「ゆかちゃん名刺お願いしたいんだけど。」
その日を境に片岡くんは私を名前で呼ぶようになった。それが当たり前のように思えて、このまま片岡くんと付き合うんだろうなーなんてなんとなく思っていたんだ。
「保科ちょっと。」
顔を上げると清木場さん。ほんのちょっと面倒くさそうな顔のまま顎で奥の部屋へと誘導した。
「あの…。」
私なにかしたかな。ドクンと胸が大きく脈打つ。不安気に清木場さんを見上げると苦笑いで口を開く。
「〇△商事って知っとる?」
「聞いたことぐらいは。」
「会長の誕生祭に呼ばれてて、強制参加で、お前も一緒に来てくれないか?」
え、なに?思わず首を傾げると慌てて首を振る清木場さん。
「女性同伴で。部長にあがったばっかだからすっぽかすこともできん。不本意だけど参加する。それでお前に同伴を頼みたい。」
「…同伴、ですか、私が。」
「あ、いやほら、相手がいる子は誘えないから。」
「そう、ですか。そうですよね、私清木場さんの隣でフラれましたもんね。」
私の言葉に更に苦笑い。そーいうの苦手そうだよね。てゆーか、最初じゃなかったらすっぽかしてたの?自由すぎる。だけどなんだろうか、この胸の高鳴り。清木場さんに誘われたことが仕事とはいえ少しばかし嬉しいなんて。
「えっと私でよければ喜んで行かせていただきます。」
「ほんまか?ありがとう。あーちゃんと礼はするからさ。」
クシャって清木場さんの手が私の髪を撫でた。ドクッて心臓が脈打つ。こーいうこと、する人だったの?…。