事務所グラントリノ
職場体験当日の朝。コスチュームを持って駅に集まっていた1-A組一同は、各々が行く事務所へと向かって発つことになっていた。
相澤先生からの説明を聞きみんなと暫しの別れを告げる。
私はグラントリノの事務所のある山梨県に向かうことになっていた。
そして麗日さんは私を強く抱きしめていた。
「ううなまえちゃん、寂しいなぁ。お互い成長してまた会おうね!」
「うん!麗日さんガンヘッドのとこで頑張ってね」
飯田くんは思い詰めてる様子でいつものようにクラスを取り仕切ろうとはしなかった。心配だな。お兄さんのことを襲った犯人、ステインはは未だ逃走中だ。あれから飯田くんはお兄さんのこと何も言ってくれなかった。
「飯田くん・・・本当にどうしようもなくなったら言ってね。私たち友達でしょ?」
「ああ」
そう言って歩いて行く飯田くんの背中はなんだか別の人のように見えた。このとき、もっと飯田くんの気持ちに気付いていたら。もっと強く言葉をかけていれば・・・
私も新幹線に乗り、グラントリノの事務所へと向かった。降り立った地は自然も多く、敵が出現することがあるのだろうかと思うほどに長閑な雰囲気の街だった。オールマイトですら恐れるヒーロー、グラントリノ。聞いたことない名前だけどすごい人に違いない。地図アプリによるとここの建物なんだけどな。あまりにもボロくて本当にここなのか心配になって周りを何度もぐるぐるとまわった。
壁のあちこちにクラックが入り、外壁の一部は剥がれ、入り口のウェルカムと描かれた看板は今にも落ちてきそうだ。建物の周りは仮囲いで囲まれており今にも崩れ落ちてくるのではないかと不安を助長する。廃墟のような事務所だ。
私ここで一週間寝泊まりするの?心霊的なアレとかが出そうで怖すぎる。私そういうの無理なので。頂いた住所は確かにここのはず。
恐る恐る扉を開け声をかける。
「雄英高校から来ました・・・緑谷なまえです。よろしくお願いしま・・・きゃぁああ死んでる!?さっそく心霊的なアレなの!?こわいいいい」
一人のご老人が、血まみれになってうつ伏せで倒れていた。腸のようなものもでてるではないか。慌てて駆け寄ると、ご老人はガバッと起き上がって「生きとる」と叫んだ。
「きゃぁぁああ!い、生きてる!!」
「いやぁぁ切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケたァ〜〜〜!ん、誰だ君は!?」
「雄英から来た緑谷なまえです!」
「何て!?」
「緑谷なまえです!!」
「誰だ君は!!」
大丈夫かな、おじいさん。オールマイトの先生だし、相当なお歳とは分かってたけどコレは・・・やばいやつかも。
ご老人はぺたんと床に座り、飯が食べたいと空腹を訴え始めた。ウィンナー落としちゃったもんね・・・仕上がりっぷりをオールマイトに報告したほうがいいかも。おじいさんと医療を繋がないと彼はすぐに死んでしまう気がする。とりあえずオールマイトに電話しよう。
「す、すみません。ちょっと電話してきますね」
「撃ってきなさいよ!ワン・フォー・オール!どの程度扱えるのか知っときたい!」
急に思考がクリアになったのか、別人のようになった。それにおじいさん、わたしのコスチュームバック勝手に開けてる。
「や、えと・・・そんなことしたら・・・」
「良いコスじゃんホレこれ着て撃て!誰だ君は!!?」
「ぇぇえええ!?っ〜〜私、早く、早く力を扱えるようにならなきゃいけないんです!オールマイトにはもう時間が残されてないから・・・それにおじいさん、さっき転けてましたし・・・どこか怪我はされてませんか。病院に行ったほうがいいのでは?ちょっと外で電話してきます」
そう言って私がドアへと向かっていくと、おじいさんが床や壁を壊しながら入り口ドアの上にへばりついた。
「だったら尚更撃ってこいや受精卵小娘!」
「ひゃっ!?」
「体育祭での力の使い方・・・あの正義バカオールマイトは教育に関しちゃ素人以下だぁな。見てらんねぇから俺が見てやろうってんだ」
先ほど転んでたおじいさんだとは思えないほどの動きで、私は空いた口が塞がらない状態だった。
「さァ着ろやコスチューム。あっちの部屋いって着て来い」
「はい・・・」
コスチューム鞄を開けると中に取説が入っていた。
『緑谷様へ
修繕にあたり弊社の独断で材質やデザインに少々の変更を加えましたがご了承ください。だってこっちの方が絶対可愛いし!』
えー・・・。サポート界は発目さんみたいなひとばかりなのかな。
黒いニーハイソックスみたいなやつが入ってて、それには特殊な金属繊維が練り込まれいて耐熱性や耐冷性、さらには衝撃にまで強いらしい。それを履いてスーツを着たのだが、驚いたのはスカートになっていたことだ。しかも短い。可愛いっていうのはこれのことか。インナーのショートパンツも入ってた。パンチラ対策はバッチリですね。さらに胸元が開いている。何故・・・少々どころではない。これは大幅なデザイン変更だと思う。
膝と肘のサポーターもより動きやすくなっているので改良されているのがわかる。
すごいのだけど、恥ずかしさを乗り越えないといけないぞこれ。
グラントリノのいる部屋へ戻る。
「よろしくお願いします。ほ、本当にいいんですか?正直まだ完全に使いこなせないしらもっと開けた屋外じゃないと・・・もしうっかり100%で撃ったりしたら、グラントリノさんのお身体が・・・」
「やれやれ。ウダウダとまァー焦ったいな」
そう言うや否やグラントリノは部屋中を飛び回って背中にまわり飛び蹴りされた。は、速い。
「撃つだけじゃないんですか!?実践形式!?」
「9人目の継承者がこんな蚊取り線香みたいな女とは・・・オールマイトはとことんド素人だァな」
「か、蚊取り線香!?いったぁ!!?」
速すぎて背中を2回蹴飛ばされた。隠れる隙もないこの状況なら、とりあえず動きをとめたい。多分また背中をやられるはず。その時がチャンスだ。来たっ!背中を蹴られる前に反りながら仰向けになって、グラントリノへ撃つが避けられて床に押さえつけられてしまった。
「身体のしなやかさはあるのに固い。そして意識がチグハグだ。だからこうなる」
私の放ったワン・フォー・オールは天井に当たりシャンデリアを揺らしただけだった。絶対捕まえたと思ったはずなのに。
「オールマイトへの憧れや責任感が足枷になっとる」
「足、枷・・・?」
「早く力をつけなきゃ。それは確かだが時間も敵もお前が力をつけるまで待ってくれはしない。ワン・フォー・オールを特別に考えすぎなんだ」
「つまりどうすれば」
「答えは自分で考えろ。俺ァ飯を買ってくる。掃除よろしく」
「ええ・・・!?」
グラントリノが壊した壁や床、電子レンジなどを片付けながらワン・フォー・オールについて考える。私が特別に考えすぎてるってどういうことだろう。それにしなやかさがあるのに固いって何だ。柔軟な・・・そうか、超必殺技のように考えてた。
「そっか、個性は身体の一部なのよ。もっと、もっとフラットにワン・フォー・オールを考える!そっか、うんうん。となると反復練習かな」
それから急いで片付けて、今教えてもらったことをイメージする。ご飯を買って帰ってきたグラントリノの荷物を受け取り冷蔵庫へと運ぶ。冷凍食品や、レトルトばかりだ。グラントリノはお歳だし、作るのが大変なんだろうな。明日から私がスーパーに行って食材買ってグラントリノに食べさせてあげよう。
一日目は私の動きを見てもらっただけでヒーロー活動は一切していない。それに、ご飯買って帰ってきてからグラントリノは喋ってるかのようないびきをかいてずっと寝ている。
屋内でのトレーニングを一人続けていたが限界を感じ、夜静まり返った街にこっそり抜け出して自主トレをすることにした。だってグラントリノずっと寝てるんだもの。
「フラットに考える。かっちゃんや皆は息をするように自然にできることがわたしにはまだ使うって意識がある・・・」
5%の動きを呼吸するように扱えれば、かっちゃんみたいな動きだってできるはず。相澤先生や切島くんも言ってた。使いこなせればできることは多い。
とりあえず瞬発と断続の反復練習だ。
何度も壁蹴りを練習するが、強すぎたり弱すぎたりワン・フォー・オールの調整がなかなか上手くいかない。練習しているうちにすっかり真夜中になってしまって急いでグラントリノの事務所に戻った。シャワールームを見つけたので勝手に浴びさせてもらった。私に割り当てられた部屋へ行きベッドに潜り込む。部屋はボロいけど、寝具は新品みたい。これで布団もぼろかったら私、近くのビジネスホテルに泊まりたいって母に初日から泣きついてたかもしれない。
麗日さんやかっちゃん、他の皆は無事にヒーローの事務所ついたのかな。連絡したいなと思ったけど、邪魔してはいけないし控えておくべきかな。麗日さんも初日で疲れてるだろうし、もう夜中だし。
静まり返った部屋は心霊的なアレの怖さというよりも、みんなが恋しくなって寂しい。ホームシック?雄英シック?
上鳴くんが撮ってくれた電車でのツーショット写真のかっちゃん可愛かったな。そう思って写真フォルダを開いて見てみる。スマホの画面の中のかっちゃんは腕組みして私に寄りかかって寝ていた。無防備な寝顔をみているうちに、私もいつの間にか寝てしまっていた。
こうして私の職場体験1日目は終了した。