ケーキは綺麗に食べましょ



体育祭のあと二日は休校なのでのんびりと休める。
昼ご飯を食べ終えて、洗い物をしてると新着通知の音がした。濡れた手をタオルで拭いてスマホの画面を覗き込むと、クラスのグループトークに体育祭のアルバムが作られていた。
騎馬戦や、個人トーナメントの写真だけでなくチア姿の女子の写真まで載せられていた。私が峰田くんをぶっ飛ばしたシーンの写真まである。きっと撮ったの上鳴くんだ。画面に向かって苦笑いしてしまう。

個人のメッセージが届いた。誰かと思ってトーク画面を開くとかっちゃんからだった。

『おい今すぐ俺ん家来い』
『何で・・・?』

既読はつくのに返事はこない。何かあったのかな。
Tシャツにショートパンツというラフな格好だけど近所だし、このままでいいか。素足にサンダルを履いて家を出た。

インターホンを押すと、かっちゃんのお母さんが出てきた。包帯巻かれてミイラみたいな私を見てまた泣きそうになってる。

「よく頑張ったね、なまえちゃん」
「私はまだまだです。かっちゃん、一位おめでとうございます。本当に格好良かったです」
「表彰式んときの勝己は最高にカッコ悪かったけどね。ちょっと、勝己ー!なまえちゃん来たよー!勝己ー!!」
「なまえちゃん来たって言うのに。あいつ何してんのかしら。さっき起きてきたはずなんだけど・・・ごめんね、部屋にいるはずだから上がって」
「お邪魔します」

部屋に上がると、かっちゃんはベッドにうつ伏せで寝てた。人を呼び出しておいて寝るなんて。かっちゃんの頬をつついてみたけど、起きる気配は全くなくて。
かっちゃんの手に握られたスマホの画面がついたままで、充電減るし消してあげようとしたらそこにはチア姿の私の写真が映されていた。動揺してしまってスマホを触るのをやめた。

「ぇえ、え!?」

見なかったことにして、かっちゃんが起きるまでベッドにもたれかかって床に座って待つことにした。寝てるの起こすのがなんだか可哀想で。それに眠ってるかっちゃんはなんだか幼く見えてちょっと可愛い。

「勝己ー、なまえちゃーん、入るよー」

かっちゃんお母さんが、紅茶とケーキをトレーに乗せて持って来てくれた。受け取って、ローテーブルに置いた。

「やだ、勝己寝てんの?昼過ぎに起きてきたと思ったのに、まだ寝るか?なまえちゃん来てるってのに!おい、起きろ勝己!」
「うっせぇなぁ」
「なまえちゃん!来てるよ!」
「あ゛ァ?」
「お、おはよ?」

起きてきたかっちゃんに挨拶すると、何でここに居るんだって顔された。かっちゃんが呼んだくせに。かっちゃんはスマホ画面を慌てて消していた。私は突っ込むのも恥ずかしいから、何も見てませんという顔をしておいた。どうせ馬子にも衣装って言われるだけだろうし。
かっちゃんのお母さんは買い物に行くから留守番よろしくと言って出て行った。
かっちゃんがベッドに腰掛けてあぐらをかいた。

「怪我もう良いのかよ」
「んー、休み明けには固定も外していいって言われたよ。今も動かせるんだけど念のためって」
「・・・そうか」

かっちゃんがローテーブルのところに座り、わたしも向かい側に座るとかっちゃんが私の手に触れてきた。労る様に優しく。

「こんな個性持ってたのに俺にずっと黙ってたのは今でも許せねェ。それに使った反動でボロボロになるクソ危ねえ個性なんて」
「ご、ごめん」
「てめェはこんな戦いと無縁の世界にいたら良かったんだよ・・・俺がプロヒーローになったら、なまえのいるとこには敵が来ないようにしてやるから」
「・・・でも、それじゃ誰がかっちゃんを守るの?私だってかっちゃんや家族を、大好きな人たちを守りたい。かっちゃんと肩を並べて一緒にみんなを救けるヒーローになりたい。それが小さい頃からの私の夢なんだもん」
「おまえの夢もう一個あっただろ?そっちは叶えなくていいんか」
「え、そんなのあったっけ」
「・・・覚えてねェんならいい」

もう一つの夢ってなんだろう。覚えがなくて唸っていると、早よ食えってケーキの皿を近くに寄せられた。左手で食べるの難しくて、四苦八苦してると大きなため息ついたかっちゃんにフォークを奪われた。私が不器用だから見てて苛ついたのかも。

「ん」

かっちゃんが私のケーキをフォークで掬って差し出している。食べさせてくれるんだ。少し身を乗り出して口を開ける。

「ん〜美味しい!」

咀嚼する前から口に広がる甘さにうっとりしてると、かっちゃんがニヤリと笑った。

「餌付けしてるみてェだな」
「え、餌付けって・・・」

ちょっと言い方!
またフォークにケーキを乗せて差し出されて、食べようと口を開けるが、かっちゃんの意地悪が発動してかっちゃんがパクッと食べてしまった。

「え、えー!?酷い!かっちゃん、自分のケーキあるじゃん」
「色気より食い気かよ」
「し、失礼な!色気だって出てきてるんだから。峰田くんとか上鳴くんも言ってたよ!」
「何て言ってたんだよ」
「えーと、・・・内緒」

言われたことを思い出して、恥ずかしくなって俯いた。

「はァ!?なまえのくせして俺に内緒とか生意気だぞ!!言わねェとケーキやらねぇぞ」
「それはやだ」
「じゃ言えよ」
「ふ、普通に可愛いとか、チア姿似合ってるとか、華奢なわりに胸あるって・・・それで峰田くん張り飛ばしちゃたんだけど」

かっちゃんが何も言わないから、顔をあげると般若みたいになってた。フォークを握る手に力入ってて、かっちゃんの力なら容易く折れそうだし、怖すぎる。正直に言ったのにケーキもらえなさそう。

「か、かっちゃん?」
「てめェ殺す」
「へっ!?なんで!?」

それに可愛いって言われるのは悪いことじゃないのに理不尽すぎる。かっちゃんがフォークを乱暴にテーブルに叩きつけて、私に近づいてきた。グイッと左手を引っ張られて、胸の中に閉じ込められた。だんだんとかっちゃんの抱きしめる力が強くなっていく。絞め殺すってこと?
苦しくなってかっちゃん・・・と呟くとようやく解放された。
咳き込んで、息をする。

「なまえ、てめェはもっと危機感を持て」
「危機感?」
「警戒しろってことだよ!バカ!」
「あ、それ尾白くんにも心操くんにも言われた・・・」
「はァ!?」

首を傾げているとかっちゃんの掌で小爆発が起こった。なんでこんな怒ってるんだろう。部屋がものすごく煙たくなっているので窓を開けようとかっちゃんのベッドに乗ったら、後ろでどデカい爆発が起こった。振り返るとかっちゃんが般若の顔ですぐ後ろに立ってた。

「言ったそばからてめェは!!」
「まさか窓開けるのも警戒しないといけないの!?」
「ちげェよ、俺が言ってんのはてめェの格好と、場所だろうが」
「・・・格好?Tシャツと、ショートパンツに一体何の問題が。ハッ!わかった。おしゃれしろってことか。たしかに部屋着は色気はないよね。次から気をつけよう。でも場所ってどういうことだろ。かっちゃんの部屋に何か問題でもあるのかな。え、よく分からなくなってきた・・・」

ぶつぶつ呟いてると、かっちゃんに頭を叩かれた。かっちゃんにベッドにから引きずり下されて、その代わりにかっちゃんが窓を開け放した。かっちゃんはまた床に座ってフォークにのせたケーキを差し出してきた。あーと口を開けると口の中に放り込まれた。甘い。
かっちゃん機嫌治ったのかな?

「なまえ、口んとこクリームついてんぞ」
「えっ、どこ?」
「ここ」

ティッシュとろうとすると、その手を抑えられた。反対の手で顎を掴まれてかっちゃんがペロリと口の端を舐めた。

「え、ええええええ!?」
「警戒しろってのはこういうことだ、バーカ」

舐められたところを押さえて固まってると、私の分のケーキ全部食べられた。なるほどケーキは綺麗に食べろってことか。


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