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「あ、いたいた保科ちゃん今試食会やってるからおいでって、俊ちゃんが。」


篤志さんに呼ばれて会議室に入ると端に清木場さん。煙草片手にお歳暮の物色。私を見て軽く微笑んだ。それから「これうまい。」子供みたいにそう言うから可笑しくて、清木場さんに吸い寄せられるように私は手前に座って彼がお勧めしたハムをパクリと食べた。


「あ、ほんとだ、美味しい。これちょっと焼いて焦げ目つけたら絶対もっと美味しいですよー。」

「ほう、ほなそれやってきて?」

「え?」

「ここで待っとるわ。」

「はい。」


ハムを持って給湯室へ行きながら顔が緩んでいるのが分かる。清木場さんの突拍子のない言動が一々ツボに入ってしまって、なんとなく目で追ってしまう。…やだなんか、梨奈の言った言葉通りになる?いやいや私には片岡くん…。


「あ、ゆかちゃん。」


心で呼びかけたのが通じたのか?給湯室の隣の自販前で煙草を吸っている片岡くんがいた。社内で会うの珍しい。いつも忙しく動き回っているだろうからなかなか会うこともないし。私の登場に八重歯を見せて笑う。


「今お歳暮の試食会やってて、ハムをちょっと焼きにきたの。」

「ラッキー社内で会えるなんて。俺にも食わせてよ?」

「うん、ちょっと待ってね。」

「あ、そうだ。あのさ、今度の日曜日とか空いてる?」

「日曜日?」

「うん。もしよかったら、」

「ごめんね、仕事入っちゃってて。○△商事の会長のお誕生祭。」


私の言葉にキョトンとした後ほんのり顔を歪めた。


「え、誰と?」


片岡くん、知ってるんだって。あのパーティーが同伴だってこと。



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