「まだ付き合ってなかったの?お前ら」
話を聞いていた臣くんの第一声は、黒沢先輩と同じだった。健ちゃんは何故か何故か眉毛を下げてかっこつけている。
そして私の心は、とても痛い。
悔しいけど、くっそ、痛い。
バカ直人!
「もうやめたら?そんな女心分からん男。この際俺にせえや?」
「断る。健ちゃんはお友達としてしか見れない。だったら隆二くんがいいっす」
「はは、じゃあさ、隆二にも協力して貰って直人に告らせようぜ!隆二とゆきみが仲良くしてるの見て焦る直人、俺見たい!」
超、人事の臣くんだけど、恋を馬鹿にする奴じゃなかった。むしろ協力的な臣くん。相手が臣くんだったら素直に言えたんだろうか?
「なんで私、直人くんみたいな面倒くさい奴好きになっちゃったんだろう…」
小さく呟くとポスっと臣くんの手が私の頭に乗っかる。だから視線を臣くんに向けるとさわやかにイケメンが微笑んだんだ。
「ばーか、そんなもんだろ恋愛なんて。まぁでも健ちゃんを選んでも楽しいとは思うけどね?」
「…それは、ない」
「言うなぁ、ゆきみが!」
「面倒くさいから絶対私のこと好きにならないでね?」
私だって思うよ、健ちゃんが彼氏だったらきっと毎日楽しいだろうって。でも違う。こんなにも胸が苦しくなるのはやっぱり直人くんだけなんだと。
その日の帰り、部活に行こうとした私を隆二くんが呼び止めた。
浅黒い肌と真っ黒な髪。分厚い胸板と、真っ白い歯が眩しい笑顔で「ゆきみちゃん!」って。まさかの直人くんが教室から出てきた時で、これを見計らって隆二くんは声をかけたんじゃないかって思った。
「…え、私?」
「うん。臣から聞いてさ。これ映画のチケット明日までなんだよね。今日部活終わったら一緒に行かない?」
さり気なく私の腕に触れている隆二くんの温もり。香水なのか何なのかいい匂いが鼻をつく。足早に目を逸らして私達の前を通り過ぎた直人くんだけど、階段を降りようとして足を止めた。クルリと振り返ってこっちにやってくる。え、なに?
「試合近いから自主練付き合えよ!」
隆二くんというよりは私にそう言う直人くんは、隆二くんが軽く触れていたそこを払うように私の腕を取った。いつもより2トーンぐらい低いその声にドキッとする。
「直人、くん?」
「他の女と行けよそれ。ゆきみちゃんずっと空かないから」
「出直すよ」
ポンポンって隆二くんは全然余裕の顔で私に微笑むとスマートに去っていった。ハァーって大きく溜息をつく直人くん。
「勝手に決めた?私の予定、」
「決めたよ、悪い?」
「…悪…く、ない…」
あれ、何か私素直?言えるじゃんね、素直に気持ち。答えた私に直人くんもぷって笑った。
「行くぞ」
「うん」
離された手がちょっと寂しいけどさっきまでのモヤモヤはすっかり消えていたなんて。