備えあれば憂いなしなので



職場体験は指名されたヒーロー事務所か、受け入れ可能な事務所一覧から選び一週間その地でヒーロー活動たるものを体験するカリキュラムになっている。私は母と共に持ち物リストを確認して足りないものをリストアップした。今日は足りないものを買い足しに行くことになっている。母は心配性なので、あれもこれもとリストに付け加えようとするので止めるのが大変だった。

買い物は女子にとってはかなり楽しいイベントである。それは母にとっても同じようでかなり気合が入っていた。職場体験であきらかに必要なさそうなものまで、勧められて結局買ってしまった。持ちきれないほどの大荷物となってしまい、周りからちょっとした注目を浴びてしまっていた。

「なまえ、ちょっとお茶でもしよっか」
「うん!やったぁ」

母も少し疲れたらしくカフェでお茶することになった。山のような荷物を置いて、二人で飲み物を注文した。母はコーヒー、私はオレンジジュースだ。
喉を潤しながら、学校の話をしていた。

「かっちゃんとは最近うまくいってる?」
「ゴホッ、ゴホッ」

オレンジジュースで盛大にむせてしまった。そういえば最近、かっちゃん中学時代に比べたらだいぶ丸くなったし昔のように戻りつつある気がする。そう伝えると嬉しそうにしていた。
昔のようじゃないところもあるなと、口の端についたクリームを舐められたことを思い出して顔が赤くなった。
母は私のことをいつまで小さな子どもだと思っている節がある。母のスマホが鳴って話は遮られた。私は残ったオレンジジュースを飲んだ。

「あ、お母さんアレ買い忘れちゃった!なまえ、ちょっとここで待ってて。忘れないうちに買ってくるわ。飲み物おかわり注文してていいから」
「私も行こうか?」
「すぐ近くだし大丈夫!なまえはここに居て」
「んー、分かったぁ。気をつけて行ってきてね」

母は、買った荷物を半分くらい持ってカフェを出て行った。どうせここに戻ってくるんだから置いていけばいいのに。
スマホを取り出してぼんやりと画面を見つめる。SNSを見たり、地図アプリにグラントリノの事務所の住所を入力し場所を確認する。新幹線で45分かぁ。近いようで遠いな・・・。
目の前に誰かが座った。思ったより早く戻ってきたなと顔をあげると、そこに居たのは母ではなくかっちゃんだった。

「おかえりー、早かった、ね!?か、か、かっちゃん!?なんでっ!?夢?」
「夢じゃねェよ!でかい声で叫ぶなバカ」

驚きのあまりつい大きな声で言ってしまって慌てて周りをみる。少し注目されていたが、みんなすぐに視線をそらした。多分かっちゃんの顔が怒ってたから。

「か、かっちゃん、なんで、ここにいるんですか?」

小声で聞くとかっちゃんは眉間にシワを寄せた。

「クソババアに荷物多いから迎えに来いって言われて指定された場所に来たらお前しかいなかったんだよ」
「え、かっちゃんのお母さん?私は自分のお母さんと買い物来てたんだけど、買い忘れたものがあるからってどっか行っちゃって・・・」
「・・・図られたな」
「え?」
「なんでもねェよ」

お店の人が後から来たかっちゃんの水を運んできて、注文も聞きに来た。
かっちゃんはアイスコーヒーを頼んでいた。コーヒー飲むんだ・・・

「なまえ、これ全部職場体験の買い物か?」
「う、うん、あとは普段着る服とか、日用品とか」
「買いすぎだろ」
「・・・備えあれば憂いなしって言うし?」

お母さんからメッセージが届いて内容をみて焦ってしまった。

『お母さん、買い忘れたもの買えたのでそのまま帰ります。カフェのお代は会計済みです。追加でオーダーしたものはお小遣いで払ってね!かっちゃんと合流できたかな?楽しんでね、ゆっくり帰ってきていいよ』

かっちゃんが図られたって言ってたのはこのことか!かっちゃんを見ると目が合って、顔が熱くなった。

「あ、あの、かっちゃん。ここに来させられたの、うちの母の仕業みたいだ。ごめんね?」
「・・・別にいい」

かっちゃんはそっぽを向いてぶっきらぼうに言った。二人ともコップが空になったので店を出た。おそらくかっちゃんは、私の母がかっちゃんのお母さんに何か伝えたせいで呼び出されたのだろう。お詫びのつもりでここの代金は払うと言ったのだが、絶対に財布を出させてくれなかった。申し訳ない。

母が半分くらい荷物持って帰ったとはいえ、まだ半分は残っている。かっちゃんに、荷物のほとんどを奪われてしまったので、ますます申し訳なく思ってしまう。

「ごめんね、持ってもらって」
「ん」

電車に乗ってまた最寄り駅まで帰る。
座席に並んで座って、職場体験の話とかしてたのだが返事がなくなって静かになった。かっちゃんをチラリとみると船を漕いで寝ていた。かっちゃんの頭を私の肩に乗せるように誘導してあげると、寄りかかってきて規則正しい寝息が間近に聞こえた。せっかくの休日に呼び出されて、荷物持たされて疲れたのかもしれない。
最寄り駅に着くまでこのままにしておこう。

かっちゃんの温もりを右肩に感じながら車窓の風景をみていると、声をかけられた。

「緑谷!と爆豪じゃねーか!」
「あ、切島くん、上鳴くん!こんなところで会うなんて珍しいね! 」
「買い物してたのか?デートか?」
「いや、そんな!ちがうよ!デートじゃないよ!職場体験で必要ものとかを母と一緒に買ってたの。かっちゃんは荷物が多いから迎えに来てくれてお茶しただけって感じかな」
「それデートだろ。てか爆豪寝てんね」
「爆豪、二人きりだと緑谷に甘えるタイプ?」
「えっ、どうだろ?わかんない」

二人は顔を見合わせてニヤニヤと笑っている。上鳴くんがスマホで私に寄りかかってるかっちゃんを撮影している。こんなの撮ってどうするんだろ。上鳴くんに「緑谷ーこっち見てー笑ってー」とカメラマンみたいに言われて笑ってしまった。

「そういや、お前ら家近所なんだよな。どこで降りるんだ?」
「次の次だよ」
「じゃ爆豪起こすか」
「ひひひ!爆豪ー!起きろ。起きないと緑谷連れて行くぞ」
「ぁあ゛!?」

怖いもの知らずの二人はかっちゃんを揺さぶって起こした。どうせ起こさないといけなかったしいいか。かっちゃんは起きて、二人をみつけると舌打ちをした。

「おい爆豪、緑谷とデートしてたのかよ、羨ましいな」
「ちっげえよカス。なんでお前らいんだよ」
「遊びに行ってその帰り。爆豪誘っても断ったのは、緑谷と約束があったからだったんだな!」
「はァ!?」
「か、かっちゃん、もう降りないと!」

最寄り駅のホームに電車は滑り込み速度を落として停止した。かっちゃんは大量の荷物と私の手を掴んで二人にじゃあなと言って降りていく。慌ててわたしも切島くんと上鳴くんに挨拶をした。

「切島くん、上鳴くんまた来週!」
「おう!」
「邪魔して悪かったな!またなー!」

かっちゃんは手を離して荷物を両手に抱えてあるきはじめた。二人とも黙ったままだ。
私の家まで着くと、お母さんが和かに出迎えてくれた。

「ちょっとお母さん!どういうこと!?」
「まあいいじゃない。かっちゃんありがとうね。今日は上がって行って」
「っス。お邪魔します」
「え、え、待って!かっちゃん家上がるの!」
「なんだよ!!ダメなのかよ!てめェは俺の部屋上り込んでるだろうがよ」
「それはかっちゃんが呼ぶからじゃん」

部屋、散らかってる訳じゃないけどオールマイトグッズだらけで女子の部屋っぽくないし恥ずかしい。かっちゃん来るの分かってたらオタク部屋をもう少しなんとかしたのに。
母に玄関先で言い合いしてたら近所迷惑になるから家に入りなさいと言われて渋々入った。
かっちゃんの持つ荷物を奪おうとしたけど、全然離してくれなくて結局部屋まで荷物を運んでもらった。

「私の部屋、ここ。適当に置いてくれて良いから。運んでくれてありがとう」
「ん」

かっちゃんが私の部屋を見回してるのがわかって恥ずかしい。追い出そうとかっちゃんを押すが、全然出てくれない。
母に呼ばれてキッチンへ行き、お茶の入ったコップをトレイに乗せて部屋まで戻ると、かっちゃんは何も言わず、学習机の写真立てを見ていた。写真立てのなかには、まだ仲良かった子供の頃の私たちのツーショット。かっちゃんと手を繋いで二人でピースサインをカメラに向かってしている。しまった、すぐさま隠すべきだった。ずっと飾ってるので、もはや飾ってるという意識がなかった。

「おい、これ・・・」
「こ、これは、その思い出として!飾ってるだけなの。深い意味はないから!」
「・・・」

二人のスマホが同時に鳴って、テーブルにトレイを置いて画面を開いた。
上鳴くんからだ。かっちゃんがわたしに寄りかかって寝てるところだ。私はカメラ目線で微笑んでいて、かっちゃんは穏やかに寝ている。かっちゃんの画面を盗み見ると同じ写真が送られていたようで、スマホを握る手が震えていた。怒りで。怖いよ、この後の爆発が。
かっちゃんは爆発させることなく、スマホをポケットにしまった。人の家だから遠慮したのかな。
かっちゃんはあぐらをかいてカーペットの上に座っている。私もクッションを抱いてカーペットの上に座った。

「来週から職場体験だね!しばらく会えなくなっちゃうね・・・」
「一週間だけだろ」
「私は一週間だけでもみんなに会えなくなるの寂しいなぁ」
「・・・」
「かっちゃんは寂しくないの?」
「別に」
「そ、そうなんだ。男の子ってそういうとこはあんま気にしないのかぁ」
「なまえに会えないのは寂しいかもな」
「へっ!?」
「嘘に決まってんだろバカ」

びっくりした。そうだよね、そんなこと思うはずない。最初、違う高校行けって言ってたくらいだもんね。たわいもない話をして、そろそろ帰るわと言ったかっちゃんをマンションの下まで見送った。

「今日は本当にありがとう。今度お礼させて」
「いらねーよ、礼なんて」
「え、えええ!でも・・・」
「じゃ、またあの白くて丸いクッキーでも焼けや・・・割と美味かったし」


あ、もしかして入試の後に借りたジャージを返した時に作ったスノーボールクッキーのこと?かっちゃん食べてくれてたんだ。あのとき、クッキーのこと伝えずジャージと一緒に紙袋に入れたまま逃げ帰ってしまったから、食べてくれたかわからないまま時が過ぎて私もすっかり忘れてしまっていた。

「うん、分かった!また作るね!」
「じゃあな」

あの時は小さい頃みたいに仲良くするのは無理だと言われたけど、こうやって仲良くしてくれて、クッキーのこと覚えててくれたかっちゃんの優しさがじんわりと身体中に広がりぽかぽかと熱を帯びていく。

家に帰って、母にスノーボールクッキーまた作りたいと言うと、母は雄英体育祭並に盛り上がっていた。



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