「俺送るよ。家どっち?」
帰り際、片岡くんにそう言われた。そうかなって思っていたけどやっぱりで。颯爽と帰って行った田崎くんは早く私と片岡くんを二人きりにさせようって魂胆が見え見えだった。そのつもりで私も来たわけだけど。
「うんでもまだ電車あるし。子供じゃないし大丈夫だよ。」
「分かった言い方変える。もう少し一緒にいたいって思ってる。」
…すごい、直球だ。この人かっこいい…なんて客観的に見てしまう自分がいて。片岡くんのことをそういう風に見たことは今まで一度もないけど、今日一緒にご飯を食べた限りでは嫌な印象なんて受けなかった。まぁたった一夜で何がわかる?って思うけど、直感は大事にしたいと思うし、周りのみんなからも片岡くんに対する嫌なイメージなんて聞いたことがなかった。
「聞いてもいい?」
「なんでも。」
「どうして私?」
「はは、そうくると思ってた。ん〜どうしてかなぁ。保科ちゃん覚えてないかもしれないけど、俺が初めてプレゼンで負けた時、”元気出して、次がある。私は片岡くんのが一番よかったって思ったよ”そう言ってくれて。お世辞でもなんでも嬉しかったんだ。絶対勝ちにいくつもりでやってたから自信もあったし、俺が負けるわけないって。でも結果はそう簡単じゃなくて。周りにはそんな素振り見せなかったけど、内心泣きそうなぐらい落ち込んでて。そんな時の言葉だったから、余計に身に染みたっていうか。それから気になりだして…。後はその笑顔。笑った顔が単純に可愛いと思ってる。そんな理由じゃ納得しない?」
ニコって笑う片岡くんにトクンと心臓が脈打った。現時点でイエスでもノーでもない。でも悪くない。この笑顔は悪くない。片岡くんだって笑顔が可愛い。八重歯が可愛い。どら焼き口が可愛い。そう思う。
「いえ。前向きに検討させていただきます。」
「マジで!?すっげぇ嬉しいっ!」
ガバッて片岡くんが道端で私を抱きしめた。ギャッ!思わずあげそうになった声を堪える。この人感情がすごい豊かっていうか、今時曲がってないっていうか、なんか自然と受け入れちゃいそうだなぁ。
「人が見てるよ?」
「え、あーごめん。えっと今日は家まで送らせて。」
「私の家の場所覚えようって魂胆?」
「バレたか。なんかあったらいつでも駆けつける為に、ね。」
「ふふ、じゃあお願いします。」
私の隣を歩く片岡くんの足取りは軽くて、喜怒哀楽をこんなに身体全部使って表す人も初めてかもしれない。