片岡くんは、美味しいお店をいっぱい知っている。お洒落な場所から何から何まで…。片岡くんと一緒にいると楽しくて時間が過ぎるのが早い…なんて感じる今日この頃。
反対に、一歩社に入ると清木場さんは急に無口になる。でもそれが普通でいつも通りで。あんな風に私の肩に顎を乗せたり、ふざけて手を繋いだりなんて想像できやしない。私のこのふわふわした気持ちが、果たして数年ぶりの恋と呼べるものなのかどうか…自分でも今だ分かっていない。
「清木場、ですか?少しお待ちくださいませ。」
篤志さんが苦い顔して清木場さんに内線をかけた。さほど清木場さん宛の電話もかかってこないこの部署。珍しい、誰だろ。
「俊ちゃんパリピで何したの?クレームって感じじゃなかったけど。え、はいはい回すよ。」
ピっと内線を切ると清木場さんが電話口に出た。ここからじゃ声も聞えなくてどんな会話が繰り広げられているのかはさっぱり分からない。だから篤志さんを見るとペンをくるくると回しながらニカって微笑んだんだ。
「保科ちゃん、気になる?」
それからちょっとだけ面白そうにそう続いた。ぶっちゃけ気になってるけどそうも言えず、曖昧に笑って誤魔化してみると篤志さんが椅子ごとこちらに近寄った。ガシっと肩に腕を回されて「またまた素直じゃないんだから。」なんて言われた。
「篤志さんあの…。」
「あーいいのいいの、僕野暮な質問はしないから。嬉しいだけだからさ。俊ちゃんがこんな可愛い子見つけられたってことが。」
「あの篤志さん!清木場さんがなにか言ったんですか?」
「まさか、俊ちゃんは真顔で保科ちゃんが使いそうな日用品買ってただけだって。」
…住めばええわ。
そう言った清木場さんの声が脳内に響き渡る。本気だったの?何となく身体が熱くなって。日用品なんて、「保科。」え?顔を上げると清木場さんが機嫌悪そうにこっちを見ている。
「お電話終わったんですか?」
「とっくにな。お前らがイチャついてる間に。」
「は?」
「あーごめんごめん。俺のに触んなって顔だね。気をつけるよ、保科ちゃんに触らないように。」
篤志さんがそんなことを言いながら私から離れるもんだから無性に恥ずかしい。だって清木場さん否定しない。アホか!って言いそうなのに。
「佐藤錦、いつまで待たせんだよ?」
「…へ?佐藤錦?え、清木場さんまだ食べてなかったんですか?」
「悪いかよ。今日は?」
「あ、行きます!」
即答すると薄ら笑って「飯も頼む。」ポンって髪に触れた。そのまま上着のポケットから煙草を取り出すと禁煙所に入って機嫌良さげに煙草を吸い始めた。
「佐藤錦も気になったけど、すごい代わり用。」
篤志さんの言葉にまた身体がカアーッと熱くなった。