「直人くん!」
「…ゆきみちゃん」
気まずい顔で、それでも私の前に姿を見せた直人くんは、制服の首元にネクタイを締めていた。学年ごとに色の違うこのネクタイ。3年の私達はブルーのネクタイで。思わず視線をネクタイに奪われていると「あのさ…」直人くんに呼び掛けられる。
「俺の、せい?」
「え?」
「俺のせいでゆきみちゃんその…」
…1週間の謹慎のことだよね。直人くんは自分の責任だと思ってるの?それってつまりは…
「うん…直人くんのせい」
そう言った私に、直人くんはネクタイを外すとそれをおもむろに私に差し出した。
「隆二でも健二郎でもなく、俺にしろよ」
ハッキリと直人くんの声で届いた言葉に胸の中にあったモヤモヤが薄れていく。素直になることはそんなに難しいか?って隆二くんに聞かれた時、いつだって直人くんからの逃げ道を探していたのかもしれないって。だからお姉さんぶって別にどうってことないって思っていたのかもしれないって、そう思えた。相手が隆二くんみたいな大人の考えだったら私もそれなりに素直になれるわけで。でも私の相手は大人じゃない、直人くんだ。何度からかわれても直人くんしか好きになれないのはもう分かってる。
「うん。直人くんがいい。ずっとそう思ってきた」
「…本気、だよね?」
「本気だよ。これさっき見つけたの、見て?」
ポケットに仕舞い込んでいたそれを直人くんに見せた。
「四葉?すげぇ!幸運のクローバーだ!」
「一緒に勝とう、OB戦。勝って笑顔の直人くんに逢いたい…」
「うん。俺さ、ちゃんと言うから。試合に勝ってちゃんとゆきみちゃんに言いたいことあるからさ、それまで待っててくれる?」
「…それって私が喜ぶこと?」
「…喜ぶこと!」
鼻の頭をチョコっと指で突かれて笑う。絶対の絶対に告白だと思うけど、私が喜ぶ=好きって方程式が直人くんの中で成立しているわけ?
なんか、ずるい。でも、嬉しい。
「じゃあ待ってる」
「おう!」
そうして、謹慎処分中の私だけど、学校と部活が終わった後、直人くんと二人きりでの練習が始まった。