そうして迎えたOB戦。
全くもって完治していない直人くんの右手。朝一で直人くんの家に顔を出した。
「あらーおはよう!直人に?今部屋にいるからあがってって!」
直人くんママにそう言われて家に入る。部屋に案内されてドアの前、ノックをして開けるとシャワーを浴びたのか、濡れ髪の直人くんが振り返る。
「えっ、なんでっ!?」
心底驚いた顔で私を見ていて。なんだか急に恥ずかしくなる。
「あの、おばさんがあがってって、ごめんね、迷惑だよねこんな朝っぱらから…どうしても渡したいものあって…」
タオル片手にちょっと照れながらベッドに腰掛ける直人くんはそのまま私にスッと手を伸ばした。両手を広げていて…―――これはその、ハグ?ツツツっと歩いてその腕の中に小さく収まる。
「ふはっ!」
直人くんの笑いの後、ギュッと抱きしめられた。ドキドキ心臓が音を立てていて、胸元に顔を埋める直人くんの濡れた髪にそっと手を乗せると、更にきつく抱きしめられた。
「直人くん…恥ずかしい…」
「なんで?」
「なんでって、こーいうのって」
恋人同士がやること、だよね?私達まだ違う。
「いーじゃん、ダメ?俺ゆきみちゃんの温もりが今必要…」
「…今だけ?」
「え?もう、試合終わるまで待てって言ってんじゃん!欲しがりだなぁーゆきみは」
そう言って顔をあげる直人くんが思うよりも近くて、ちょっと屈めばキスもできそうで。思わず視線は直人くんのどら焼き型の唇に…
「チューしたいの?」
不意にそう言われてバッて離れる。真っ赤な顔の私を見てクスクス笑っている直人くんは、いつもの直人くんで、そんな直人くんがただ嬉しいんだ。
「…まだ、しないもん」
唇を押さえてそう言い返すとニヤって笑って「まだ、ね?」楽しそうにタオルで髪を拭く。
「そんなことよりこれ!」
これを渡すために朝早くここに来たんだから私は。必死で探した四葉のクローバーを高級ティッシュに包んでそれを直人くんの右腕についているリストバンドに重ねる。
「どうか守ってくれますように…」
そこに祈りを込めて握りしめると、そんな私ごと直人くんがまたふわりと抱きしめた。