受け継いだ個性の起源
一週間ぶりのクラスメイトたちは、いろんな意味で変化があった。私は麗日さんが一番変わったと思うんだよね。なんだか、交戦的になっている。さすがバトルヒーローガンヘッドの事務所だ。
今日は学内での訓練になる。女子更衣室で新しいコスチュームを着ていると、梅雨ちゃんや葉隠さんが気がついてみんなが可愛いと褒めそやしてくれた。だけどそのせいで私は顔が林檎のごとく真っ赤に染まってしまっていた。褒められることに慣れていないから。
「緑谷ちゃん、コスチュームだいぶ変わったのね」
「えー!ほんとだぁ!なまえちゃん、可愛いじゃんっ!ミニスカートになってるし、胸元がっつり開いてるー!前のピタピタスーツも良かったけどこっちも可愛いっ!デザイン変更頼んだの?」
「や、あの、これは、サポート会社がこっちの方が可愛いしって色々デザイン変えたみたい」
「緑谷ちゃん、ポニーテールしてるし髪にリボンとかつけても可愛いかもね」
「そう?」
「うんうん、似合うよ!それいいじゃんっ!てか、これは峰田が黙ってないね!」
「いや、爆豪ちゃんもでしょ」
「え、なんで、かっちゃん?」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
これはなんの沈黙なんだろう。全員黙って顔を見合わせてから「まじか」とか「何でもないよ」と苦笑いしていた。
今日は運動場γで訓練すると事前に言われていたのでみんなで移動していたのだが、予想通り峰田くんを筆頭に男子たちがグイグイ食いついてきた。
「おいおい!緑谷ァ!なんだそのコスチュームは!!エッッッロ!華奢な身体に秘められてたおっぱいが露わになり、その上、ミニスカにニーハイソックスとはいい趣味してんじゃねぇかサポート会社ァァァ!ヒーロー科最高すぎィィィ!」
「ひっ!峰田くん、怖い」
「本当だ、緑谷変わったなぁ、似合ってるぞ」
「上鳴くん本当?・・・なんか少し恥ずかしいんだけど」
「その恥ずかしがるとこも、またイイ!」
「み、峰田くんほんと怖・・・」
更衣室でかっちゃんも黙っていないと梅雨ちゃんが言ってたので気になってしまい、かっちゃんを目で追ってしまう。峰田くんと上鳴くんが大騒ぎしたせいで、かっちゃんまでこっちを見た。目があってしまったのだが、ものすごい目つきをしている。大爆発を起こして、峰田くんが爆風で吹き飛ばされていった。というか、かっちゃん絶対わざと峰田くん狙ってたでしょ。
もうすぐ授業始まるのに災難だ。かっちゃんは、私から目を逸らしてそれから決してこちらを見ようとはしなかった。かっちゃんが似合うとか褒めてくれる訳ないのわかってるんだけど、なんだか少し寂しくなった。
オールマイトも現れて授業が始まる。今日は職場体験直後ってことで、遊び要素を含めた救助訓練レースをするらしい。5人4組に分かれ、1組ずつレースを行う。オールマイトが救難信号をだしたら街外から一斉にスタート。オールマイトを一番に救けに出しに行くというレースだ。私は一番最初の組となった。他のメンバーは、尾白くん、飯田くん、芦戸さん、瀬呂くんだ。
複雑に入り組んだ迷路のような密集工業地帯。今回の授業、まさに私の訓練にうってつけすぎる!常時5%のワン・フォー・オールを意識する。全身に行き巡らせてスタートの合図を待った。
合図とともに走り出しだ私は以前と比べて格段に動けるようになっていた。工場の配管や梯子を踏み台に空へと舞い上がる。
「おおお緑谷!?何だその動きィ!?」
「パンチラこいっ!!」
「おい、やめとけ。爆豪の前でそんなこと言ったら爆殺されるぞ峰田」
落ち着け!いける落ち着け。常に5%、そして常に緊張と冷静さを保つこと。全てグラントリノに言われたことだ。
出だしは好調だったのだけれど、足場が不安定で滑って落っこちた。なるほどね、足場の不安定な状況では跳ぶ先への注意も加味すべし・・・
結局私は滑ったことで最下位になってしまった。悔しいなぁ。
「一番は瀬呂少年だったが、皆入学時より"個性"の使い方に幅が出てきたぞ!!この調子で期末テストへ向け準備を始めてくれ」
そっか、もうすぐ期末テストだ。勉強もだけど実技も頑張らないと。
通りすがるときに、オールマイトが小声で褒めてくれた。それから授業の後オールマイトの元へくるようにと告げられた。
「君に話さなければならない時がきた。私とワン・フォー・オールについて」
改まった言い方に引っかかりを覚えて、なんだか話を聞くのが少し怖い。
更衣室で着替えていたら、男子たちの声が聞こえてきた。
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!」
峰田くんの声がよく響いている。また変態なこと言ってるのかも。声がする方をみたら、壁に穴が開いていた。これは覗き穴?
「八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァァァー!!そしてなんと言ってもダークホース緑谷の華奢ボディ・メリハリオッパァァァイ!!」
男子も、欲望の奴隷と化している峰田くんを止めて欲しい。このままだと彼、通称がエロヒーローになっちゃうと思う。
耳郎さんが、イヤホンジャックで穴から覗いているであろう峰田くんの目を不意打ちかつ正確に爆音攻撃してくれた。それと同時に壁の向こうで爆発音が聞こえたのでかっちゃんの制裁を受けてるにちがいない。ダブルパンチを食らって、峰田くんも少しは懲りたでしょ。
すぐにこの穴は塞いでもらおう。満場一致ですぐさま相澤先生に工事を依頼した。
着替えてオールマイトの仮眠室へと向かう足取りは重たかった。
ノックして入るとそこにはいつもと雰囲気の違うオールマイトがソファに座っていた。
「掛けたまえ。色々大変だったな。近くに居てやれずすまなかった」
テーブルを挟んで向かいのスツールにそっと座る。
「そんな、オールマイトが謝ることでは・・・それよりあの、ワン・フォー・オールの話って・・・」
「君ヒーロー殺しに血を舐められたと聞いたよ」
「あ、はい。血を取り入れて体の自由を奪う"個性"で・・・それが何か」
「力を渡した時に言ったこと覚えてるかい?」
「もちろん!"食え"」
ちょっとオールマイトの口真似をして言ってみたけど、深刻な顔のままオールマイトに「違うそこじゃない」と言われてしまった。
「"DNAを取り込められるなら何でも良い"と言ったはずだ」
「え、じゃあまさかヒーロー殺しにワン・フォー・オールが・・・!?」
思わず勢いよく立ち上がってスツールをひっくり返してしまった。
ワン・フォー・オールは持ち主が渡したいと思った相手にしか譲渡されないらしい。良かったぁ、ヒーロー殺しの手に渡ってしまっていたらと思うとゾッとする。それからオールマイトはワン・フォー・オールの成り立ちについて話してくれた。
大昔の作り話、都市伝説のような話を聞いたことがあった。でも本当のことだとは思っていなかったけど、オールマイトの話によると実際にあった出来事らしい。
かつて、人々から個性を奪い、逆に与えることで信頼を得た人物。オール・フォー・ワン。その人には弟がいて、男は無個性の弟に"力をストックする"という個性を無理矢理与えた。弟は無個性ではなく、実は個性を元々持っていた。個性を誰かに与えるだけの個性を。
ワン・フォー・オールは力をストックする個性と与える個性が混じり合ったものなのだ。しかも皮肉なことに、悪から生み出された力だった。成り立ちは分かったけれど、今なぜそんな大昔の話をするんだろう。
「そんな大昔の話をなぜ今・・・」
「個性を奪える人間だぜ?何でもアリさ。成長を止める個性。そういう類のものを奪い取ったんだろう」
つまり、大昔の話だけどオール・フォー・ワンは今現在も生きているということか。オールマイトの代で討ち取ったハズだったけど、そいつは生き延びて敵連合のブレーンとして再び動き出している。
「ワン・フォー・オールは言わばオール・フォー・ワンを倒すため受け継がれた力!緑谷少女君もいつか巨悪と対決しなければならない、かもしれん・・・」
「・・・頑張ります!!オールマイトの頼み何か何でも応えます!!あなたがいてくれれば私か何でも出来る、出来そうな感じですから!!」
「・・・・・・・・・ありがとう」
長い沈黙の後、絞り出すような声でオールマイトが呟いた。結局ワン・フォー・オールの成り立ちは聞いたけれど、オールマイト自身のことについては話すことはなかった。
教室に戻り自分の席に着いた。先ほどの話を反芻するがなかなか飲み込めない。あまりにもすごい話だったからだ。
相澤先生から夏休みに林間合宿を挙行すると告げられ盛り上がる1-A。肝試し、花火、カレーそう言った声が上がる中、残酷なことも告げられた。その前の期末テストで合格点に満たなかった者は学校で補修地獄らしい。
「みんな頑張ろーぜ!!」
切島くんが大声をあげた。
オールマイトから聞かされた話は、俄には信じ難いような内容の話だったけど、日常は変わりなく続いていく。結局私がやるべき事は変わらない。目の前のことをコツコツこなしていくのみ。とりあえず期末テスト頑張るぞ。