「たく、世話やかせやがって。さっさとくっついちまえよな!」
ポンッて黒沢先輩に頭を撫でられると、あからさまに直人くんが嫌そうな顔を見せた。これっていわゆるヤキモチって奴?聞いたら答えてくれるかなぁ、直人くん…。筋トレは定例メニューを終えた生徒から各自解散だった。残ってやるもよし、さっさと帰るもよし。直人くんはいつも遅くまでやっているからきっと今日もやっていくよね?
「直人くん、私待っててもいい?」
腕立て伏せをしている直人くんの横にしゃがんでそう聞くと直人くんが身体ごとこちらを振り返る。ペタンって床にあぐらをかいて座る直人くんは汗だくで。それがなんだか男臭くてドキドキしてしまう。
「うん、送ってくよ」
「うん…」
だから、夢中で筋トレを終えた直人くんと一緒に帰る頃にはもうこの体育館には誰も残っておらず、雨もかなりの本降りになっていた。
「ごめんゆきみちゃん!遅くなっちゃった。つか雨すげーな…」
ザーザーまるでバケツをひっくり返したかのようなこの雨に、外に出る気も失せそうで。絶対傘指しても意味無いよね、これ。
「濡れるよね、これ。直人くん傘持ってる?」
「持ってねぇ」
ケラって笑う直人くんは濡れる気満々なのか、制服を鞄に突っ込んでジャージのままだ。
「じゃあ私の傘に入れてあげるけど、折り畳みだから期待しないでね…」
「いーって、ゆきみちゃん風邪でも引いたら困るし!俺バカだから風邪引かねぇし!」
「え、やだ。私だって直人くん風邪ひいたら困る!」
ムスッと直人くんを見ると、ほんの少し余裕な表情で私を見ている。
「困る、の?ほんとにー?それって、どーいう意味?」
口端を緩めて聞く直人くん。ちょっと待って、私になに言わせる気?て、ゆーか、近い。
「直人、くん…あの、近い…」
「俺のこと、好きなの?ゆきみちゃんてば!」
「えっ!?」
「じゃあ俺達両想い?」
「え、直人くん?」
「ねぇ、キスしていい?」
うそ、でしょ!?