09

――――――――――――
――――――――
――――

「なんか元気ない?」

「………。」

「保科ちゃん?」


ポンって肩を叩かれてハッと我に返った。私を見ている田崎くんに苦笑いを返す。しまったここ、お店だった。辺りを見回すと間接照明だったり大きな水槽だったりドラマや映画で使われそうなお洒落な場所で。私を見て眉毛を下げている片岡くん。田崎くんと私の3人でご飯に来ている最中だった。


「へ、あ、ごめんね。私ボーッとしてたみたいで。」

「あ、俺迷惑だった?」


眉毛を下げて私を心配そうに覗き込む片岡くんは、明るめの茶髪で天パじゃないけどクルクルしている。つぶらな瞳にどら焼きみたいに大きな口からチラリと見える八重歯が人懐っこくてベビーフェイスなのに低い声で私にそう聞いた。


「全然そんなことないよ。嬉しい…。」

「ほんと?よかった。ずーっと話してみたくて。今日は来てくれてありがとう。」


ニコッと微笑む片岡くんの笑顔は何だか心が落ち着く。ずっと見ていたいなんて思うのはたんに顔が可愛いからだろうか?男の人にそんなこと言ったら怒られちゃうかなぁ。でもやっぱ可愛いって言葉が一番似合ってる気がする。


「いえいえ、お招きありがとうございます。」


小さく頭を下げると安心したように片岡くんが笑った。田崎くんも一緒に3人で色んな話をした。仕事からプライベートのこと。最近光一と別れたこと。今日篤志さんとフルーツパーラー行ったこと。でもでも清木場さんの笑顔だけは言えなくて、というか言いたくないのかもしれない。この期に及んであの優しく微笑む顔を独り占めしていたいのかもしれない。



― 10 ―

prev / TOP / next