でも、私と黒沢先輩を交互に見て、それからスッと目を逸らす。え、なに?なんで?
「直人、くん、」
「…ん?」
そっけない声と態度。私の方を振り向きもせず、腹筋を始めた…なんでそんな態度?困惑する私を余所に、黒沢先輩は声を殺して笑っている。
「わかりやすいな、直人」
なんて言葉。それから黒沢先輩も床にゴロンっと寝転がると「ゆきみ、足押さえてろ」私を使う。マネージャーだから仕方ないけど、直人くんの足押さえたいのに。
「…はい」
ギュっと足首を掴むと、黒沢先輩が腹筋を始めた。まるで競うように何度となく腹筋を繰り返す二人。いつの間にかギャラリーはこの二人に注目していて。ハァハァ乱れた呼吸をしながらも両者一歩も譲らない。
「あの、先輩?」
「いいから黙って見てろ」
そんなこと言われても。みんな思い思いに応援しているけど、私には直人くんの呼吸しか耳に入らない。
もうやめなよ、もういいよ…
そう言いたいけど、黙ってろって先輩が言うし。でも…腹筋を開始してから初めて直人くんが私を見た。赤い顔で、少し苦しそうな顔で、ジッと私を見つめている。思わず「頑張って」声が漏れる。次の瞬間、ふわりと微笑んだ直人くんは、どこにそんなパワーあったの?ってくらいの勢いで腹筋を繰り返す。みるみる黒沢先輩の回数と差をつけていって…
「も――無理っ!俺の負けだよ、直人っ!」
バタンって大の字で黒沢先輩が床に倒れこんだ。
ワ―――!!って歓声があがる。みんなが直人くんに近寄って激励の言葉をかけている。ヘラヘラ笑いながらも直人くんが私を見ているのがわかった。私のための、勝負だったの?これって。