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なんとなく頭に残っている清木場さん。別にこれが恋だとは思っていないし、今清木場さんを見た所でドキドキなんて感情はない。でも一つだけ言えることがあって。ナスのトマトパスタをパクつく梨奈に向かって私は少しだけ身体を前のめりにする。梨奈がチラリを私を見て。


「清木場さんってこの春の異動で来た人なんだけどね。私の直の上司で、その人が偶然光ちゃんに別れ話された時に隣に居合わせて…清木場さんも同じように別れ話で…ちょっと可笑しかったんだ。」

「…キヨキバ?変わった名字だね?」

「うん。山口出身だったっけな?普段はすごく無口で無愛想なんだけど、私が光ちゃんに逃げられたって言ったら、一緒にすんなよって笑ってね…。初めて見た、あんな風に笑う清木場さん。この人笑うんだって思って…。ちょっとだけ知りたいかもって思ったんだよね。」

「…へぇ。」


興味なさそうな返答だけど、梨奈の顔はちょっと楽しそうで。今ほど自分のことを話たがらないと言われたせいか、この心にあるモノをちゃんと伝えなきゃなんて思っているのかもしれない。もちろんそれが恋という名の感情じゃないってことも含めて。でも目の前の梨奈は口端を緩めただけで。え、もっと色々聞いて欲しいんだけど。なんて思いながらぷうっと頬を膨らませて梨奈を見ると、堪えきれずなのか?プって笑った。


「なに?聞いてほしいの?」


なんて続いて、なんだか恥ずかしくなった。確かにそう思っていたけどいざそれを言葉にされるとなんていうか…。


「好きじゃないから…。」

「ぷ。ゆか絶対好きになるよ、キヨキバのこと!」

「呼び捨てしないで。」

「はは、ごめんごめん。また次に会った時色々聞かせてよね?」

「次に会うまで何もないかもしれないけど…。」

「きっとあるよ。」


梨奈の言葉に内心ソワソワしていた心があった。本当の本当に、何もないから。恋じゃないから…。そう思っていた私に飛び込んできたのは、清木場さんじゃなくて、二人目の男だったなんて。



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