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「あれ?なんかあった?」


別室に戻った私を見て篤志さんがそんなことを言い放った。え、なんで気づく?篤志さんの洞察力ってある意味清木場さんとかよりすごいかも。苦笑いをする私に目もくれない清木場さんはハムに夢中で。手で掴んでそれを踊り食いするとニカって白い歯を見せて「ばりうまやん。」そんな言葉と共にようやく私に視線を移した。真っ直ぐすぎる視線に思わず心の中を見透かされたような気分になってドキンとする。


「なにも、ないです。」

「なんか顔赤いよ?熱でもある?」


篤志さんの手がふわりとオデコに触れる。至近距離で顔を覗き込まれてドキっとするのは気のせいだろうか。


「篤志、それセクハラちゃう?」

「え?マジで!?」


慌てて両手を上にあげて私から一歩離れる篤志さんにまた苦笑い。もちろんセクハラだとは思ってない。でもまぁ今はそういう時代だから。そもそも相手による気がする。篤志さんならむしろ大歓迎だ、こうして触られるのなんて。そう思っていても言わないけど。


「あの大丈夫です。セクハラも熱もありません。」

「じゃあなんで高揚しとる?給湯室で好きな男とでも会ったか?」


指すような視線で強い口調…のように感じる清木場さんの言葉に気持ちがグラリと揺らぐ。だけど私より先に口を開いたのは篤志さんで。


「俊ちゃん今のはNG。それこそセクハラでしょ。ね、保科ちゃん。」


篤志さんがちょっと困った顔をしていて、清木場さんは煙草スパスパ。別になんてことない言葉だったかもしれないのに、なんとなく私の受け止め方がそうありたいって思っていたのは清木場さんからイライラオーラを見たかったのか…分からないけど。普通に言った言葉であっても自分の気持ち次第でいくらでも変換できてしまうのかと思うと、ちょっと怖いなって思えた。

今ここで片岡くんのことを馬鹿正直に話したとしたら清木場さんは○△商事の仕事を他の人にふるに違いない。そこであの優しげな笑顔を自分以外の人が見ると思うと、心がざわつく。


「好きな男なんていません。私フラれたばっかですし。だから清木場さんも会長の誕生祭誘ったんですよね。」


何故か私の言葉に声なし絶叫フェイスを飛ばす清木場さん。隣の篤志さんも目を見開いていて。チラリと篤志さんの視線が飛んできた私に小さく言ったんだ。


「保科ちゃんだったの、誘ったのって。」


吃驚なのかなんなのか、篤志さんの嬉しそうな顔とは正反対に、清木場さんの動揺する姿を初めて見た、気がする。



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