好きな人と聞いて思い浮かべるのは一人しかいない。体育館のギャラリーの中、みんなが見つめているのはそう、キャプテンの岩ちゃんこと、岩田剛典くん。このラクロス部のエースでとにかく人気がある。毎日部活の時間が楽しみで仕方の無い岩ちゃんガールズ達がギャラリーを埋め尽くす。私もその中の一人で、ひたすら岩ちゃんだけを目で追っていた。岩ちゃんがシュートを決めると物凄い歓声があがって、次の瞬間岩ちゃんの視線が飛んでくる。ギャラリーに向かって笑顔で手を振る岩ちゃん。
「応援ありがとう!」
はぁー。溜息がもれる。なんて素敵なの。なんてなんて、かっこいいの。この世にあんな完璧な人がいるなんて。笑顔で汗を拭ってまた試合に戻る岩ちゃんをただ見ているだけでも幸せだったんだ。
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「あー。」
「えっ!?がっ、…」
「どーも。」
ニコッと微笑む彼、岩ちゃん。私の真横に立っていて、同じものに手を出している。帰り道にある図書館。ここで宿題をやって帰るのが私の日課になってた。まさか、岩ちゃんもここで勉強していた?の。
制服の岩ちゃんは見慣れてるっちゃ見慣れているけど、同じクラスになったことのない私はなんていうか、近くて緊張する。参考書に伸ばした手をスっとしまうと、すぐに岩ちゃんがそれを取って私に差し出したんだ。
「はい、これ?」
「あ、うん。ありがとう。」
「いつも応援来てくれてるよね?」
「…見えてるの?そっちから。」
「そりゃ見えてるよ。嬉しいから一応みんなの顔ぐらいは覚えてるつもりだけど。」
「…恥ずかし。」
「はは、なんで?俺普通だよー。ね、一緒にやらない?もしかして鈴木の課題やってない?毎回苦戦すんだよねー鈴木の。」
「あ、分かる。」
「よし、んじゃそっち行くね!あ、名前教えてよ?きみの名前。」
「なまえ。」
「なまえ?よく似合ってる。」
ニコッと微笑む岩ちゃんと、この日を境に私は友達になった。
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