雄英体育祭-後半戦
昼休憩が終わり後半戦が始まろうとしていたのだが、峰田くんと上鳴くんの策略によりA組の女子全員がチアリーダーの衣装を着ていた。もちろん例外なく私も着せられた。へそ出しだし、恥ずかしくて仕方ない。峰田くんと上鳴くんが、女子の格好を見て変な声を出して喜んでる。八百万さんが怒ってるけど、もはやそれすらも嬉しそう。
峰田くん達が近寄ってきて、私をジロジロみて親指をグッと立てた。スマホで写真を撮られた。
かっちゃんも後から出てくるのが見えた。この姿を見られたくなくて、隣に立つ麗日さんの陰にこそこそと隠れたが、ばっちり目が合ってしまった。かっちゃんは私を見て固まってそして何故かキレて爆発を起こしてる。似合わないもん見せて申し訳ないと思ってるから、そこまで怒らないでほしい。
「おー緑谷ー、お前チア似合ってんじゃん!それで爆豪応援してやれよ」
「緑谷普通に可愛いな。そして華奢な割になかなかどうしておっぱいが」
「ひっ!いやぁ!」
なんでかっちゃんを応援するの?あんなにキレてるのに。
そして峰田くんの目線の気持ち悪さのあまりにワン・フォー・オールを無意識のうちに発動させて、峰田くんの頬を張り飛ばしてしまった。ここで制御が上手くいくなんて驚きだ。バチーンと軽快な音が辺りに鳴り響く。峰田くんの身体が宙に浮き遠くまで飛んでいった。上鳴くんはそれを見てジリジリと後退って逃げた。その様子もアナウンスされてしまい、私はいたたまれなくなった。
トーナメントのくじ引きをするために集められる。そこで尾白くんが辞退した。個性で操られ記憶が無いままに最終種目に出場するのは、彼のプライドが許さなかったらしい。B組の男の子もそれに倣って辞退している。
私の最初の対戦相手は心操・・・心操って確かA組にきて宣戦布告してた人?
「あんただよな?緑谷なまえって」
「ーーょモッ」
返事をしようとしたら尾白くんの尻尾で口を塞がれた。
「緑谷!!奴に答えるな」
「ンモッ!」
尻尾を軽く叩いて退けてもらった。その際に尾白くんの尻尾の先がフワフワしてて意外と肌触りがいいことを知ってしまった。
トーナメント開始の前に生徒全員参加のレクリエーションがあるらしいけど、体力温存したいし、尾白くんが心操について控室で話そうと言ったのでパスして着いて行った。
前を歩く尾白くんの尻尾の先をつい目で追ってしまう。
チアの服のまま控室に入ると、尾白くんが心操くんについて教えてくれた。返事をすると操られるけど、何かの衝撃で解除できるらしい。
「ところでなんでチアの格好してるんだ?」
「峰田くんと上鳴くんのせいなの」
スカートを持ち上げてため息をつくと、尾白くんが私の手を押さえて「それ以上スカート捲くっちゃダメだよ、緑谷は女の子なんだから」と真剣に説教された。尾白くん、なんだかお父さんみたいと言うと、苦笑いしてた。
「緑谷はもっと警戒心を持った方がいい」
「・・・?」
尾白くんはひらりと手を振って控室を出ていった。
体操服にまた着替えて、一回戦に出るため通路へと移動する。そこにオールマイトがやってきて激励してくれた。不安な時こそ笑って臨むんだと。
『一回戦!!普通に可愛いヒーロー科!緑谷なまえ 対 ごめんまだ目立つ活躍なし普通科!心操人使!』
「わかるかい緑谷なまえ。これは心の強さを問われる戦い。強く想うビジョンがあるなら、なりふり構ってちゃダメなんだ・・・あの猿はプライドがどうとか言ってたけどチャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」
「ーーー!!なんて事言うのよっ!」
心操くんの言うことが、許せなくて尾白くんにアドバイスされてたのに返事をしてしまった。身体が動かない。これが彼の個、せい・・・
『緑谷完全停止!?ぽかんとした顔も普通に可愛いがビクともしねえ!心操の"個性"か!!?』
「恵まれてていいよなァ、緑谷なまえ。振り向いてそのまま場外まで歩いていけ」
「・・・」
うう、なんでだろう。身体が勝手に動いてる。頭にモヤがかかってるみたい。折角尾白くんが忠告してくれたのに。全然止まらない。
場外に人影のようなものを見た。あれは一体何だろう。幻覚だろうか。人影を見て頭が一瞬冴え渡ったその時、指が勝手に動いて個性が暴発した。衝撃で洗脳が解かれて、元に戻った。ズキズキと痛む指を抑える。
心操くんが私を恵まれてると言う。
違う、私はずっと無個性だったし、恵まれてなんかなかった。オールマイトにあの時出会わなければ今だって泣き虫でノロマで愚図な緑谷なまえのままだ。個性に恵まれたんじゃない、人に恵まれたんだ。心操くんの気持ちはよくわかる。だからこそ絶対負けられない。
心操くんに向かって走り出した。心操くんを突き飛ばそうと突進するが、個性を使わなければやっぱり男の子に力では勝てない。押し合いになったときに心操くんに殴られた。その腕を掴んで背負い投げで場外に飛ばした。
『二回戦進出!!緑谷なまえーーー!!!』
大歓声の中、心操くんは悔しそうな顔をしている。
「心操くんはなんで、ヒーローに?」
「憧れちまったもんは仕方ないだろ。顔殴って悪かったな・・・俺も必死だったんだよ。今回はダメだったとしても絶対諦めない。ヒーロー科に入って資格取得して、絶対お前らより立派なヒーローになってやる」
「っ!うん!心操くんは強かった!また戦おう!」
「・・・普通、俺の個性知った奴は構えるのにお前全然警戒心ないな。女なんだし、ちょっとは警戒しろよ。そんなんじゃすぐ足を掬われるぞ?」
「うんっ!分かった!あ・・・」
「・・・」
心操くんは、何も言わず呆れた顔して踵を返して退場していった。
退場して、リカバリーガールに指と頬を治療してもらった。心配して見にきたオールマイトに、人影のような幻覚が見えたことを伝えた。8人か9人くらいでオールマイトのような髪型の人もいた。ワン・フォー・オールを紡いできた人たちの意思みたいなものなのかな。
その後の試合はどれも凄いものだった。
麗日さんはかっちゃんと試合することになってる。私にも容赦ないかっちゃんのことだ。麗日さんにも全力で爆発させるだろうな。控室で準備をする麗日さんに話しかける。
「皆夢のためにここで一番になろうとしてる。かっちゃんでなくても手加減なんて考えないよ。私だってさっき顔殴られたし。私は麗日さんにたくさん助けられた。そこで麗日さんの個性でかっちゃんに対抗する策を考えたんだけど」
「ありがとう、なまえちゃん。でもいい」
自分の力で挑むと決めた麗日さんはかっこいい。かっちゃんも勝ってほしいけど、ここは麗日さんを応援しよう。いつも私を信じてくれてた大事な友達だもん。
「決勝で会おうぜ!」
そう言って出ていった麗日さんは、かっちゃん相手に物凄く頑張ってた。けどキャパオーバーで行動不能になってしまって負けた。小型の搬送ロボによりリカバリーガールの元に運ばれる麗日さんをみて涙が出てきた。本当にかっこよかったよ。
通路を歩いて控室に行こうとしていると、かっちゃんにバッタリと会った。
「あ、か、かっちゃん、一回戦おめでとう」
「んだよ、てめェちゃんと治してもらったのかよ」
「え、治してもらったよ?」
かっちゃんが近づいてきて私を壁に追いやると、私が心操くんに殴られた左頬にそっと触れたと思ったら、つねられた。しかも両頬を。
「てめぇの入れ知恵だろ、あの捨て身のクソ策は。厄介なことしやがってふざけんじゃ」
「違うよ?全部麗日さんがかっちゃんに勝つために考えたんだよ。厄介だと思ったんならそれは、麗日さんに翻弄されてたってことじゃないかな。麗日さんは弱くないよ?」
「っチッ!なまえ、つぎ試合だろ。ま、俺が結局一位になるからお前が負けようが勝とうが関係ねぇけど」
かっちゃんはひとしきり私の頬を触って控室に戻って行った。次の試合は、轟くんと戦うことになる。宣戦布告したからには勝ちたい。
試合に向かう時、エンデヴァーに会った。彼は轟くんを自分の思うままに動かせる人形と思ってるようだった。
「私はオールマイトじゃありません」
「そんなものは当たりま」
「当たり前のことですよね?轟くんもあなたじゃない」
エンデヴァーは冷たい目で私を黙って見ていた。
通路を出て前に進み出ると、格闘場にはエンデヴァーのような冷酷な目つきの轟くんが立っていた。
『緑谷VS轟!!START!』
轟くんは広範囲を凍らせることができる。速攻タイプだから、撃つしかない。指がダメになろうとも。決着は10回までにつけないと後がない。何度もだされる氷結に右手の指全てがダメになった。轟くんは近接で攻撃してこようとしたので咄嗟に左手全体でスマッシュを撃った。
轟くん震えてる。やっぱり寒さには限度があるんだ。
「轟くん、冷気に耐えられる限度があるんでしょ!?それって左側使えば解決できるんじゃないの?私たち皆本気でやってるの!轟くんは半分の力で勝つつもりなの?私まだ轟くんに傷一つつけられてないんだから!全力でかかって来なよ」
「イラつくな」
轟くんがこちらへ駆けてくる。一瞬の隙がみえた。そこに撃ち込む!卵が爆発しないイメージを頭に思い浮かべる。峰田くんをぶっ飛ばしたときみたいに。轟くんに一発ぶちかました。
それでもまだ、轟くんは半分の力で勝とうとしている。
「全力も出さないで一位になって完全否定なんて、フザけないでって今は思ってる!だから轟くんに勝つ!!」
轟くんはそれを聞いて、左側の力を解放して炎に包まれた。
「俺だってヒーローに。何笑ってんだよ。その怪我で、この状況で。お前、イカレてるよ。どうなっても知らねぇぞ」
最後に残ったありったけの力を込める。これが今私にできる全てだから。相討ちになったとしても、負けたとしてもそれでいい。全力を出したのなら負けてもオールマイトは許してくれるはず。
散々冷やされた空気が突然の炎で熱され膨張し爆発を起こした。私の手が轟くんに届く前に吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。私の個性は放たれることなく空振りに終わった。分かってることだけど、氷と炎の力どちらも解放した轟くんは強かった。
気がつけば、私はまたリカバリーガールによって治療されていた。本当にお世話になりっぱなしで頭が上がらない。右手は空振りに終わったので、すっかり綺麗に治ったが、次この様な怪我をしてももう治療しないと言われた。
「すみません、オールマイト。約束果たせませんでした」
「確かに残念な結果だ。馬鹿をしたと言われても仕方のない結果だ。でもな余計なお世話ってのはヒーローの本質でもある」
「ーっ!!」
緑谷なまえ、ベスト8敗退という結果に終わってしまった。オールマイトに、後継者は別に相応しい人がいるんじゃないかと思うと伝えると、オールマイトも無個性だったと明かされた。そんな話一度も教えてもらっていないので慌てふためいた。
「え!そんなの聞いてません!」
「聞かれなかったから言わなかったんだ。君は私の想像を何度も越えてきた。君にしか導き出せないものがあると私は思ってるぞ。それに体育祭はまだ終わってない。しっかり見届けてきな」
全身包帯巻きにされた状態でジャージを羽織って観客席へと向かった。
かっちゃんと切島くんの戦いもかなり激しい。かっちゃんの猛攻により切島くんは行動不能となった。切島くんも、私同様保健室行きとなりそうだ。かっちゃんはどんどん勝ち進んでいき、ついに決勝戦まできた。
轟くんとかっちゃんの対決。かっちゃんに氷しか使わない轟くんに怒ってる。完膚なきまでの一位をとりたいかっちゃんはちゃんと勝ちたいって気持ちを示せと言うかの様に轟くんに猛攻をしかける。
榴弾砲着弾!!
轟くんは氷でかっちゃんの攻撃を打ち消したが場外にでてしまい失神していた。
かっちゃんはミッドナイト先生の個性により眠らされてしまい保健室へ運ばれていた。私は居ても立っても居られなくて、保健室へと向かった。
ベッドですやすやと寝息を立てて寝ているかっちゃんの手を握って髪を撫でた。
「かっちゃん、一位おめでとう」
「ん、なまえ、こっち来い」
寝ぼけているかっちゃんが私の名前を呼んで手を引っ張ってベッドの中に引き込んできた。身体がボロボロになっていて抵抗する間も無くて、私は寝ているかっちゃんに大人しく抱きしめられた。足まで絡ませてきて逃げようもない。この状況に少し戸惑っていたけど、嫌だとは思わなかった。わたしも怪我の治癒の影響で体力をごっそり奪われ疲れて果てていたからかもしれない。かっちゃんの温もりがじんわりと広がって身体全体を包まれる。かっちゃんの腕の中でいつしか眠ってしまっていた。
相澤先生に名前を呼ばれ頭をはたかれて、寝ぼけながら目を擦る。起き上がると、かっちゃんは既に起きていて何故か床に正座をさせられている。私もかっちゃんの隣で正座をさせられた。
「お前ら、ここがどこだか分かってるんだろうな?」
「・・・」
「ほ、保健室?」
「じゃあ、お前らここで何してたんだ」
そうベッドを指差しながら言われて、かっちゃんと一つのベッドで抱きしめられながら寝てしまったしまったことを思い出した。私は顔から首元まで朱色の絵の具を塗りたくったかのように赤くなるのが自分でも分かった。
「爆豪、緑谷、お前ら付き合ってんのか?」
「・・・」
「や、そんな、まさか。つ、付き合ってなんかないです」
かっちゃんが先ほどから何も言わないので、私だけが相澤先生の質問に答えている。かっちゃんは、小さく舌打ちをした。
「今後は付き合ってもない男女が抱き合って一つのベッドで寝るなんて、軽率なことするなよ。付き合ってたとしても保健室のベッドで抱き合って寝るな。わかったか?」
「は、はい。すみませんでした・・・」
相澤先生に見られたなんて今すぐこの場から消えたくなるくらい恥ずかしい。ちらりと盗み見たかっちゃんの横顔は、何もなかったかのように涼しげだった。
「・・・そんなことより、轟はどうしたんだよ!俺はあいつと再戦してェ!!あんな試合認められねェからな!!」
相澤先生は首を振った。答えはNOだ。
「はァ!?俺は完膚なきまでの一位になるんだよ!!なんで再戦できないんだよ!!あいつんとこ行ってくるわ!!」
かっちゃんが物凄い勢いで保健室を飛び出して行こうとしたが、先生に捕縛されて暴れ出した。かっちゃんは結局表彰式でもガチガチに拘束されたままだった。
三位に、常闇くんと飯田くん。だけど、飯田くんのお兄さんが敵にやられたとの連絡が入り、飯田くんは早退してしまったらしい。どうか無事であってほしい。
二位は轟くん。そして本人は認めていないがかっちゃんが一位になって、選手宣誓のときの伏線を回収した。
長かった1日が終わった。
「皆さんご唱和ください!!せーの!」
「Puls Ultra!「お疲れ様でした!!!」
え、そこはPuls Ultraでしょ、オールマイト。
皆につっこまれながらも、雄英体育祭は幕をおろした。本気で夢を目指してる仲間たちに鼓舞されたし、もっと私も頑張らないと。
帰宅して聞いた話だが、母は心配で大泣きしてティッシュを二箱消費し、七回も気絶したらしい。私なんかより壮絶だったようだ。