「悪い、ゆかと一緒にいてもつまんねぇーんだわ。俺ら友達に戻ろう。」
瞬きすら忘れて見つめる先のこの男は、たまたま飲んだ席が隣で意気投合して付き合い始めた恋人の光一。確かに顔はかっこよくて喋りやすい。だけどそう思っていたのは私だけだったみたい。つまんねぇってどーいう意味?お前の顔のがつまんねぇし。イライラする。こーいう時、ドラマならこの目の前にあるお水を掴んでバシャッ!!!
「え。」
隣の席でまさに私の気持ちかのよう、革ジャン男が水を被った。
「最低っ。もう二度と会いたくない。」
…すげぇ。まじでやってる人、初めて見た。結構な美人でスタイルのいい女性は殴りはしなかったものの、革ジャン男に水をぶっかけて捨て台詞を吐くとこの店から出て行った。
だけど…―――「え、清木場さん?」ガタンと椅子を後ろに倒す寸前、慌てて立ち上がった私は上司の清木場俊介にタオルを差し出した。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりと私に飛んでくる視線。この春移動で同じ部署になった私のちょくの上司のプライベートがそこにポツンと置いてあった。
短髪から滴り落ちる水を動かない清木場さんの髪をタオルで拭くと「保科ゆか?」まさかのフルネームで呼ばれた。苦笑いで頷くと濡れた革ジャンにタオルを這わせた。だけどすぐに清木場さんの手に遮られて。
「汚れるから、いい。」
小さく呟いたんだ。