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1口飲んで返すとなっちゃんはスッと手を差し出す。
「食べる?」
「食べる。」
頷くなっちゃんの口元に串を差し出すと私の手を掴んでそのまま自分の方に引っ張って肉を串から抜いた。
「ゆき乃は、慎と勇征どっちにするの?」
屈んで私の耳元で私にだけ聞こえるようにそんなことを言うなっちゃん。見ると八重歯を見せてハニかんでる。なんかちょっとずるくない?その顔。イケメン好きな朝海が落ちたのも分かる気がする。
「なっちゃん私にばっか意地悪だよね?」
悔し紛れにそう言ってやると、またクシャって笑ってポスッとなっちゃんの大きな手が私の頭を撫でた。
「心配してんだよ、ゆき乃の事。俺たちもうすぐバラバラだぞ。」
目を細めて笑うなっちゃんは女みたいな香水がして、朝海のつけてるのかな?なんて思う。そして私はイヴに勇征ちゃんから貰った男っぽい香水を今日もつけている。
だから、なのか、勇征ちゃんのあの朝の温もりが私の身体から離れてくれない。
「俺とゆき乃は離れないから安心してよ、夏喜。」
まこっちゃんが横から口出しする事も、あと数ヶ月で無くなってしまうと思うと、やっぱり寂しい。
「ずっとこのままがいい、ずっとこの6人でいたい。」
そんな叶う事のない願いに、なっちゃんは優しく微笑んで、まこっちゃんはふわりと頭を撫でた。
ふと視線を勇征ちゃんに向けると、喫煙所で健ちゃんと話していて、その隣、朝海とは別の女がいて楽しそうに喋っている。
「げ、なにあれ!?」
指差す方に視線を向けたなっちゃんとまこっちゃん。
「ナンパじゃん!」
「最悪。」
串に刺さったままの肉をまこっちゃんに渡すと私は2人の方へと歩いて行く。と、同時、トイレから出てきた朝海も同じ方向に歩いて来た。
「朝海!」
「ゆき乃、」
「勇征ちゃん、ニヤニヤしてムカつく。」
「カミケンまんざらじゃない顔して腹立つ。」
全く私達の存在に気づいていない2人に、後ろから思いっきり腕を引っ張ってやった。
「え、あ、ゆき乃、と朝海も。」
顔面を勇征ちゃんの大きな背中にくっつけた私に若干声の裏返った勇征ちゃんの焦りが見えた。
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