どんなことがっても、一晩眠れば元に戻っていて、私と直人くんに限ってこんな絶縁みたいなことは絶対にありえないと勝手に思っていた。クラスが違っても部活で逢えば楽しく話してって…
「健ちゃん、バイク乗せて?」
「…え?バイク?ええけど…」
不良要素のない健ちゃんが唯一不良の真似っこしているのがバイクで。じつは毎日バイクで通っていることを私は知っている。
「お前部活どないした?OB戦近い言うてはりきっとったやないかい?」
「うん、もういいの…もう疲れちゃった…」
「…分かった、なんも聞かへん、ついてきぃ」
スッと私に差し出された健ちゃんの大きな手。それをギュっと握ると想像よりも温かくて涙が零れた。私が泣いてることをわかっていても何も聞かないでいてくれる健ちゃん。そんな健ちゃんの背中に隠れるようにして私は高校三年にして初めて部活をさぼったんだ。
「さすがに俺も疲れたわ…ちょう休憩。お、ええとこに休憩場所があるやん!」
何故かホテル街にバイクを止めた健ちゃん。ぶっちゃけ投げやりで、このまま健ちゃんの好きに抱かれてもいいや…なんて気持ちがないわけじゃない。直人くんだって、あの幸子ともう…―――「いいよ、入ろう!」健ちゃんの手を取って一歩そこに足を踏み入れた時だった。
「おいそこの制服二人!何やってんだこんな場所で。どこの学校だ!?」
お巡りさんに呼び止められて、バイク置いて走ろうとする健ちゃんの手を放した。
「あほ、お前っ!」
優男健ちゃんは離れた私の手を取りにきて、お巡りさんの質問にきちんと答えていく。当たり前に学校に報告がいって、迎えに来たのは担任の横山。さっき土田くんに思いっきりぶん殴られていた横山が、腫れた頬を隠し切れずに青タンまみれの顔を出した。
「全く何やってんだ、お前たち…。ご両親には私から説明致します。申し訳ございませんでした」
そのまま1週間の謹慎処分をくらった。
直人くんの高校最後の試合が、ものの見事に散った。3年間の集大成で、勝利を見たかったのに。なにが悪かった?どこで間違えた?どうして真っ直ぐにレールを歩けないのだろう。悔しくて悔して涙しかできない。そんな私のスマホがポロンと音を立てる。LINEの着信が鳴っていて画面には【RYUJI】の文字。隆二、くん?
「…はい」
【塞ぎ込んでる?掲示板見て迎えに来た。気晴らしにドライブ行こうよ?】
「…謹慎なのに外出ていいの?」
【バレなきゃいいっしょ!おいで、連れ出してあげる。つーか今ゆきみちゃん家の前なんだよねぇ、俺】
「えっ!?」
カーテンを開けると銀のどでかいバイクに跨った隆二くんが私に気づいて手を振った。うそ、健ちゃんのバイクより全然かっこよくてお洒落!ちょうどママも買い物に出掛けていたこともあって私は慌てて黒のカーディガンを羽織ると外に出て行った。