「直人くんっ、直人くんってば!」
早歩きで移動する直人くんを全力疾走で追いかけた。名前を叫んだら溜息をついて止まった直人くんの背中に後頭部から突っ込んだ。
「いってぇ、たく、なんだよ、ゆきみちゃん…」
「なんで怒るの!?ねぇ、ヤキモチ!?健ちゃんとはキスしてないよ!直人くんが
「俺には関係ねぇし!」
言葉を遮られて、掴んだ腕を振り払われた。すごい怒った顔してるのに、関係ないの?
「ゆきみちゃんが健二郎とキスしようと、アキラ先輩と付き合おうと俺には関係ないっしょ…」
すごく冷たい目だった。いつだって優しいと思っていた直人くんのこんな攻撃的な目は初めてで…悔しくて悲しくて誤解してるってわかってるのに、なんでか言葉が出てこない。そんなんじゃない!って、二人とも違う!って、言わなきゃなのに動けなくて…
「じゃあね…」
私の言葉を聞くことなく直人くんが教室に戻って行った。たまたま通りかかった臣くんが私達を見て「なに?痴話喧嘩?」肩をポンって叩かれて、その瞬間固まっていた身体の呪縛が解けたように、涙が溢れ出した。
廊下の真ん中で突っ立って泣く私に、臣くんがギョットした顔で「いや俺じゃない、俺じゃない!」ってここを通る生徒に言い訳しているけど、どうにもできなくて…
「あーもう、健ちゃんとこ連れてけばいい?」
私の手首を掴んでそう聞かれたから小さく頷いたんだ。
「健二郎、ほいっ」
私の背中を押して差し出す臣くんに、イケメン登坂広臣の登場にクラス内の女子が思いっきりざわつく。
「廊下で泣いてたから拾っといたよ」
ポンポンって健ちゃんの前で泣き止めない私の頭を撫でてくれる。
「言わんこっちゃないやん。どうせ意地張っていらんこと言うたんやろ?」
「違う。意地っ張りは直人くんの方だよ!関係ないって…私が誰とキスしようが誰と付き合おうが直人くんには関係ないから!って、ハッキリ言われた。もう立ち直れない…このまま死んじゃいたい…」
子供みたいにしゃくり上げて泣いたのなんていつぶり?ってくらいバカみたいに泣いたんだけど、そこに臣くんがいたからか、誰も私をバカになんてしなかった。