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みんなの注目を浴びたのはほんの一瞬で、数分経つとみんな自分たちの話題へと戻っていく。だけど気づいたらそこに光一の姿はなくて。嘘、逃げられた。気が抜けたように椅子に座り込んだ。そんな私を見て「どうした?」なんて聞く清木場さん。てゆうか、挨拶以外ほとんど喋ったことなかったからなんか変な感じ。社内じゃあんまりいい噂も聞かないし。


「いえ。どさくさに紛れて男に逃げられたみたいです、私も…。」


あえて「も」を強調して言っちゃったけど、大丈夫だったかな?もう今更言っちゃった言葉は取り消しなんてできやしないのだけど。
チラリと清木場さんを見つめると、私と目が合った瞬間、クシャッと目尻を下げて笑ったんだ。それから続けてこう言った。


「一緒にすんなよ。」


初めて見た、清木場さんがこんな優しく微笑む所。すごい場面を浴びせられて辛いはずなのに、清木場さんだから笑えるの?


「一緒、です。私も清木場さんも。」

「ばーか。」


ブラック珈琲を飲み干すと私のテーブルに置いてあったレシートもクシャッと握った。


「え、いいです。彼氏の分も入ってますし、これぐらい、」

「元カレ、だろ。いいから黙ってついてこいよ。」


…強引。でも不思議と嫌な気分なんてしない。俺様男は好きじゃない。偉そうで自分を高く見積もっていて。だけど清木場さんが嫌じゃないのは、その笑顔を知ったから…かもしれない。



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