高校3年夏。
甲子園の予選敗退した我が目黒高校野球部は、3年の引退を間近に控えてOB戦までの間、去年まで現役だった先輩達がよく顔を出しに来ていた。マネージャーの私も当たり前に引退な訳で。高校最後のこの輝かしい時を目に焼き付けておかなきゃって思っていた。
現役生は男女交際禁止だった野球部だから、私達3年はたぶんもう恋を解禁しているはず。1、2年とは違うメニューをこなす直人くんは、引退を前にちょっと髪が伸びていてた。
「直人くーん、帰らないの?」
「えっ!?帰る帰る、つか待って、一緒に帰ろうよっ!3分で着替えるから待ってて!」
部室に全力疾走する直人くんの後ろ姿を見てクスっと笑った。ほんっと、可愛いんだから、ずるいの。
「あれ?まーだ付き合ってなかったの?お前ら!」
「ちょ、黒沢先輩、重いっ!それになんですか、その質問。余計なお世話なんですけど…」
「だってどー見ても好き同士だろ、お前ら。さっとヤッちまえよ?」
「もー下品!直人くんと先輩を一緒にしないでください!」
黒沢先輩は唯一私の気持ちを知っている先輩だった。絶対にバレないようにってしていたはずだけど、現役の時既にバレていた。それでよくよくからかわれることも多く、外見の怖い黒沢先輩だけに、私と付き合っているって思っている人も多くて。だからあんまり絡みたくないんだけどなぁーなんて。いや、直人くんの前限定で。黒沢先輩と話してるのは楽しいから、直人くんにさえ誤解されていなければいいな!って。
そんな私の片思い歴、三年目突入。
この想いを実たせるために、わざわざどぎつい野球部のマネージャーを買って出たから、絶対に実らせたい…―――のに。
「お待たせっ!はい、手貸して」
「え?」
「手、繋ご?ダメ?」
…それって嘘?本気?ジャッジを脳内で探っていたら直人くんがヘラって笑って「ばーか、冗談だよ!」そう言うと、鞄を肩にかけて歩き出した。わかっていても毎回騙されてしまうのは、惚れた弱みって奴なのかなぁ…