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だけど、
「えっ!?ゆき乃、黎弥くんにも手出したのっ!?」
分かっていながら毎回吃驚するマイコにあたしは内心爆笑。このゆき乃さんって人は、ボーイフレンドが沢山いて、決して本命を作らない人だった。勿論ながらボーイフレンドになれる人もちゃんと選んでいて、それは一般的にイケメンと呼ばれる人ばかりだった。
束縛されたらすぐにポイッ…それをみんな分かっているから、ゆき乃に強制なんてできない。でも自分のところに来て欲しい…そんなバトルが毎日繰り広げられているなんて。
まぁ少し前までのあたしもゆき乃と対して変わらなかったかもしれないけど。今はそんなあたしでもたった一人、健太の事だけが大好きなんだ。
「黎弥ってすっごい優しく見えるけど、結構Sかも…。」
「…そんなの聞きたくないよ!もう!」
マイコがぶんぶん頭を振ると、長谷川の好みっていうインナーカラーのグレーが軽く見え隠れした。せっかく好みを長谷川に目一杯寄せているっていうのに、話しかけられないから何も始まらないんだろうなぁ〜って思うんだけど。
運命なんて早々転がってはいないし、ビビっと電流なんてもんも、早々走りはしない。現実なんてものすごく質素で普通だ。
北ちゃんの相手をしながら歩くゆき乃と、その後ろで思うようにいかず自己嫌悪なのか憂鬱な表情のマイコ。そしてその後ろ、階段を下り曲がった所で、下から歩いてきた健太と視線が絡む。
「わお、ハニー!」
途端に笑顔になる健太にあたしは飛びつく。その瞬間、腰に腕を絡めて健太の唇があたしの首筋に押し当てられる。生温い感触がザラリと首を舐めて、ぞくりと背筋がよれた。
「んう、ずるい、」
「もっとずるいことしてあげちゃう。」
ふわって健太の息があたしを掠めて気付くと階段の途中、手すりに掴まったままあたしをそこに閉じ込めて健太のキスが降り注ぐ。
「わお、生キス!写メ撮っていい?」
「だーめ、北ちゃん。ほらいくよ、しばらく終わらないだろうから。」
「ちょっちょっ、さすがに階段はまずいでしょ!ほらみんな見てる!」
「マイコ、そろそろ慣れなよ!」
「いやこんなの慣れてたまるかよっ!」
「あはははは、マイコが切れた!朝海、先行ってるね〜。」
いつもながらの声が辛うじて聞こえたけど、目の前の健太の吐息しか今は耳に入ってこない。
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