ステインという男
私にできるだろうか。動けない飯田くんとプロヒーローを守れるだろうか。殺戮を何度も繰り返している犯罪者を相手に。
以前の私ならできないと最初から諦めていたかもしれない。でも、今ならきっと。
「やめろ!!逃げろ、言ったろ!!君には関係ないんだから!」
「そんなこと言ったらヒーローは何もできないじゃない!い、言いたいことは色々あるけど、後にする!オールマイトが言ってたの。余計なお世話はヒーローの本質なんだって」
距離をとって戦うのはこちらには不利だ。ワン・フォー・オールを撃ち込めないからだ。ならば相手の間合いに入り込むまでだ。力強く地面を蹴り、低姿勢のままステインの懐へ一気にかけていく。相手が小刀を取り出そうとしているのが見える。斬りつけられてはダメだ。咄嗟にステインの股の間をくぐり抜ける。小柄な私だからできる技、股抜きだ。
ステインは振り向きざまに刀を振り上げる。私はグラントリノの事務所にきてから自主トレしていた壁蹴りを実践してステインに向かって放つ。
「5%デトロイトスマッシュ!!」
ステインに確実にヒットした。フルカウルが通じた。確実に成長していることを実感する。私戦える。そう思って再びステインに向かっていこうとしたが、ステインが刃を舐めた途端に身体中の力が抜けて動けなくなる。
気づかないような小さなかすり傷ですら、ステインの個性が発動するのか。いや、違う。斬りつけることが発動条件じゃない。血液を摂取することで発動するんだ。
動けない私に歩いて近づいてくるステイン。だけど素通りして飯田くんとプロヒーローへと向かっていった。
「口先だけの人間はいくらでもいるが、お前は生かす価値がある・・・こいつらとは違う」
「やめて!!」
個性によって動けない。地面にへたり込んでいる自分が情けない。ステインのすることを指を咥えて見てるしかないのか。
飯田くんに鋒を振り下ろそうとするステインへ、突然氷と炎が襲いかかる。轟くんだ。
「緑谷。こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」
「何で轟くんが!?それに左・・・!」
「なんでってこっちの台詞だ。数秒意味を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味なくそういうことする奴じゃねぇからな、おまえは。"ピンチだから応援を呼べ"って事だろ。大丈夫だ数分もすりゃプロも現着する」
そう言って地面を凍らせる轟くんによって、私と飯田くんとプロヒーローは集められ地面に転がった。
「こいつらは殺させねえぞ。ヒーロー殺し」
「轟くん、そいつに血ィ見せちゃダメ!多分血の経口摂取で相手の自由を奪う!皆やられた!」
ステインは、轟くんの血を舐めようとしている。轟くんまでやられたら全員やられるかもしれない。
「轟くん・・・!っ!?あれ・・・」
指先がピクリと動かせるようになった。上から攻撃を仕掛けようとしているステインの高さまで壁蹴りで駆け上がり、ステインの服を掴み氷の壁に叩きつけた。ステインがぶつかった衝撃で氷が砕け散る。しかし空中で腰に肘打ちをくらって着地の際にバランスを崩してしまった。
「下がれ緑谷!」
「私だけ先に解けたってことは考えられるのは3パターン。人数が多くなるほど効果が薄くなるか、摂取量か、血液型によって差異が生じるか・・・」
血液型によって身体の動きを止める時間が違うのか。ただ、わかったところでどうにもならない。血を舐められたら結局動けなくなることに変わりはないから。
轟くんは出血が酷い。これ以上出血が続けば命に関わる。私がステインの気を引くしかない。
「轟くんは血を流しすぎてる。私が奴の気を引きつけるから後方支援をお願いしてもいい?」
「相当危ねえ橋だが・・・そだな。二人で守るぞ!」
私がステインへと走りだすが、ステインによって左足を斬りつけられて地面を転がる。痛みが遅れてやってくる。
「ごめんっ、轟くん!!」
轟くんがステインに押されている。刀が轟くんに当たる寸前、飯田くんが動いた。動けるようになったんだ。飯田くんも、轟くんも踏ん張ってる。私も足をやられたくらいで、立ち止まってたらダメだ。二回。ここから跳んで氷を踏み台にして踏み込み2回。いけるだろうか。いや、今は拳さえあれば・・・!飯田くんの蹴りと私のフルカウルが同時にステインの両サイドから繰り出されて直撃した。
足をやられてる私に着地はきつい。轟くんが氷を出してくれなきゃ今頃わたしの足は折れてたと思う。ステインの動きがようやく止まった。さすがに両サイドから全力の攻撃を受ければ気絶するだろう。縛りあげて路地裏から出る。私は最後の攻撃のせいで歩けなくなってしまった。ステインの個性の力が解けて動けるようになったプロヒーローに背負われていた。
路地裏から大通りに出た時にグラントリノと遭遇したのだが、私を見つけたグラントリノは駆け寄ってきて頭をポカスカ叩いた。地味に痛い。
「なぜお前がここに!座ってろつったろ!!」
「グラントリノ!」
「まァよぅわからんがとりあえず無事なら良かった」
「ごめんなさい・・・」
プロヒーローが地面に降ろしてくれた。
背後から飯田くんが謝る声が聞こえて振り返ると深々とお辞儀をしていた。私が思い詰めてる飯田くんに気づけなかったせいだ。友達なのに。
飯田くんに近づいて手を握った。
「私もごめんね。飯田くんがあそこまで思い詰めてたのに全然見えてなかった。友達なのに・・・」
「・・・」
「しっかりしてくれよ、委員長だろ!」
「・・・うん」
ステインとの戦いは5〜10分くらいの戦いだったのに、ものすごく長い戦いに感じた。怖かった。友達を目の前で失うかもしれない状況はUSJ事件以来だった。
突然グラントリノが叫んだ。
「伏せろ!!」
「え?」
脳無だ。背中に翼が生えているやつで、こちらに飛んできている。突然のことに呆然としていると、その脳無が鷲のような足で私の身体を掴み一気に上昇する。
「緑谷くん!」
「きゃぁああああ!」
身動きがとれないし、とれたところで落ちれば死ぬ。そう思ってギュッと目をつぶっていたら今度は急転直下。フリーフォールのようなGを感じて目を開ける。拘束されていたはずのステインが私の身体を受け止めて助けてくれた。
「全ては正しき社会のために」
そう呟きながら。しかも脳無を小刀で殺していた。どうして私を助けたのかはわからない。あれだけの攻撃を食らってなお動けることが信じられなかった。
現れたエンデヴァーさんと戦おうとしたステインは立ったまま気を失っていた。
後から聞いた話だけど、この時ヒーロー殺しは折れた肋骨が肺に刺さっていたそうだ。あの場で脳無に立ち向かっていたのは彼だけだった。
そのあと、病院に運ばれた私たちは緊急の処置を受けて入院することになった。あれだけの傷を負ったのだし仕方がない。リカバリーガールがいれば入院にはならなかったかもしれないが、ここは一般の病院だ。
私は女子なので病室が別になる。轟くんと飯田くんが動けない私の元へやって来ていた。
「冷静に考えるとすごいことしちゃったね」
「そうだな」
「私の脚、これ多分だけど殺そうと思えば殺せてたと思うんだよね」
「ああ俺らはあからさまに生かされた。あれだけの殺意向けられて尚立ち向かったお前はすげえよ。救けたつもりが逆に救けられた。わりィな」
飯田くんが何かを言いかけたとき、グラントリノと飯田くんの訪問先のヒーロー、マニュアルさんとで犬顔の筋骨隆々とした人が入ってきた。
保須警察署署長の面構犬嗣さんという方らしい。語尾に"ワン"がついてて可愛い。
ヒーローの資格未取得者である私たちがしたことは、正当防衛ではなく保護管理者の指示なく"個性"で危害を加えたということになり、かなりの問題となるようだ。例えそれがヒーロー殺し相手でも規則違反になることには変わりない。
私たちはともかく、エンデヴァーさん、マニュアルさん、グラントリノまで処罰対象であるらしい。そんなの嫌だ。
面構署長は続けて、これは公表すればの話だと言った。公にしなければエンデヴァーの功績として世に伝えられ私たちや指導者の処分はないと。ただそうすることで私たちの英断と功績も知られることなく葬り去られる。
どちらがいいかと尋ねられた。答えはもちろん・・・公表しない。
色んな人に迷惑がかかりすぎるからだ。
三人で頭をさげた。すると面構署長も頭を下げた。
「大人のズルで君たちが受けていたであろう賞賛の声はなくなってしまうが・・・せめて共に平和を守る人間としてありがとう!」
私たちは顔を見合わせた。これで良い。誰も死ななかったし、お咎め無しなのだから。私たちは賞賛されるためにヒーローになりたいのではない。対価を得ずとも誰かの役に立ちたい、救いたいのだ。
こうしてステインとの戦いは人知れず幕を下ろした。
「そういえば、緑谷。コスチューム変わったのか?」
「あの時はヒーロー殺しを目の前にしてあまりちゃんと見れなかったが、言われてみれば変わっていたような気がするな」
「えっ、ああ、うん。そうなの」
「似合ってたぞ」
「あ、ありがとう・・・」
私の顔が真っ赤になったのは言うまでもない。