「笑顔、ぶっ壊れてますよ、清木場さん。」
「しんど…。抜け出す?このまま飲みに行かん?」
上司とはかけ離れた言葉に思わず吹きそうになる。この人、仕事嫌いなの?そんなことはなさそうだけど…。いつも面倒くさそうな顔してるよね。それでも人が来るとニコリと微妙な笑顔を見せている。顔の筋肉めっちゃ疲れてそう…なんて他人事に思いながらも私も笑顔で対応していく。
「保科、一服つきあえよ。」
とうとう我慢できなくなったのか清木場さんが私の手首をガシっと掴んで半ば無理やり、むしろ強引にこの会場内から外に連れ出した。外にあうベンチに座るとおもむろにネクタイを緩めてポケットから煙草を出した。ジッポで火をつけるその姿がなんだか様になっていてちょっとかっこいい。
「それ、おいしいんですか?」
「は?煙草?」
「はい…。」
「お前吸うの?吸わねぇか。」
「吸いませんよ。でも清木場さんの煙草はちょっとおいしそうに見えます…。」
ほんの一瞬目を見開いたもののすぐにプハって笑われた。それからちょっとだけ楽しそうな顔で右手に持っている煙草を私の前に差し出した。
「え、いや…。」
スッと左手に持ち帰ると、清木場さんの右腕が私の肩に触れる。え!?ドキっとした後、左手と清木場さんが私にグっと近づく。
「むせんで、絶対。口ん中入れてみぃ?」
「でも…。」
「食べたいんだろ?」
「いや…。」
清木場さんの煙草を持つ手が私の口元にあって、それをそっと咥える。
「吸いこんで、」
肺からその煙を吸い込もうとしたら胸が苦しくなってゲホゲホむせた。そんな私を見て隣で爆笑している清木場さん。涙目で咳こむ私に、笑いながらもトントンって背中を撫でてくれる。うーまっず。なんか苦いし、こんなの全然おいしくない。あんなおいしそうに見えたのに。
「死にそうなぐらいまずかったです。もういらない。」
「はは、そうしろ。女が煙草なんて吸わんでええわ。お前には最も似合わんがな。」
「見かけだましです。」
「飲め。」
そう言ってすぐそこにある自販からスポーツ飲料を買ってくれた清木場さん。その優しさにちょっとだけキュンとする。