episode0

モテル男とモテない男はいったい何が違うんだ?って考えたところ。僕の分析によると、モテル男には二種類いて。一つは、不細工だけど物知り。そしてもう一つ、絵になる男。
不細工な物知りは、例えば美味しいお店のリサーチから流行りものまで徹底的に頭に詰め込んで、ことあるごとに女子を褒めまくる。不細工といえど、毎日褒められていると、どうだろうか、だんだんと素敵に見えてくるらしい。
モテたいが為に知識を頭に詰め込むのは容易ではない。できれば素の自分でいたい。でも僕のように外見がそれほどいいわけではない男は、こっちを磨くべきなのかもしれない。


「篤志、行くぞ。」

「え、もうそんな時間!?」


時計の針はすでに約束の時間の5分前。今日だけは遅刻なんて許されない。隣でパコパコ煙草を吸っていた僕の友でありよき理解者であるこの男はそう、二つ目の絵になるモテ男だった。
女の人の言う「優しい男」とはかけ離れているこいつ。口は悪いし態度はでかい。ヘビースモーカーで趣味はバイク。女なんて当たり前にほったらかしでごくたまにバイクで事故ったりもする危ない奴。僕が女だったら選ばないか?と言われるとそう…
人生においてここだって勝負の時や、どん底まで堕ちた時には何も言わず黙って傍にいてくれるような人の痛みが分かる奴で。
見え透いた優しさなんかよりもずっと効果的だ。普段が厳しい分、弱った時に差し出す手が温かくてかっこよすぎるんじゃないかって、思うわけで。
正直男の僕でさえ惚れ惚れする瞬間があった。
その、思いっきり伝わりずらく、分かりずらい優しさに気付いた女の子たちはみんな僕なんて目もくれずにこいつに夢中になる。
それなのに恋愛という名目を自分の中でかなり下に見積もっているこいつはそう、とにかく冷たいし面倒くさがり屋の為、なかなか長続きがしなかった。
僕達30代半ばでちょうどいい脂ののった売れ筋だっていうのに、こうして二人でしょっちゅうつるんでいるのは結局のところ楽だし、宛もないから。

だけど今日はそう、上司の結婚式という名のお見合いだ。僕は今だに素直に恋ができないこの男をなんとしても実らせてやりたいと思っている。だからってわけじゃないけど、得意な歌で余興をやると上司のヒロさんに申し出た。もちろんこいつには一切内緒で。
この歌を聴いて落ちない女の子がいたら申し出て欲しい。

愛してるなんて間違っても口にしないであろうこいつが、ある一点を見ながら甘い声で甘い歌詞にのせてその想いを伝えているのだから…
あ〜ほらほら泣いちゃってる、ハンカチに顔を埋めて泣いちゃってる。そんな彼女をまた優しげに見つめるこいつ、清木場俊介と彼女の恋は、今から数か月前に始まったのだった――――――。



― 1 ―

prev / TOP / next