緑谷なまえと申します



 私の深緑の髪の毛は昔っからの癖っ毛で、あちらこちらへとはねて、お淑やかとは言い難い。これはどうにもならないし、綺麗にしたところで別に誰かが褒めそやしてくれる訳でもない。はねていたって何の問題もない。そう思っていたのだが、年頃になるとやはり外見というものを少しは気にするようになる訳で。今までずっとショートでいたが、短いと余計にはねることに気がついて、肩につくくらいにまでに伸ばすようになった。
 外遊びをしなくなった分肌は白くなり、そばかすも以前よりも目立たなくなりほとんど分からないくらいだ。
幼い頃の私はいつも、髪の毛はあちこちにはねていたし、日焼けした頬にそばかすが散りばめられていた。オールマイトに憧れていた私は近所に住む男の子達に混じってよくヒーローごっこをして遊んでいたのだが、そんな成りをしていたもんだから他の子によく揶揄われた。

 この頃には個性が発現していたかっちゃんこと爆豪勝己は、男の子に髪を引っ張られている私を見て駆け寄ってきて、掌で爆破させて助け出してくれた。チビだとか、ブスだとか、泣き虫女のくせにヒーローになんかなれる訳が無いと、そんな事ばかり言って私を泣かせる男の子をかっちゃんは思いっ切り拳で殴ったこともあった。それが私の母経由でかっちゃんのご両親に伝わってしまい、雷を落とされたかっちゃんは殴った子の家まで謝りに行かされていた。私のせいで怒られているかっちゃんを見るのが辛かった。
 どうして私にはまだ個性がでないんだろう。個性があれば自分で身を守り迷惑かけることもないのに。
帰ってきたかっちゃんは、大泣きしている私の手を掴んで「泣くなよバカ」と呆れた顔をしながらも優しい口調で言うのがお決まりだった。

 周りがどんどんと個性を出現させていく中、個性が現れないのはとうとう私だけになってしまった。かっちゃんはどんなことがあっても涙をみせないし、私が“無個性“でもその事で嘲ったりしなかった。困っているところに颯爽と現れて助けてくれる私の小さなヒーローだった。その背中を追いかけてずっと後ろを歩んでいた。このままかっちゃんの側にずっといられると、かっちゃんはずっと私のヒーローなのだと思っていた。あの日までは。

 あの日、私はいつものようにみんなでヒーローごっこをして公園で遊んでいた。いつも意地悪をしてくる男の子が、ニヤニヤとしながら近づいてくるので目を合わせないようにして逃げたら、個性を使って追いかけ回された。必死で走るが鈍臭い私は足がもつれて転んでしまった。後からやってきたかっちゃんはその光景を見て、その男の子の首根っこを掴んで放り投げ爆破で執拗にいたぶり始めた。その子が泣き出してもやめる気配がない。ヒーローのかっちゃんが弱い者いじめをしているように見えてきて、目を逸らしたくなった。このままじゃかっちゃんがヒーローじゃなくて敵になってしまう気がして、勇気を振り絞ってその子とかっちゃんの間に立って両手を広げた。

「かっちゃん、やめて!泣いてるでしょ・・・?!これ以上はダメだよ」

 かっちゃんは驚いて目を見開いていたが、左手に右手を打ち付けるようにして爆発を起こしてすぐに私を睨みつけてきた。

「ぁア?!“無個性“のくせに、助けてやったのによ、ヒーロー気取りかなまえ!!」

 声が出なかった。違うよかっちゃん。私はかっちゃんが・・・
 かっちゃんに初めて無個性と罵られた私は何も言うことができず俯くばかりだった。
この日を境にかっちゃんは私をいじめっ子から守ってくれることはなくなり、私と距離を取るようになっていった。それでも、前のように戻れると信じていた私はかっちゃんの後ろをついて回った。

 決定的に二人の関係が壊れてしまったのは、かっちゃんが誤って川に落ちた時のことだ。あの時、私は川に落ちたかっちゃんを助けたい一心で自分が濡れることもお構いなしで川に入って行き手を差し出した。かっちゃんはその手を取ること無く、叩いて私を突き飛ばした。川に尻餅をついて唖然としている私の横をかっちゃんは何も言わずに通り過ぎて行き、置き去りにされた。泣きながら家に帰った。もうかっちゃんは私のヒーローじゃなくなったんだと思い知らされた。全身びしょ濡れで大泣きしながら帰ってきた私を見た母は、私よりも大粒の涙をほろほろと流した。
 それからは拒絶されるのが怖くなって、自分からかっちゃんの元へいくことはなくなっていった。自然と距離が生まれて、話すことも無くなっていった。
中学生となった今、積極的に貶めたりはしてこないが目線がかち合えば不愉快だと思っているのがありありと伝わってくる。

 そんな昔のことを思い出したって今が変わるわけでは無いし、かっちゃんと仲直りできるわけでもない。どうすれば良かったのかわからなくてただ苦しくなるだけなのに、時々ふと思い出してしまう。

 朝学校へ向かう途中で敵とヒーローが戦っているのをみつけて、思わず立ち寄って誰が戦っているのかを確認する。新たなヒーローの出現に慌ててメモをする。ヒーローオタクと言われてもいい。これが私のライフワークなのだ。
 無個性なのに人一倍ヒーローに憧れが強いというのは皮肉なものだな。


 ふわふわとした髪を指で絡めとり指先でくるくると遊ばせる。進路希望調査の紙を配ろうとしていた担任は大体ヒーロー科志望だろうと、結局配ること無く終わってしまった。先生は、かっちゃんの志望校を皆の前で言った。なんとなくそうじゃないかなと思ってはいたけど、やはり改めて聞くと納得する選択だった。

"雄英高校"

 国立の高校で、プロヒーローを多く輩出している学校だ。実は私の志望校でもある。かっちゃんなら余裕で合格するんだろうな。机にうつ伏せなり身を小さくし目立たないように息を潜めた。ところが担任の一言でそれは無駄になってしまった。

「そういや緑谷も雄英志望だったな」

 一気に視線が集まるのが分かった。冷や汗が出始めた。一瞬の間を置いてそしてみんなが吹き出した。教室がより一層ざわめいているがクラスメイトの一人の「緑谷には無理でしょ、勉強出来るだけじゃヒーロー科は入れねんだぞー!」という言葉だけがやけに大きく聞こえてきて目眩がした。雄英志望ということを知っているのは担任の先生だけだったのに。これじゃ公開処刑だ。突然の出来事に固まっていたが、嘲笑されて黙っているだけなんて、ヒーローになれないぞ、私。

「そっ・・・そんな規定もうないよ!前例がないだけで・・・」

 反論すべく机に手をついて立ち上がり、震える小さい声で言い返した。その時、かっちゃんが近づいてきて身体が硬直した。机に拳が振り下ろされて爆破される。熱風によって後ろに吹き飛ばされて床に尻餅をついた。かっちゃん、怒ってる・・・最近はこんなことしてこなくなっていたのに。

「"没個性"どころか"無個性"のてめェがあ、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」
「待っ・・・違う待って、かっちゃん!別に張り合おうとかそんなの全然ないの、本当だよ」

 かっちゃんの敵意剥き出しの表情が怖くて、目線を下にする。ジリジリと近づいてくるので後ろに下がるが壁に背中が当たりこれ以上下がることはできない。

「ただ、小さい頃からの目標なの・・・それにそのやってみないとわかんないし・・・」

 俯いてばかりじゃ本気なのが伝わらないかもしれない。極力目を合わせないようにだけど顔を上げて言った。かっちゃんは両手からプスプスと煙をあげながら威嚇しているので爆破に身構える。目をぎゅっと閉じるが、爆破されることはなかった。その代わりに胸ぐらを掴まれて立ち上がらせられた。驚いて目を開けると久しぶりに目の前にかっちゃんの顔がある。慌ててのけぞろうとするが壁が邪魔をする。

「なァにがやってみないとだ!!!記念受験か!!お前みたいな守られてばかりだったやつが何をやれるんだ!?」
「・・・」

 答えられずにいると、呆れたようにフンと鼻で笑ってかっちゃんは私から手を離した。かっちゃんが離れていくとクラスメイトも興味を失ったようで別の話題を持ち上げて話し始めた。水の中でもがいていたかのように胸が苦しい。かっちゃんに対抗してるつもりなんて全く無いのに、どうして上手く伝わらないんだろ。服の汚れを叩いて乱れた胸元のリボンを整える。

 ホームルームも終わり帰り支度をしていると、ノートを奪い取られてそちらを見た。

「話しまだ済んでねーぞなまえ」
「あっ!返してっ!」

 かっちゃんが私のヒーローの考察ノートを奪い取って友達に見せている。恥ずかしくなって奪い取ろうとするがかっちゃんは両手でノートを挟み爆破してしまった。

「あーーーーー!!!?ひどいよ、かっちゃん・・・うぅ、なんでこんなことするの」

 泣きたくないけど、自然と目に涙が浮かんできた。かっちゃんがほんの少しだけ怯んだように見えたがそれは一瞬のことで、すぐに鋭い目つきでボロボロに焼け焦げたノートを窓から外に放り投げた。慌ててノートを取ろうと窓から身を乗り出したが、かっちゃんに首根っこを掴まれて変な声が出た。

「うえっ」

 かっちゃんはこの中学から初めてで唯一の雄英進学者という箔をつけたいという理由で雄英を受験するなと脅してきた。かっちゃんは私の右肩に手を乗せて反対の手で顎を持ち上げると、しゃがんで私と目線を合わせ、ニカッと眩しいほどの笑顔を見せた。かっちゃん、顔かっこいいんだよな。先ほどから怖くて鼓動が激しくなっているが、これは別の意味で激しくなってしまう。きっと私今顔赤くなってるだろうな。
 手から煙が立ち上がっていなければ、久しぶりにこの笑顔を自分に向けられて、素直に嬉しいと思っただろう。しかし、今は状況が状況だ。そして私は何も言い返せなかった。
 かっちゃんは手を離すと、俯いて震える私の頭を馬鹿にしたように軽くポンポンと叩き、踵を返して教室から出て行った。

 ノートは鯉を飼っている人工池に落ちて水面に浮かんでいた。鯉が餌と間違えて突いている様を見て涙が溢れてきた。
餌じゃないよ、バカ・・・
私のノートだよ、バカ・・・

 でも、無個性のくせにヒーローになる夢を諦められず、身の程をわきまえていない一番のバカは私だ。

 これが私、緑谷なまえの日常。この先何も変わることもなくずっとこんな日々が続いて行くんだと思っていた。


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