「ゆきみちゃん、」
「…おはよう直人くん。私先生に呼ばれてるからまたね」
「………」
せめてもの救いは同じクラスじゃなかったってこと。だからクラスに入っちゃえばもう、直人くんだってわざわざ来ない!って思っていたのに、朝一で直人くんに捕まりそうになって、慌てて逃げてきた。
「あーもうっ…」
「おう、どないしてん?うまくいったんちゃうんか?」
聞き慣れた健ちゃんの声に顔をあげる。私の机に手をかけて横向きで座った健ちゃんの腕に顔を乗せた。
「その逆。私達もうダメかも…」
「いやまだなんも始まってへんやろ?」
「もう、始まれないかもって…」
「なにがあったんや?」
「健ちゃん、私って隙だらけ?キスぐらい余裕でできちゃう隙ありまくり?」
なんや急に!ってケラケラ笑う健ちゃんの胸ぐらを掴んで顔を寄せる。ド至近距離で健ちゃんが瞬きしたら睫毛が私の瞼に触れた。
「健ちゃんだって簡単にキスできるじゃんね、もう…」
「いやお前今のはあかんやろ…。俺が俺ちゃうかったら今頃ぶっチューやで?臣ちゃんや隆二やったら今頃ベロベロやで…」
「健ちゃんだもん、ここにいるの。私ばっかり隙だらけみたいに言ってさ。私ばっか…―――キスもできないくせに…」
ハァーって溜息をついたものの、ふと視線を感じて廊下を見るとそこには唖然とした直人くんがいて。スッと目を逸らして戻って行く。慌てて立ち上がって追いかけようとするけど、グッと腕を掴まれる。
は、なに?
「なによ?」
「いやわからんけど、なんや行かせたない」
真剣な健ちゃんの顔に、手を振り払ってバッチン両手で頬を叩いた。
「キス未遂ぐらいで惚れないでよ!」
苦笑いを返す健ちゃんを置いて直人くんを追いかけた。