに感じる。八百万さんが、みんなに勉強教えてと言われて嬉しそうにしている。いいなぁ、私も化学教えてほしい。
それを見た切島くんがニヤニヤしてかっちゃんの方を見た。
「この人徳の差よ」
「俺もあるわてめェ、教え殺したろか」
「おお!頼む!緑谷、お前もどうだ」
「え、ああ、うん!私化学教えてほしいかも」
「・・・」
「え、だめなの?」
「教え殺したるから覚悟しとけ」
「ひっ!」
という訳でやってきた爆豪家。私は結構家にお邪魔してるけど、切島くんは今日が初めてみたい。駅まで迎えに行くと、派手な赤髪の切島くんはすぐに見つけることができた。私服も割と派手な感じだ。合流できたから、かっちゃんの家へと案内する。
「おう緑谷!あれ、今日なんか髪ちがうな」
「うん、髪の毛アイロンで巻いてみたの」
「へー!いいじゃん!てか、爆豪ん家初めて行くわ。緑谷は幼馴染なんだろ?何回も行ってる感じか」
「そうだね毎朝かっちゃんの家に寄ってから学校行ってるから」
「え、マジで!二人一緒に学校行ってんだ」
切島くんは驚いた顔でこちらを見た。
「あれ、てっきりみんな知ってると思ってた。私の母が満員電車に乗るの心配して、かっちゃんに一緒に行ってほしいって頼んだらしくて、そっから毎日一緒に行ってくれてるの。うちの親ちょっと過保護でしょ?」
「へー、そうなのか」
「かっちゃん根は優しいから、私の母の頼み聞いてくれてるんだと思う」
「それだけじゃねぇだろ絶対」
「え?」
「何でもない」
切島くんは少しニヤつきながら手を頭の後ろで組んだ。
かっちゃんの家に着いて、インターホン鳴らすとお母さんが出た。
「こんにちはー、なまえとクラスメイトの切島くんです」
「はーい!上がってー!」
「「お邪魔します」」
家に上がって、お母さんに挨拶して手土産に手作りのシフォンケーキを渡した。二階からかっちゃんが降りてきた。かっちゃんは私をみて固まっている。
「今日はよろしくなー爆豪!」
「お邪魔します。よ、よろしくね?」
「おう・・・」
かっちゃんの部屋に三人で肩を寄せ合って、勉強を始めたのだが、切島くんがかっちゃんの部屋を漁るもんだから、かっちゃんがキレて全然勉強が捗っていなかった。
私はマイペースに進めていたのだが、やっぱり化学反応式と量的関係のとこに躓いてしまう。過不足が発生するときの反応後の量を求める過程が、綺麗さっぱり分からない。
プロパン2.0 molと酸素13.0mol のみを反応容器に入れて,プロパンを完全燃焼させた。このとき,反応後にプロパンまたは酸素のいずれが何mol余るか。
何mol余るとか知らんよ。これ、知らないとダメかなぁ。うんうん唸っていたら、かっちゃんに教科書を奪われた。チラッと見てポイッと返される。
「なんだよ、これ分かんねぇのかよ」
「う、ん。化学苦手なの」
「わかるまで教え殺したるわ」
「し、死なない程度にしてほしいです」
スラスラと化学反応式を私のノートの隅に書くかっちゃんとの距離が近い。肩が当たってる。そのことを意識してしまって、内容があまり入ってこない。
「ほら、分かったか?」
「え、う、うん?」
「てめェ聞いてなかったのかよ、殺す!!」
「お前ら仲良いんだか悪いんだか」
切島くんがニヤニヤしながら言うもんだから、恥ずかしくてかっちゃんの部屋のクッションで顔を隠した。
「俺、ションベン行ってくるわ。一階だよな?」
「階段降りて向かいのドアだ」
「オッケー」
切島くんは、かっちゃんに親指を立ててニカッと眩しい笑顔で部屋を出て行った。なんの合図?
かっちゃんは大きなため息をついて、私の隣に座り直した。そして、私の髪を一房摘んだ。
「おい、なまえ髪の毛どうしたんだよ」
「あ、これ?ヘアアイロンで巻いてみたの。ほら私って癖毛じゃない?それで、ヘアアイロンしたら綺麗にまとまると思ってしてみたの。それにコスチュームもデザイン変わったし、髪も綺麗にしようかなと思って」
「ふーん」
「ヘン、かな?」
「・・・悪くねぇ」
「そ、そう?なら良かった。あ、こないだ梅雨ちゃんにね、ポニーテールにリボンつけても可愛いと思うって言われたの。それで今度黒いリボンでも買いに行こうと思ってるんだ」
「コスチュームはお前がデザイン変更したのか?」
「い、いや違うの!あれは、サポート会社が勝手に!皆似合ってるって気を遣って言ってくれたけど・・・」
慌てて両手を振って違うとアピールする。あんな露出のデザイン変更なんて頼んでないもの。あれ喜ぶの峰田くんくらいでしょ。
「・・・割と似合ってた、かもな」
ガバッと顔を上げて隣のかっちゃんを見ると、反対の方向を向いていた。耳が真っ赤に染まっていた。まさかかっちゃんに褒められると思ってなかったし、そっぽを向くかっちゃんをみてなんだか私も真っ赤になってしまった。丁度戻ってきた切島くんが顔を真っ赤にする私たちを見て、俺が居ない間に何があったんだよ!って叫んでた。
その後の勉強は本当に教え殺されるくらいに、徹底的に化学を教えてくれた。そっか、かっちゃんの個性はニトログリセリンみたいなものが手の汗腺から出てるって言ってたな。だから化学に強いのかも。切島くんもぐったりしてる。本当に教え殺された感あるな。
かっちゃんも教え疲れたのかベッドにもたれかかって背伸びして欠伸をした。
「ちょっと休憩しない?」
「緑谷に賛成〜」
下に行ってくると伝えて、かっちゃんのお母さんとシフォンケーキを切り分けて、ホイップクリームを添えた。トレーに三人分のケーキと飲み物を載せていると、かっちゃんのお母さんにも髪の毛可愛いねって褒められてホクホクしてしまった。
かっちゃんの部屋に戻ると、二人ともすやすや寝息を立てていた。寝るの早っ!まあ二人とも頑張ってたもんね、勉強。
「おーい。ケーキ持ってきたよー?切島くーん、かっちゃーん。起きないと私が全部食べちゃうよー?」
切島くん起きる気配ゼロ。かっちゃんの頬を指でつつくも、こちらも起きる気配ゼロ。仕方ない。先に私の分食べちゃおう。そう思ってフォークでケーキを切り分けて口に運ぼうとしたら、手を掴まれてケーキをパクリと横取りされた。かっちゃんだ。
「ん、美味い」
「ちょ、ちょっと!かっちゃん自分のケーキあるじゃん!」
「うっせぇな、減るもんじゃねえだろ」
「いや、減るから!!リアルに減ってるから!!お皿見てよ!!かっちゃん食べた分返して!」
「はァ!?」
私は甘いものに関しては割と執念深いんだからね。後から起きてきた切島くんに、お前らいちゃついてるから起きるタイミング見失っただろとキレられた。