勘違いと優しさ
嘘の災害や事故ルーム、通称USJでの敵との遭遇は本当にギリギリのところで助かったけれど、後少しでも応援が遅れていたら私はきっと死んでいた。それに梅雨ちゃんやかっちゃん、クラスの誰かが死んでいたかもしれない。あの時私たちはプロのヒーローが戦っているものの片鱗を見たにすぎないのだ。今後プロのヒーローとしてやっていくなら、そういう場面にこれから幾度となく出くわすのだろう。今回は幸いにも誰一人命を落とさことなかったが、もしかしたらそういうことが起きるかもしれない。そうなったとき私は耐えられるだろうか・・・
まだ保健室から出られない私は、保健室の割にふかふかのベッドの中で、付き合いはまだ浅いが大事なクラスの仲間たちの顔を一人一人思い浮かべながら眠りについた。
「んん〜かっちゃん・・・ぷはっ」
なんだか苦しくて目を開けると、誰かが側にいて鼻をつままれていた。目を擦って上体を起こすと、かっちゃんが椅子に座ってこっちを見ていた。苦しさの原因と側にいる人が誰か分かって驚きのあまり鼓動が激しくなった。それはもう不正脈だと言われてもおかしくないくらいにドクドクと心臓が鳴っていた。そして心なしかかっちゃんの顔が赤い。熱でもあるんじゃ・・・あ、だから保健室にいるのか。
「ぁあ゛!?人の名前呼んでおいてなんだよその顔」
「えっ、よ、呼んだっけ?」
「・・・」
「かっちゃん、どうしてここにいるの?顔赤いし熱でもあるじゃない?」
「うっせぇよ。熱なんかねぇわ!先生に、家の方向同じだから送ってやれって言われたんだよ!!敵が出た直後だし、てめェは怪我したばっかだから一人じゃ危ねェって。仕方ないから送ってやるよ。さっさと起きろカス」
かっちゃんが手を差し出してる。手を繋ぐってことかな?と思ってそっと手を重ねると、かっちゃんが私の手を握り返してこれでもかと力を入れてきたし、掌で小さく爆発が起こった。
「いたっ!」
「・・・」
かっちゃんは何も言わず私のリュックを引ったくった。もしかして、荷物持ってやるよって意味だったのか。やらかした。小さい頃に戻りたいって言ったのを覚えてて手を繋いでくれるのかとばかり。手を引っ込めようとしたけど、かっちゃんは離さなかった。保健室から出ると敵が現れた日の放課後ということもあって校舎にはほとんど生徒は残っていなかった。
黙ったまま、下を向いて歩いた。盛大な勘違いをしてしまってたのに、付き合ってくれるかっちゃんは何だかんだ根が優しい。
私はその優しさに甘えてしまっている。でも、私のこういう所がかっちゃんを苛立たせてるのかもしれない。はやくワン・フォー・オールをものにしてかっちゃんと肩を並べて敵と戦えるヒーローになりたい。
かっちゃんは私の足を気にして歩幅を合わせてくれてるようだった。
「あ、あのかっちゃん、リカバリーガールがちゃんと治してくれたから普通に歩いても大丈夫だよ?」
「うっせぇな、わーっとるわそれくらい」
「ご、ごめん」
かっちゃんと手を繋いだまま、電車に乗って私たちが住む街の最寄駅に着いた。改札でなんとなく手を離して、少し離れて歩く。地元だから私たちが手を繋いでたらヘンに思われるし、揶揄われるかもしれない。
かっちゃんと私は仲違いしてると思われてるし、実際そうだった。最近は少しだけかっちゃんとの確執の溝が埋まってきてるような気がする。このまま、また昔のように仲良くなれたらいいのに。
かっちゃんは本当に私の家まで送り届けてくれた。お母さんが家から出てきて、かっちゃんがいることに少し驚いてた。けど、嬉しそうにしている。
「かっちゃん、久しぶりね。なまえを送ってくれたのね、ありがとう。敵が出たって聞いていても立っても居られなくて心配してたの。よかったら上がって」
「や、俺はこれで・・・」
「そう?」
「っス」
かっちゃんはお辞儀して、マンションの廊下を歩いて行った。
「かっちゃん!送ってくれてありがとう!」
振り返ることなく片手を一度あげて降ろした。歩き続けるかっちゃんが廊下の端の階段を下るまで見送った。
リビングに入るとお母さんが、満面の笑みで迎えてくれた。
「かっちゃん、なんかカッコ良くなってたね」
「ん、う、うん。そうだね」
「なまえ、仲直りできたんだね」
「どうなんだろ・・・」
「まあ、二人とも小さい頃と全く同じに元通りってわけにはいかないと思うよ、お母さんは。だって、二人とももう15歳なんだもの。それぞれの考えだってあるだろうし。なまえとかっちゃんのペースでいいんだよ」
「うん、そうだよね。ありがとうお母さん」
小さい頃みたいに、かっちゃんと手を繋いで歩いたなんてとても言えない。まだかっちゃんの手の感触が残ってる気がした。大きくてゴツゴツしてて、私の手とは全然違ってた。
今になって手を繋ぐなんて・・・なんてことしたんだ、と叫び出したくなって自室に逃げ込んでドアに背中を預けて座り込んだ。
その晩はご飯が全然喉を通らなかった。母が「ちゃんと食べなさいよ」と言ってるけど、敵の襲撃のことや、かっちゃんのことで頭がいっぱいだった。
あのとき、敵は平和の象徴であるオールマイトを殺そうとしてた。オールマイトから受け継いだ力をはやく使いこなさないと次こそ本当にオールマイトが殺されてしまうかもしれない。そんなの絶対嫌だ。どうすればいいんだろ。イメージするだけじゃ、力のコントロールの加減がまだうまく出来ない。
オールマイトに指導を乞う前に、一人でやれることをやらないと。まずは衝撃に身体が耐えられるように身体を作っていかなければいけない。そのためにはまず目の前の食事から。
ぼんやりとしていたが急に食べ始めた私を見て、母は少し呆れたように見ていた。
お風呂に入った後、リビングでストレッチをしている時、何気なく母に「かっちゃんが毎朝一緒に学校行ってくれるようになった」と伝えると、母は含みをもたせた笑顔でこちらを見ていた。訝って、母をジッと見つめ返すとようやく白状した。
母は、私に内緒でかっちゃんのお母さんに朝一緒に登校してほしいとお願いしたらしい。それで急にかっちゃんが朝家に来いと言ったのか。合点がいった。かっちゃんのお母さんもノリノリだったらしい。それで見送りの時ガッツポーズしてたのか。
母にはなんでも話しているから友達のようなところがあるが、まさか仲直りできるようにと根回ししてたとは思わなかった。
有難いけど、そこまでお膳立てしなくても大丈夫なのに・・・
「なまえ、あなたのペースでゆっくりでいいんだけど、諦めちゃダメだからね!諦めなければ絶対に道は開けるから!!」
「う、うん?」
「頑張んなさいよ!」
「うん・・・?」
母がなんの応援してるのか分からないけどとりあえず返事しておいた。