年下王子様 | ナノ


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「…やばいな、これ。」


コテージ内にいる翔吾が焦ったように呟く。残るオトナ女子はあと2人。

奥にいる夏喜も口には出さないものの内心焦っていて手に汗がたまる。元々さほど喋る方じゃないからか、やっぱりこーいうのは不利なわけで。小さくため息をつくと、キリっと顔を上げた。

続いて入ってきた3人目のオトナ女子、朝海。

大きな目を見開いて全体を見渡す。


「え、」


思わず口から出た声。だって、テラス席では幸子と壱馬が楽しそうに話している。まぁそこはいい。どーでも。けどその奥、健太とマイコに持っていた鞄を落としそうになるぐらいの衝撃を受けたなんて。

1つ息を吐いて仕方なく歩き出す。一人一人顔を見てスッと横に曲がる。


「夏喜くん、食べよ。」
「…ありがとう。やべ、よかった。超緊張した。」
「こっちも緊張だよー。ふぅー。」


スッて手でソファーを拭いて、そこに朝海を誘導する夏喜に朝海は小さく笑った。

夏喜がホッとしたのも束の間、翔吾と昂秀はもう祈るような気持ちで4人目を待つ。

最後のオトナ女子、シュリンプバーの綺麗系オトナ女子美桜がカツっとヒールを鳴らす。

若干異様な光景を見てその頬を緩ませた。

夏喜の方へ行こうにも朝海がいて苦笑い。

手前に座っている翔吾の前でお弁当を下ろすと「翔吾くん、一緒に食べてください!」思いっきりガッツポーズの翔吾に、テラス前の昂秀がガクンと首を落とした。


テラスの外の壱馬と幸子の話し声が嫌でも耳に入る。


「なんで俺の事選んでくれたん?」
「んー。可愛いかったから。」
「え、俺、可愛いん?ほんまに?」
「うん、あ、ほら、ついてる。」


幸子は壱馬の口端についたサンドイッチのパンの欠片を指で取るとそれをパクッと食べたんだ。途端にカァーって真っ赤になる壱馬。話そうとしていた言葉も脳内から飛んでいったかもしれないなんて。


だけどその奥、背中を向けて座っている健太には見えていないけれど、向かいに座っていたマイコの目にはその光景が見えてしまって。目の前で健太が色々話しかけてくれているにも関わらずそれは右から左へと抜けてしまっていて…


「マイコちゃん?聞いてる?」


健太にちょこっと腕を触られてハッとしたなんて。


「あ、ごめん。もうなんかすごい緊張してて、意識飛んじゃってた。ごめんね、もう1回いい?」
「保育士って大変?」
「あーうん。確かに赤ちゃんから子供まで幅広いからかなり大変。目は離せないし、かといってずっと一人の子だけを見てる事もできないし。でもやっぱり可愛くて子供。ニーって笑ってくれたりすると全部吹っ飛ぶの、疲れも何もかも。」
「…なんかいいね。仕事に対して誇りっていうか、ちゃんと自分を持っててすごくかっこいい。ますます惚れるなぁ。」


…真っ直ぐな健太の視線にマイコの心臓もトクンと鳴った。


「あの、健太くん。」
「うん?」
「第一印象…、そのなんていうか、」
「うん、俺マイコちゃん。」


直球…て言えばいいのだろうか?こーいうのって、言葉にしちゃっていいのだろうか?なんて脳内で思っているマイコに、健太が続ける。


「あのさ、聞いてもいい?」
「え?」
「俺を選んだの、なんで?」


…ドキリとマイコの心臓が脈打った。


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